AlphaFoldオープンソース化の衝撃

要点

AI研究所のDeepMindが、タンパク質研究にAIを応用することで、たった5年でバイオ業界を震撼させる成果を上げ、それをオープンソース化した。人類はAIの適用で科学の進歩が急加速する時代を迎えている。


DeepMindと英国の生命科学研究所である欧州分子生物学研究所(EMBL)は22日、学術誌『Nature』が主催する共同記者会見において、DeepMindのAlphaFold 2システムを用いて作成されたこのデータベース「AlphaFold Protein Structure Database」を、今後数週間のうちに科学界に公開すると明らかにした。

2018年12月、DeepMindは2年間の成果である「AlphaFold」でタンパク質の折り畳みという課題に挑んだ。2020年12月に発表されたその後継モデル「AlphaFold 2」は、これを改良して、競合するタンパク質の折り畳み予測手法を凌駕した。2年に1度のタンパク質構造予測コンテストのCASPの結果では、AlphaFold 2の平均誤差は原子の幅(またはナノメートルの0.1)に匹敵した。

タンパク質は、生命維持に不可欠な物質であり、あらゆる機能を支えている。タンパク質は、アミノ酸が鎖状につながった巨大な複合分子であり、その3次元構造によって機能が大きく左右される。タンパク質がどのような形に折りたたまれるかを解明することは、「タンパク質フォールディング問題」として知られており、過去50年間、生物学の壮大な課題となっていた。

何十年もの間、研究者たちはX線結晶学や低温電子顕微鏡などの実験技術を用いてタンパク質の構造を決定してきた。しかし、このような方法は時間とコストがかかり、またタンパク質によってはこのような分析ができないものもある。

先週公開されたオープンソースのコードベースで、DeepMind社はAlphaFold 2を大幅に合理化した。これにより、クローズソースのシステムでは、構造体を生成するのに何日もの計算時間を要していたが、オープンソース版では約16倍の速度を実現し、タンパク質のサイズに応じて数分から数時間で構造体を生成できるようになった。さらに、DeepMindとEMBLは、AlphaFold 2を用いて、他の20種類の「生物学的に重要な生物」の構造を予測し、大腸菌、ミバエ、マウス、ゼブラフィッシュ、酵母、マラリア原虫、結核菌などについて、合計35万件以上の構造を予測した。

さらに、DeepMindとEMBLは、AlphaFold 2を用いて、他の20種類の「生物学的に重要な生物」の構造を予測し、大腸菌、ミバエ、マウス、ゼブラフィッシュ、酵母、マラリア原虫、結核菌などについて、合計35万件以上の構造を予測した。今後、AlphaFold 2とデータベースの改良を重ねることで、1億件以上の構造をカバーする予定だ。

AlphaFoldは、Drugs for Neglected Diseases Initiative(DNDI)などのパートナーによってすでに利用されており、世界の貧しい地域に偏って影響を与える病気の救命治療法の研究を進めている。また、Centre for Enzyme Innovation (CEI)では、最も汚染度の高い使い捨てプラスチックをリサイクルするための高速な酵素のエンジニアリングにAlphaFoldを利用している。また、実験的にタンパク質の構造決定を行っている科学者にとっても、AlphaFoldの予測は研究の促進に役立っている。例えば、コロラド大学ボルダー校のチームは、抗生物質耐性の研究にAlphaFoldの予測値を利用することに期待を寄せており、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のグループは、SARS-CoV-2の生物学の理解を深めるためにAlphaFoldを利用しているという。

DeepMindの創業者兼CEOであるデミス・ハサビス博士は「DeepMindの目標は、常にAIを構築し、それをツールとして使用することで、科学的発見のペース自体を加速させ、私たちの周りの世界に対する理解を深めることだ。私たちは、AlphaFoldを用いて、ヒトのプロテオームの最も完全で正確な画像を作成した。これは、AIがこれまでに科学的知識の向上に貢献した中で最も重要なものであり、AIが社会にもたらす様々な恩恵を示すものであると考えている」と述べている。

ソースコードのオープン化

先週、DeepMindは、AlphaFold2というモデルの背後にあるソースコードと、その開発方法の詳細な説明を公開し、既知のタンパク質の構造をほぼ完璧な精度で予測できることを示した。続いて木曜日に発表された『Nature』誌の2本目の論文では、このモデルが、ヒトをはじめ、ミバエ、マウス、大腸菌など多くの生物の体内にあるタンパク質の構成要素であるアミノ酸の約60%の構造上の位置を自信を持って予測できることが示された。

Alphafoldのソースコードが公開されている、via Github deepmind/slpahfold.

AlphaFold2は、ヒトの既知のタンパク質の98.5%、他の生物についても同程度の割合をカバーする構造予測に加えて、予測の信頼性を測定する機能も備えている。DeepMindのサイエンスエンジニアであり、Nature誌に掲載されたヒトプロテオーム予測に関する論文の筆頭著者であるKathryn Tunyasuvunakoolによると、ヒトのプロテオームでは、個々のアミノ酸の位置に関する予測の58%が、タンパク質の折り畳みの形状を確信できるほど良好であったという。また、これらの予測のうち36%は、酵素の活性部位など、創薬に役立つ原子レベルの特徴を詳細に予測できる可能性があるとTunyasuvunakoolは主張している。

昨年、AlphaFold2は、(DNAによって決定される)タンパク質の配列のみを用いて、多くのタンパク質の構造を正確に予測できることを示し、科学界に衝撃を与えた。研究者たちは何十年にもわたってこの課題に取り組んできたが、CASPでAlphaFold 2が非常に優れた結果を出したため、CASPの共同創設者は「ある意味で問題は解決した」と宣言した。

DeepMindは、12月1日に開催されたCASPにおいて、AlphaFold 2について簡単なプレゼンテーションを行った。その際、ネットワークの詳細をまとめた論文を発表することと、ソフトウェアを研究者に提供することを約束したが、それ以外のことはほとんど語らなかった。

Googleの子会社であり、毎年数百億円の赤字を重ねるDeepMindは研究成果の発表について、Googleの顔色をうかがう必要があるかもしれない。DeepMindは、人類にとっての重要技術である機械学習の成果を公正に扱うため非営利法人(NPO)化を申し出たが、多額の資金を投下してきたGoogleはこれを拒んだとされている。

これに対し、DeepMindの姿勢に懐疑的だった学術コミュニティから新しい動きが出てきた。シアトルにあるワシントン大学の生化学者David Bakerのチームはある学術チームは、AlphaFold 2にヒントを得て、独自のタンパク質予測ツールを開発し、すでに科学者の間で人気を博している。「RoseTTaFold」と呼ばれるこのシステムは、AlphaFold 2とほぼ同等の性能を持ち、同じく7月15日に発表されたScience誌の論文で紹介された。

ベイカーらはRoseTTaFoldのコードを自由に利用できるようにするだけでなく、ベイカーのチームは、研究者がタンパク質の配列を入力して、予測される構造を得ることができるサーバーを立ち上げた。先月公開されて以来、このサーバーでは、約500人から寄せられた5,000個以上のタンパク質の構造が予測されているとベイカーは言う。

AlphaFold 2のオープンソース化はベイカーの試みに触発されたものと考えられている。

参考文献

  1. Tunyasuvunakool, K., Adler, J., Wu, Z. et al. Highly accurate protein structure prediction for the human proteome. Nature (2021). https://doi.org/10.1038/s41586-021-03828-1
  2. この他の参考文献は文中のリンクで示した。