ウクライナの兵器要求増、米国の懸念と衝突
一部の関係者は、ウクライナの砲兵専門家を前線から引き抜きすぎると、ウクライナの防衛力が弱まることを懸念している。Credit...Tyler Hicks/The New York Timespu

ウクライナの兵器要求増、米国の懸念と衝突

ウクライナの武器要求増は米国の懸念を引き起こしている。ウクライナ人を戦場から引き離し、訓練させることは、ロシアの利益を加速させる可能性があると当局は指摘する。国防総省は、自国の備蓄のレベルも監視している。

ニューヨーク・タイムズ

[著者:Eric Schmitt, Julian E. Barnes]ワシントン - ウクライナ側は、ロシアの着実な前進を鈍らせるために、長距離砲やその他の高性能兵器の迅速な出荷が必要だと言っている。米国とヨーロッパ諸国は、もっとたくさん届くと主張しているが、ウクライナの兵士が訓練される前に、あまりにも多くの機器を送ることに警戒している。国防総省は、今後数カ月で備蓄が枯渇する可能性があることを懸念している。

バイデン政権とその同盟国は、ロシア軍がウクライナ東部の都市や村への砲撃を強化する中、キエフの要求に対する優先順位のバランスを取るのに苦労していると、アメリカやその他の西側の外交官、軍人、議員らは述べている。

アメリカ政府関係者によれば、西側から新しい武器が届くまでロシアに流血の犠牲を払い続けることができれば、ウクライナは反撃に転じ、失った領土の一部(すべてではない)を取り戻すことができるという。しかし、あまりに多くのウクライナの砲兵専門家を前線から引き離し、新兵器の訓練を何週間も行えば、ウクライナの防衛力が弱まり、ロシアの利益が加速され、将来の反撃がより困難になるのではないかと懸念する当局者もいる。

「このような状況で良い選択肢はない」と、軍事委員会の責任者である上院議員ジャック・リード(民主党)は言う。「最高の砲兵将校と下士官兵を連れて、1〜2週間の訓練のために帰国させるしかない。しかし、長い目で見れば、その方が賢明だろう。

さらに、国防総省の高官たちは、戦争が数ヶ月あるいはそれ以上続くと、米国の戦闘態勢が損なわれるのではないかという懸念を表明している。20年間、主に対テロ任務を支援してきたアメリカの防衛産業は、長い消耗戦を生き抜くためにウクライナが必要とする種類の兵器をほとんど作らなくなった。米国は、ウクライナに対して軍事、経済、人道的支援として540億ドルを承認し、国防総省の既存の備蓄から引き出した70億ドル以上の武器を送っている。

ウクライナの緊急要求は、米国が提供する洗練された武器の種類が上限を超えたと思われる時に出されたものだ。次に出荷されるのは、HIMARS(高機動ロケット砲システム)と呼ばれるトラック搭載の多連装ロケットランチャー、ハープーン対艦ミサイル、精密誘導のエクスカリバー榴弾砲などである。しかし、ウクライナの希望リストにあった戦闘機や高度な武装ドローンは、モスクワを過度に刺激するか、ウクライナ人が使い方を覚えるのに時間がかかりすぎるとして、今のところ棚上げになっている。

約5カ月に及ぶ戦争は正念場を迎えていると、米政府関係者や情報評価に詳しい人たちは言う。春にロシアが軍事作戦をウクライナ東部にシフトして以来、毎日100〜200人ものウクライナ人兵士が亡くなっている。しかし、全体としては、約2万人のロシア人が死亡している。さらに約6万人が負傷し、戦場を離れている。機密情報のため匿名を条件に語った数名を含む西側当局者によると、ロシアの装備のほぼ3分の1が戦争で破壊されたという。

軍隊を補充するためには、ロシアは宣戦布告をするか(公式には紛争は依然として「特別軍事作戦」である)、ロシアの極北や極東からウクライナに軍隊や装備を移動させることによって、より多くの国民を動員しなければならないだろう。

プーチン大統領がどちらの行動にも消極的なのは、時間が味方してくれると考えている証拠だと関係者は言う。その代わりにクレムリンは、分離主義地域のウクライナ人、傭兵、武装した国家警備隊などを雑多に組み合わせ、志願者に多額の現金ボーナスを約束して、人員不足を補おうとしているのである。

また、プーチンは、開戦以来高騰しているエネルギー価格に対するアメリカやヨーロッパの不安の高まりから、欧米のウクライナ支援はまもなく限界に達すると考えているのかもしれない。

作戦の評価に詳しい関係者によれば、プーチンの現在のアプローチの兆候として、クレムリンはもはや、ウクライナの首都キエフの占領を目指した初期のように、戦場での迅速な勝利を迫っていないことがあげられる。プーチンはここ数週間、ウクライナの戦場での最高指揮官を再び入れ替えた。アメリカ政府関係者によれば、ロシア軍はゆっくりとした戦術に切り替え、クレムリンはそれを展開させることに満足しているように見えるという。

ロシア軍はウクライナ東部のドンバス地方で、長距離砲の圧倒的な優位性を大いに利用し、ウクライナ兵や市や町を遠くから叩いてから、中に入っていこうとしているのである。

戦争研究所の評価によれば、ここ数日、一部のロシア軍は戦略的な小休止を取り、他の軍はドンバス地方のドネツクの町を砲撃し始めたとされる。

これらのロシア軍の多くは、ドンバス地方のルハンスク地区での残酷な砲撃戦の後、再武装と再編成に手間取っており、クレムリンは戦争継続のための人員不足を埋めるために奔走しているのである。

ウクライナ・スロヴィアンスクの爆撃された倉庫。春にロシアが軍事作戦をウクライナ東部にシフトして以来、毎日100から200人ものウクライナ兵が死亡している。Tyler Hicks/The New York Times

「ロシア軍は、兵力と交換装備のために文字通り底をついている」と、元米国陸軍ヨーロッパ地区最高司令官で、現在はヨーロッパ政策分析センターのフレデリック・B・ホッジスは言う。

アメリカ政府関係者は、ウクライナが短期間で反攻を開始するのは難しいが、ウクライナにはまだ利点があると言う。戦争を通じて、戦いは防御側に大きく有利で、十分に保護された陣地から大きな犠牲を出すことができる。ウクライナ軍は、HIMARSやジャベリン、NLAWといった対戦車ミサイルなど、アメリカやヨーロッパが設計した近代的な兵器を使用し、ロシア軍に致命的な効果を与えてきた。しかし、ロシアの優れた火力によって、ボロボロになった軍隊は少しずつ前進している。

ウクライナ軍が生き残り、ロシアの進撃をさらに遅らせるには、西側の訓練とハードウエアの追加がカギとなる。

米国の情報機関は、ウクライナ軍がどれだけ早く高度な装備を吸収し、使用できるかを評価するのに苦労している。HIMARSは、ウクライナ軍がソ連時代の榴弾砲やロケット弾の兵器の減少に伴って切り替えを進めている、西側の新しい長距離兵器の目玉である。

トラック搭載の多連装ロケット砲は、衛星誘導ロケットを発射し、射程距離は40マイル以上と、ウクライナの保有するどのロケット砲よりも長い。アメリカやウクライナの当局者によれば、最初の2つのバッチは、前線の奥深くにあるロシアの弾薬庫、防空施設、司令部を破壊しているとのことだ。

ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相は、週末にツイッターで「HIMARSはすでに戦場で大きな違いを生んでいる」と述べた。

ホワイトハウスは金曜日に、国防総省の在庫からさらに4機のHIMARSを送ると発表した。すでにウクライナにいる8機と、米国が訓練した約100人のウクライナ人兵士の乗組員に加わる。政府関係者は、さらに多くの部隊が派遣されることを内々に示唆している。イギリスとドイツは、それぞれ3基の同様の発射装置を提供することを約束している。

しかしウクライナ当局は、ロシアと戦うためには300もの多連装ロケット砲が必要だと言い、元ペンタゴン関係者の中には、ロシアの攻撃を妨害するためには少なくとも60から100のロケット砲が必要だと言う者もいる。

ロンドンの研究機関Royal United Services Instituteが先週発表した報告書では、善意で行われたウクライナへの各種砲兵システムの納入が、予期せぬ結果を生んでいると警告されている。

「各国が砲台をバラバラに寄贈する現在のやり方は、ウクライナ軍にとって、砲台ごとに訓練、メンテナンス、兵站のパイプラインを必要とする、兵站の悪夢に急速に変わりつつある」と、報告書は述べている。

報告書の著者であるジャック・ワトリングとニック・レイノルズは、ロシアの高度なシステムに対抗するために、ウクライナには妨害装置などの電子戦装置が必要だとも結論づけている。ロシア軍を狙うウクライナの偵察用無人機は、ロシアの防衛力によって墜落や撃墜を強いられるまで1週間ほどしか生き延びられないという。

「ウクライナはロシア軍の作戦上の敗北を達成する意志を持っている」と報告書は述べている。「しかし、現時点では、いくつかのロシアの利点とウクライナの弱点は、最終的にロシアに有利な長引く戦争の危険性のある消耗戦につながる」

Original Article: Ukraine’s Demands for More Weapons Clash With U.S. Concerns

© 2022 The New York Times Company.