中国EV産業、自動運転の実現に向けてNVIDIAチップを選択

急速な展開を見せる中国のEV業界は、自動運転やその他のソフトウェア要求を満たす手段として、NVIDIAの半導体および技術スタックを選択している。その結果が上海の展示会にて鮮明に示され、クルマの世界がどれほど劇的に進化しているかが明確に示された。


先月の上海モーターショー(Auto Shanghai 2023、2023上海车展)では、EV化が大きな話題となったが、ソフトウェア定義自動車(SDV)も大きなトレンドだった。ホンダの三部敏宏社長が「中国メーカーのSDV化は進んでいるとホンダの中国拠点から聞いていたが、想像以上に先を行っていた」と危機感を示すほどだ。

中国最大の自動車メーカーの1つである上海汽車傘下のプレミアムEVブランドである「飛凡汽車(Feifan Auto)」は、高級EVセダンF7と中・大型高級電動SUV R7をショーで公開した。この2台には、米半導体設計企業NVIDIAの車載システム・オン・チップ(SoC)である「NVIDIA DRIVE Orin」をベースにした先進運転支援システムが搭載されている。

R7はSDVの要素が詰め込まれている。米新興企業ルミナーのLiDARセンサーを搭載した初の量産モデルで、プレミアム4Dイメージングレーダー、先進の環境アルゴリズムモデル、800万画素の高精細カメラを採用。「スマートコックピット」は、Qualcomm Snapdragon 8155チップを搭載しており、AR(拡張現実)ヘッドアップディスプレイ(AR-HUD)機能も備えている。

F7はEVとSDVをめぐる強烈な競争に参戦する。スタート価格帯は20万9,900元(約410万円)から30万1,900元で、EV大手Nioの高級セダンET7(45万8,000元)の約半額。F7の安価帯は安価なリン酸鉄リチウム(LFP)電池を採用している。中国では壮絶なEVとガソリン車の価格競争が起きており、F7の値付けはその文脈を踏まえたものだろう。

中国では、NVIDIA Drive Orinは、EVメーカーの自律走行サービスの中核をなしている。上海で展示された中国メーカーの自動車の中でNVIDIAのシステムを搭載していたのは、GAC Aionの「Hyper GT」、Xpengの「P7i」「XPENG G9」、IM Motors(上海汽車、アリババ、Zhangjiang Groupの合弁会社)の「LS7」「L7」、Human Horizonsの「HiPhi Y SUV」、Li Autoの「L9」「L8 Max」「L7 Max」と多岐にわたった。また、一部の自動車メーカーは、一世代前のXavierチップを使用している(*1)。

中国EV業界のリーダーであるBYDも例外ではない。NVIDIAは3月にOrinをBYDの主力2ブランド向けに供給すると発表した。BYDは1月にはクラウドゲームサービス のNVIDIA GeForce NOWを車両に導入して車内体験を強化すると発表していた。

車載SoCにおいてNVIDIAに依存していないのは、Waymoとテスラ(と百度?)だけだと考えられる。他はチップ、OS、自律走行ソフトウェアなどをパッケージにして外販するNVIDIAに頼らざるを得ない(詳しくは以下の記事)。

自動車メーカーはNVIDIA依存を避けられない?
多くの自動車メーカーは高度な自律走行の要請に対して、NVIDIAのチップとソフトウェアのバンドルを選択せざるを得なくなっている。一握りのトップランナーだけがチップの独自開発で「NVIDIA税」を回避しようとしている。

上海汽車の合弁相手のフォルクスワーゲン(VW)はSDV技術を内製することにこだわったが、ことごとく失敗した。既存メーカーにとって車載ソフトウェアのハードルがいかに高いかを物語る事例になっている。

ソフトウェア定義自動車への険しい道のり
自動車がソフトウェアによって制御されることで、自動車ビジネスが抜本的に変化することは、ほとんどの業界関係者の共通認識になっている。ただ、それを実現する力はこれまで自動車業界にはなかったものだ。各社は試行錯誤を繰り返している。

自動車メーカーは自律走行に関連する機械学習(ML)モデルをトレーニングするときも、A100やH100というNVIDIAのデータセンター向けAIシステムに依存している。米国の半導体輸出規制によって2つのシステムの輸出が禁じられて以降、輸出規制に対応し中国市場向けにA800を開発。A800は、A100の70%の性能であると、中国テクノロジーメディア、快科技は報じた

注釈

*1:その他の展示では、ADAS(先進運転支援システム)を提供するサプライヤーのHuizhou Desay SVとMomentaもソリューションにOrinを採用していた。