AIとスパコンがコロナワクチンの創薬を高速化

コロナウイルスが世界中に蔓延する中、ファイザーがワクチンと経口薬を設計し数億人の人々に届けるまでのすべてのステップにAIアルゴリズムが関与していると判明した。

ファイザーの最高デジタル技術責任者であるリディア・フォンセカは、機械学習技術は、創薬から始まり、臨床試験、サプライチェーン管理、そして最終的には人々への配布まで、巨大製薬企業のワクチン開発プロセスをスピードアップさせる上で極めて重要であった、と述べた。NVIDIAの技術会議GTCでの米デロイトの最高経営責任者であるジョー・ウクゾルとの対談で、彼女は製薬業界における機械学習の応用可能性が存分に語った。

「研究と発見において、スーパーコンピューティング、AI、機械学習を活用し、最も有望な標的化合物の特定を加速させた」とフォンセカは語った。機械学習モデルは、必要な一連の特性を持つ新規分子を見つけるという作業に適している。科学者たちは、パンデミックの早い段階で、コロナウイルスのスパイクタンパク質の配列を決定し、その構造を解明することができた。

スーパーコンピューティングは、経口薬の発見から開発までの進行を早めるのに役立った。高度な計算モデリングとシミュレーション技術を使用することで、物理的ではなく仮想のラボ環境で分子化合物をテストできるようになった。「経口薬の場合、これによって、Covid-19の治療に効く可能性のある何百万もの既知の化合物のごく一部をテストし、医薬品になる可能性が最も高い化合物だけを迅速に絞り込むことができた」

「ワクチンの試験中に臨床試験参加者から報告されたアレルギー反応の多くは、特定の脂質ナノ粒子に起因するものだった。スパコンを使用して、分子動力学シミュレーションを行い、アレルギー反応を抑える脂質ナノ粒子の特性の適切な組み合わせを見つけ出し、可能な限り安全で効果的なワクチンを作った」

フォンセカによれば、ファイザーはmRNAベースのワクチンを設計して、わずか4ヶ月で臨床試験にこぎつけることができたという。6カ国から数万人のボランティアを集めて試験を行う前の製造段階で、機械学習アルゴリズムが歩留まりを予測するのに役立った。AIシステムは、参加者の症状の食い違いを分析するためにも使用された。

データの前処理でもAIが活躍した。通常、臨床試験や試験段階が終了すると、科学者が結果を分析できるように患者データを「クリーンアップ」するために30日以上かかることがある。このプロセスでは、データ科学者が手作業でデータセットを検査し、コーディングエラーや、数千万件のデータポイントを収集する際に当然発生するその他の不整合をチェックする。

しかし、スマートデータクエリー(SDQ)と呼ばれる新しい機械学習ツールなど、プロセスとテクノロジーの最適化により、COVID-19ワクチンの臨床試験データは、主要有効性の症例数を達成してからわずか22時間でレビューできるようになった。この技術により、チームは試験期間中、非常に高いレベルのデータ品質を維持することができ、最終段階で解決すべき不一致を最小限に抑えることができた、とファイザーは主張している。

「さらに、機械学習の両方を使用して製品の温度を予測し、当社のワクチン用量を収容する3,000台以上の冷凍庫の予防保守を可能にしている。そして、IoTとセンサーを活用して、ワクチンの出荷と温度を100%に近い精度で監視・追跡している」とフォンセカは語っている。

HPC Wireによると、ファイザーは、新薬の候補をバーチャルでテストするためにMareNostrum 4スパコンを利用したと報じられている。この大型システムは、バルセロナ・スーパーコンピューティング・センターに設置されており、ピーク性能は11.15ペタフロップスだ。

彼女は「COVID-19はこれらのトレンドを5年も加速させたと思う」と付け加えた。