
ウクライナ戦争が世界の燃料市場にもたらしたもの

2017年、カタールはペルシャ湾海域に眠る世界最大の天然ガス田の開発を12年間禁止していたが、これを解除した。その直後、カタールは300億ドルを投じる「ノースフィールド・エクスパンション(NFE)」と呼ばれるプロジェクトを通じて、同鉱区の権益(イランも権益を有する)を開発する計画を発表した。このプロジェクトは、イランの液化天然ガス(LNG)生産量を現在の年間7,700万トンから2026年には1億1,000万トン(1520億立方メートル換算)に増加させるというものだ。批評家たちは、これは実現不可能なほどリスクの高い賭けであると考えた。カタールはこれに対し、第2段階として2027年まで年間1億2,600万トンのLNGを生産すると発表した。
2019年、世界的なLNG供給過剰により、カタールがガスの大半を販売するアジアのスポット価格は、100万BTU当たり5.49ドルと、過去10年間で最低の水準に落ち込んだ。その1年後、コロナウイルス感染症の大流行でロックダウンが実施され、需要が停滞すると、さらに20%下落して4.39ドルとなり、過去最低を記録した。この時、NFEは血の匂いを感じた。しかし、アル・カアビー・エネルギー担当国務大臣は、あくまで自分の計画に固執した。2025年まで、プラスマイナス2年で、世界は再びガスを渇望するようになる、という計算だ。
アル・カアビーはタイミングを逸したが、それ以外には大きな問題はない。2021年、エネルギー需要の回復により、消費者は石炭よりも気候変動に優しいとされるLNGに殺到した。2022年、ウクライナ戦争で欧州のガス価格が1年で6倍に高騰し、カタールの首都ドーハに次々と使節団が送り込まれ、供給を求めている。エコノミスト誌がアル・カアビーに会った日、欧州理事会のシャルル・ミシェル議長もこの街にいて、猛暑とサッカー熱(カタールはこの冬にワールドカップを開催する)をかき分けて、ガスの追加供給を要請していた。2週間前にはギリシャの首相が、2週間後にはドイツの首相が登場した。