「資本は増えども優れたスタートアップは増えず」 ベンチャー投資ブームの真相

未曾有のベンチャー投資ブームが巻き起こった2021年。当時もてはやされたスタートアップが20ヶ月の「生存資金」を確保しようと汲々としている。お金はすべてを解決しなかったのだ。

サン・マイクロシステムズの共同設立者ビノッド・コースラはフィナンシャル・タイムズ(FT)のインタビューに対し、2021年のブームが必ずしも技術革新を促進しなかったと主張した。

「資本が過剰になると、何かに利用せざるを得なくなる。しかし、優れたスタートアップ企業や起業家の供給は、資本の流入ほどには増加しなかった」

一部の分野には資本が集まりすぎた、とコースラは言う。多額の現金を消費するビジネスモデルとしてUberがあり、おそらく、資本がもっと少なければ、あのような発展は不可能だった、とコースラは指摘する。Uberは、非上場時の破竹の勢いとは裏腹に、上場後の株価は低調なパフォーマンスを続けている。自律走行や「空飛ぶクルマ」の垂直離着陸機 (VTOL) のような研究開発部門は切り離し、未だに黒字化していない。

BNPL(後払い決済)の雄ともてはやされたクラーナは、パンデミックブームのから騒ぎの象徴的存在となった。わずか1年前の評価額である460億ドルから数分の1の約65億ドルで新たな資本を調達する予定である、と複数の関係者を引用してFTが1日に報じている。バリュエーションを2倍の460億ドルにまで引き上げた資金調達ラウンドは、ソフトバンクグループ(SBG)が主導した。SBGは世界中の衆目を集める破綻に至ったWeWork、グリーンシル、カテラの筆頭株主だった企業だ。

VC業界はここ数年、好景気に沸いていたのにもかかわらず、低迷期を迎えた。セールスフォースからエクソンモービルまでの大企業のベンチャー部門、コーチューやタイガー・グローバルなどのニューヨークのヘッジファンド、ウォール街のバイアウト王、その他シリコンバレーの中心地では嘲笑的に知られている「観光客」などが、新興企業に資金を投下した。北京からバンガロールまで、世界各地に新しいハイテク拠点が誕生した。

調査会社のCB Insightsによると、2021年に世界のテック系スタートアップが集めた資金は6,210億ドル。これは前年の2倍、2012年の10倍だった。しかし、昨年終盤から急激にテックセクターをめぐる風向きが変わった。ハイテク企業の多いナスダック総合株価指数は、昨年11月のピークから30%下落した。データプロバイダーであるPitchBookは、2020年以降にアメリカで上場した140社以上のVC支援のスタートアップが、生涯に調達した資金総額よりも低い時価総額になったと見積もっている。

ドットコムバブルのピーク後は、VCファンドの資金投入が2年以上低下したが、そこまでひどい調整はないだろうと、エコミスト誌は予想している。というのも、多くの新興企業が昨年のブームを利用して十分な軍資金を蓄えており、健全なバランスシートを有しているからである。一般的なキャッシュバーンレートを想定すると、70社あまりの大手ソフトウェア新興企業のうち3社を除くすべてが、2025年まで持ちこたえるだけの資金を調達していると、エコノミスト誌は分析している。

コースラは、最近まことしやかに語られていた「お金の出し手が勝者を決める」という論理に疑念を示した。「ソフトバンクの資金があれば、不利な条件を克服して資本を投入することができた旧来の世界よりも、小規模な起業家の方が、優れた技術や優れたアプローチを差別化できる可能性が高くなる」。資本の多寡は必ずしも勝敗を決せず、ときに資本の悪い使い方を助長する。

これに対し、より小さな資本で始めた会社はより高い資本効率を表現できると彼は説いている。「私は、資本がもっと少なければ、新興企業はもっと発展していたと思う(中略)もし現在の環境が続くなら、今後10年間で、大企業の設立における資本効率は上昇する」

2021年のように資本が溢れた状況だと、2020-21年に組成されたファンドの今後10年間のリターンは相当低くなるとFTの西海岸担当編集者、リチャード・ウォーターズが指摘すると、「彼らは高いお金を支払ったのだから、それは間違いない」と応じている。