テスラ事故でマスクが10代運転手の父にお悔やみを伝えるもPL法提訴受ける

【ブルームバーグ】イーロン・マスクは、テスラの激しい衝突事故で死亡した10代の男性の父親と数週間にわたって電子メールをやり取りし、悲しみに暮れる男性の要請に応じて速度制限の安全機能の更新に協力していたことが、裁判所の記録で明らかになった。

4年前、テスラのCEOと父親の間で交わされた約7週間にわたる電子メールは、恐ろしい事故にまつわる顧客対応へのマスクの個人的な関与を垣間見せる貴重なものだ。

バレット・ライリーは2018年5月8日、父親のテスラモデルSのハンドルを握っていたが、時速116マイルでコントロールを失い、フロリダ州フォートローダーデールにある住宅のコンクリート壁に衝突した。車は炎に包まれた。ライリーと、助手席に座っていた友人はともに死亡した。

約24時間後、マスクは父親のジェームズ・ライリーさんにメールを送った。電気自動車(EV)メーカーのCEOは、悔やみの言葉を述べるとともに、ジェームズと話ができるなら話したいと申し出た。「子供を失うことほど辛いことはない」と書いている。ジェームズ・ライリーは、その申し出を受けたいと返信したが、その後、彼と彼の妻はまだ話をする準備ができていないと、再び電子メールを書いた。

それに対してマスクは「わかった」と答えた。「私の長男は、私の腕の中で亡くなった。私は彼の最後の鼓動を感じた」と、生後10週間で亡くなった息子、ネバダ・アレクサンダー・マスクのことを書いている。

このメールのやり取りは、別のテスラの事故に関わる不法死亡訴訟で今月提出された裁判資料に記載されている。原告の弁護士は、テスラの運転支援機能「オートパイロット」に関する質問に応じるようマスクに命じるよう、裁判官を説得しようとしている。

ジェームズ・ライリーとのメールは、7,300万人以上のフォロワーに向けたツイートでテスラの株価を動かし、しばしば眉をひそめる言動を取るシリコンバレーの図太い経営者としての評判を高めてきたマスクの、傷つきやすく共感しやすい一面を明らかにしている。

マスクは、テスラが走る最高速度を親がコントロールしやすくするために、自動車会社がコンピューター機能に手を加えてほしいというライリーの要望を叶えるところまで行っている。

2018年6月、テスラは速度制限機能のソフトウェアアップデートを送り、ドライバーは車のスマートフォンアプリやユーザーインターフェースを通じて、4桁の暗証番号で最高速度を時速50マイルから時速90マイルの間で設定できるようにした。オーナーズマニュアルの文言も更新され、この機能はバレット・ライリーを偲んで捧げられたものであると記されていた。

ライリーは2018年5月31日、マスクに宛てて「私はこれまでの人生で何かを認めてもらうことを求めたことはないが、バレットとエドガーの損失が他の人の安全性向上につながったことを認めてもらえたら嬉しい」と書いた。その2日前、マスクはライリーに、テスラは「安全性を高めるためにできる限りのことをしている。私の友人、家族、そして私はみんなテスラに乗っているが、たとえそうでなくても私はできる限りのことをする」と書いている。

このメールのやり取りから約2年後、ライリーはテスラに対して製造物責任訴訟をフロリダ州の連邦裁判所に起こした。訴状によると、彼のテスラ車に搭載されていたリチウムイオン電池が、事故後に「制御不能の致命的な火災を起こした」とされている。「バレット・ライリーの死因は、事故ではなく、バッテリーの火災だった」。

訴状によると、ライリーは事故の2カ月前に、息子の安全のためにスピードリミッター装置を車に取り付けるようテスラに依頼したが、車をテスラに修理に出した際に勝手に取り外されていたという。テスラの過失がなければ、リミッターのおかげで事故を防ぐことができ、「バレット・ライリーは今日も生きていた」という。

テスラはコメントを求められても応じなかった。

訴状に対する回答で、テスラは同社のバッテリーに欠陥があったことを否定した。また、バレット・ライリー本人が「車両の加速性能に不安を感じて」サービスセンターを訪れ、スピードリミッターの解除を依頼したとしている。

この事件は、今年中に裁判が行われる予定だ。

訴訟名はRiley v. Tesla Inc., 20-cv-60517, U.S. District Court, Southern District of Florida (Fort Lauderdale)。

Tesla Crash Emails Show Musk’s Empathy for Grieving Father. Malathi Nayak. © 2022 Bloomberg L.P.