
新興国投資家は安定的なアジア諸国に軸足を移している
不況への不安から、新興国投資家は安定的な国々に軸足を移している。7月の新興国市場は、アジア現地通貨建て債券が上昇を牽引。スリランカ問題によるデフォルトの懸念が伝播している。
(ブルームバーグ) --インフレに対するパニックが世界的な景気後退への懸念に変わる中、新興市場の投資家も軸足を移している。彼らは今、金利がまだ低い国々を好んでいるのである。
投資家は、ベンチマーク金利はパンデミックの最中に引き下げられた過去最低の水準で推移している、インドネシアやタイの地方債を買い占めている。中央銀行が1回だけ利上げを実施したインドの債券も同様だ。
これは、ブラジルやチリなど世界の引き締めサイクルをリードしてきた国々の債券を好んで、低利回りの債券が売られた今年の最初の数ヶ月から逆流したものだ。しかし、ここ数週間は景気後退への懸念が物価への懸念を上回っており、スリランカからアルゼンチンまでインフレに拍車がかかっているにもかかわらず、高金利であることはもはやかつてのメリットとは見なされていない。低インフレと高成長が重要視される中、高金利は欠点とさえ見なされかねない。
クレディ・アグリコルCIBの新興市場調査部長セバスチャン・バルベ氏は、「これらの国は世界的な景気後退と戦うのに有利な立場にあるが、そもそもこれらのアジア諸国のインフレ率の上昇が他の国より遅れているため、このような立場にある」と述べている。「数カ月前にすでに高いインフレ率を示していた国々は、金利を低く抑える選択肢が少なかった」

もちろん、投資家の成長重視の姿勢に好感する国がある一方で、さらに弱気になる国もあるだろう。ブルームバーグがまとめたデータによると、新興国のソブリン債は2,370億ドルもあり、不良債権化した状態で取引されている。スリランカは国際通貨基金(IMF)と交渉中で、首相と大統領が交代することになっているが、注目された債務不履行は、さらなる不払いへの懸念に拍車をかけている。
しかし、ブルームバーグの指標によると、中央アジアとアジア太平洋地域は、今月、新興市場の中で唯一、現地通貨建て債券の投資家にプラスのリターンをもたらしている地域である。一方、パフォーマンスが最も悪いのは、ラテンアメリカと東欧である。
ブルームバーグの新興国現地通貨建て債券の指標に含まれるアジア8カ国のうち、2カ国はまだ利上げを開始しておらず、残りの国も引き締めサイクルの開始以来、利上げ幅は90ベーシスポイント(bp)を超えないままである。唯一の異常値は韓国で、135bpの利上げを行った。
一方、中南米諸国はすべて借入コストを引き上げており、チリとブラジルは今回のサイクルでそれぞれ850bpと1,125bpの引き上げを行った。東欧では、ポーランドが640bpの引き締めを行った。また、インフレを防ぐために、中央銀行がより大胆に通貨を引き締めることを求める声もある。
「米国のインフレが依然として高いことが証明され、FRBが積極的な引き締めを行う必要があることが明らかになり、新興国の中央銀行による早期の引き締めはあまり意味をなさなくなった」とロンドンのスタンダードチャータード銀行のリサーチヘッド、ラジア・カーン氏は述べた。「成長への懸念は、より広範に広がっている」
ブルームバーグの調査によると、インドは今年8.7%の成長が見込まれており、中央銀行はわずか3カ月前にこのサイクルでの最初の利上げを実施した。一方、インドネシアの国内総生産は2022年に5.2%になるとエコノミストは見ている。インドネシアの政策担当者は、金利を過去最低の3.5%に維持することを改めて表明している。
チリや南アフリカでは、今年の経済成長率は2.1%に達する可能性があり、これとは対照的である。ブラジルの経済成長率は1.3%にとどまる見込みだ(同調査)。
ロサンゼルスのDoubleLine Groupでポートフォリオ・マネージャーを務めるヴァレリー・ホー氏は、「今、アジア地域が面白い」と言う。「アジアはより断熱性が高く、このような環境下では少し良いパフォーマンスを示す傾向がある。また、ラテンアメリカや中東欧のような価格圧力もない」
Maria Elena Vizcaino, Srinivasan Sivabalan. Recession Angst Spurs Pivot to Emerging World’s Growth Engines.
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