サマーズ前財務長官、大衆迎合的な独占禁止の推進に警告

ローレンス・サマーズ前財務長官は、プライベート・エクイティを軽視する今週の発言など、米反トラスト法規制当局のポピュリズム的傾向を懸念し、この傾向は経済に悪影響を及ぼす可能性があると警告している。

サマーズ前財務長官、大衆迎合的な独占禁止の推進に警告
2016年9月30日(金)、東京の日銀本部で開催された日本銀行とカナダ銀行主催のワークショップで、メディアとの質疑応答で話すローレンス・"ラリー"・サマーズ前米国財務長官(写真提供:日本銀行)

(ブルームバーグ) --ローレンス・サマーズ前財務長官は、プライベート・エクイティを軽視する今週の発言など、米反トラスト法規制当局のポピュリズム的傾向を懸念し、この傾向は経済に悪影響を及ぼす可能性があると警告している。

サマーズ氏は、ブルームバーグ・テレビジョンの 「ウォールストリートウィーク」でデービッド・ウェスティン氏と対談し、「事実、経済科学、消費者に基づいた反トラスト政策をとることが非常に重要で、ビジネスに対する敵意や怒りといった一般的な感情に基づいてはならない」と述べた。「私は率直に言って、それを心配している」

司法次官補のジョナサン・カンター氏は2日、ニューヨークでの講演で、「企業の力は、同胞が懸念し混乱するレベルまで高まっている」と述べた。「毎日のように、競争を保護するための法律がどのように間違ったのか、反トラスト法施行を活性化するためにはどうしたらいいのか、と聞かれる」と述べた。

カンター氏はまた「消費者福祉基準は、労働者や農家、その他多くの意図された利益や競争経済の受益者に対して盲点がある」と述べた。

サマーズ氏は、政府の反トラスト法の使命を拡大することは危険であると警告した。

「危険なポピュリズム」

ハーバード大学の教授であり、ブルームバーグ・テレビジョンにも出演しているサマーズ氏は、「我々の経済の将来にとってひどく見当違いであり、潜在的に危険なのは、人々が冗談で『ヒップスター反トラスト』と呼ぶ一連の学説である」と付け加えた。「これは、反トラストは消費者の利益を最大化するためではなく、他の抽象的な目的のためにあるべきだという理論だ」とサマーズ教授は言う。「これは一種の危険なポピュリズムに簡単に傾いてしまう」

フィナンシャルタイムズ(FT)とのインタビューで、カンター氏は、プライベート・エクイティ企業は「ある産業を空洞化させたり、巻き上げたりして、本質的にキャッシュアウトすることを目的とした」取引を行うことがあると述べている。このようなビジネスモデルは、「我々が守ろうとしている競争と非常に相反する」とカンター氏はFTに語った。

司法省の反トラスト部門の責任者であるカンター氏は、独占を生み出す恐れのある合併を見たら、それを阻止すべきだとサマーズ氏は言う。同様に、「不適切で排他的なビジネス慣行」に従事していると思われる企業を起訴すべきだ、とサマーズ氏は述べた。

「しかし、株主が一般株主かプライベート・エクイティかによって結果が決まるという彼の主張が理解できない」と述べた。

サマーズ氏は、カンター氏のコメントの中には、「率直に言って、FTC委員のリナ・カーン氏が行ってきたポピュリスト的なレトリックの一部に似ている」と指摘した。カーン氏は、大企業の力を制限することを目的とした進歩的な政策や、企業のデータ政策に関する規制を強化することを推進してきた。

Christopher Anstey. Summers Warns on ‘Hipster Antitrust’ Push Eyeing Private Equity.

© 2022 Bloomberg L.P.

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