黒田ショック走る、日銀の緩和修正は出口に向けた市場混乱の始まりか
黒田東彦日銀総裁 Source: Bloomberg

黒田ショック走る、日銀の緩和修正は出口に向けた市場混乱の始まりか

任期満了まで4カ月足らずに迫った日本銀行の黒田東彦総裁による金融緩和策の修正は、10年近く続く壮大な実験の終了がもたらす混乱の大きさを改めて認識させるものになった。

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(ブルームバーグ):任期満了まで4カ月足らずに迫った日本銀行の黒田東彦総裁による金融緩和策の修正は、10年近く続く壮大な実験の終了がもたらす混乱の大きさを改めて認識させるものになった。

日銀は20日、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策における長期金利(10年国債金利)の誘導水準を0%程度に維持しつつ、変動許容幅を従来の上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大することを決めた。不意打ちを食らった形となった市場では長期金利と円相場が急上昇し、株式相場は大きく下落した。

黒田総裁はこの日の記者会見で、今回の決定について「市場機能を改善し、緩和効果をより円滑に波及させる」ことが狙いとし、利上げや金融引き締めではないと繰り返した。ただ、これまで変動許容幅の拡大は利上げであり、緩和効果を阻害すると発言していただけに、市場の疑心暗鬼は消えない。

今回の唐突な対応がYCCの持続性を高めるための措置なのか、金融緩和の終了の布石なのかは定かではない。世界の中央銀行がインフレ退治に動く中で、前例のない大規模な金融緩和を継続する中央銀行の正副総裁が来春に交代する。新体制の金融政策運営もにらみ、今後数カ月にわたって世界の金融市場が日銀の一挙手一投足を注視することは確かだ。

「日銀が何と呼ぼうと、これは出口への一歩だ」。日銀出身のUBS証券の足立正道チーフエコノミストは、こういった動きを受けて2023年の利上げの可能性も出てくると指摘する。

市場の思惑

黒田総裁はこの数カ月間、YCC政策の持続性に対する市場からの挑戦と対峙(たいじ)してきた。海外の主要中銀が積極的に利上げを進め、円が対ドルで約32年ぶり安値を付けて市場の政策変更観測が高まる中、6月には日銀が許容する長期金利の変動幅上限を試す動きが活発化した。

黒田総裁はそうした圧力の幾つかを抑えるために行動を起こした。問題は、この動きが金融政策の枠組みに対する市場の思惑を和らげるか、それとも思惑に拍車をかけるかどうかだ。

野村証券の松沢中チーフストラテジストは、「長期金利の変動幅拡大が日銀の正常化の手法だとすれば、YCCは実質的な撤廃に近づいていることになる」と述べ、「市場のボラティリティーはますます高まるだろう」と語った。

発表後の市場の動きは、投資家が今回の決定を金融引き締めと受け取ったことを示唆している。一方、YCCをより持続可能性なものにるすための第一歩と見る向きもある。

オックスフォード・エコノミクスの長井滋人在日代表は、「来年4月の総裁交代後も日銀がYCC政策の堅持を決意するとのわれわれの見方を裏付けるものだ」と指摘。「YCC政策の持続性を高めるための必要なコストとして、効果的な引き締めを受け入れることを日銀は決心したようだ」との見方を示した。

大規模緩和の導入から10年近くが経過し、この間に緩和の強化や持続性を高める政策修正などを繰り返して金融政策は複雑化した。現在はマイナス金利政策とYCC政策を続ける世界で唯一の中央銀行だ。新総裁の決断次第では、世界の金融市場が混乱に陥りかねない危険性をはらむ。

「最後の鎖」

みずほ銀行の経済・戦略責任者、ビシュヌ・ バラサン氏は今回の会合前に、「日銀はその政策スタンスによって今年のマーケットにかなりの緊張をもたらしていた。いわばスプリングが圧縮された状態であり、日銀がそれを最終的に解放すると決めたら大きな衝撃に見舞われる恐れがある」と指摘。「市場のありとあらゆる面に影響が及ぶだろう」と語っていた。

世界の国々にとってさらに大きな懸念材料は、これにより世界の債券市場を支えていた最後の鎖も外れ、円選好でドル資産を売るきっかけとなる可能性があることだ。

日本の投資家は海外の株式や債券に3兆ドル(約395兆円)余りを投資しており、その過半は米国が占めている。ブルームバーグのデータに基づくと、日本が資金のリパトリエーション(国内回帰)を進めた場合、オランダやオーストラリア、フランス、英国も影響を受けやすい。

30年にわたり日本市場を見ているアシンメトリック・アドバイザーズのストラテジスト、アミル・アンバルザデ氏は、「金利上昇を容認すれば、国外にある日本の資金が津波のように国内へ押し戻される可能性がある」と分析。「これは大きな巻き戻しの動き」とみている。

後継人事

日本の国内総生産(GDP)を上回るバランスシートを抱え、極めて複雑化した日銀の金融政策運営という困難な任務を遂行するため、岸田文雄首相は黒田氏の後任に金融市場から厚い信頼を受けている人物を指名する可能性が大きい。

雨宮正佳氏

ブルームバーグのエコノミスト調査では、新総裁は日銀出身者が適任との見方が多い。有力視されているのが現副総裁の雨宮正佳氏と前副総裁の中曽宏氏の2人だ。岸田首相の側近である木原誠二官房副長官はブルームバーグとのインタビューで、両者を候補の一角として挙げた。

黒田総裁を金融政策面で支えてきた雨宮氏が指名された場合、政策の継続性が重視される可能性が高い。金融システムや金融市場に精通し、副作用対策を重視するとみられる中曽氏の場合は、岸田首相の「アベノミクス離れ」を示唆するとみられている。しかし、後継レースは2人に絞られたわけではない。

クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミストは、「後任は雨宮氏か中曽氏ということで決まりとはまだ思っていない」と語った。「両者は黒田総裁の緩和政策に深く関わっているため、黒田体制を検証した上で次に進むという任務を負うという点でやや不可解だ」との見方も示した。

政府は通常、4月の日銀新体制の発足に向けて2月に人事案を国会に提示する。衆参両院それぞれの同意が必要で、採決に先立ち候補者に対する所信の聴取と質疑が行われ、各党が賛否を判断する。

(更新前記事は日本の海外投資額の単位を訂正済み。16段落目以降に次期総裁人事についての説明を追加します)

--取材協力:野原良明、竹生悠子、日高正裕.

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