英アーム売却の破談でソフトバンクは逆流にさらされている
2020年11月4日(水)、横浜で開催された国際青年会議所(JCI)世界大会で基調講演を行うソフトバンクグループ株式会社の孫 正義会長兼最高経営責任者(CEO)。Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

英アーム売却の破談でソフトバンクは逆流にさらされている

エコノミスト(英国)

孫正義が創業し経営する日本の投資コングロマリット、ソフトバンクほど、ハイテクに取り憑かれたイージーマネーの時代を象徴する企業はないだろう。1981年に日本の無名のソフトウェア販売会社としてスタートしたソフトバンクは、次々と負債を抱えた賭けを行い、インターネット企業、通信大手、そして昨年、孫が世界最大のベンチャーキャピタル(VC)プロバイダーと呼ぶ企業に成長し、ニューヨークのヘッジファンドであるタイガーグローバルやVC大手のセコイアキャピタルを余裕で凌駕している。バランスシートの一部は不透明だが、多額の借り入れを続けており、非金融企業としては世界で最も負債を抱えている企業の一つである。投資先のシリコンバレー企業の多くがそうであるように、この企業にも支配的な創業者株主がおり、その株主は饒舌な言葉を吐くことを嫌がらない。孫は「300年の視野で投資する」と語っており、ソフトバンクは金融企業としては不滅に近いと表現している。しかし、彼が最も関心を寄せるべきは「今、ここ」なのだ。

それは、ソフトバンクがその恩恵を受け、また煽ってきたハイテクブームが終焉を迎える可能性があるからだ。ここ数十年で最も高いインフレ率に直面し、中央銀行は金利を引き上げ始めている。このため、ソフトバンクのようなレバレッジの高い企業の信用市場は厳しくなる恐れがある。さらに重要なことは、金利の上昇は、同社が投資する高成長ハイテク新興企業の長期的な価値に大きな違いをもたらすということだ。過去数十年のビジネスメガトレンドのうちの2つで最も成功している企業の1つとして、もし技術への熱狂とイージーマネーが消え失せたとしたらどうなるかを考えてみる価値はある。ウォーレン・バフェットがかつて言ったように、潮が引いて初めて、誰が裸で泳いでいるのかがわかるのだ。本コラムは、孫の水浴びはどうなるのだろうか、と考えている。

バフェットのように、孫も色彩豊かな言い回しが好きなようだ。2月8日、12月までの9カ月間でソフトバンクの純利益が前年同期比87%減となったことを報告したとき、彼は率直にこう言った。昨年秋から続く猛吹雪の中にいるだけではない、と。アメリカでも他の国でも、金利上昇の脅威で吹雪がひどくなっていたのだ。ソフトバンクは直近の四半期にわずかな利益を出したものの、孫が鷹揚に見守っている2つの最も重要な変数が急激に悪化した。一つは、ソフトバンクの資産ポートフォリオの純額で、190億ドル減少して1680億ドルになった。もう1つは、株式に対する純負債の値で、ソフトバンクが傘下の日本の通信事業を上場させた2018年以来の高水準に達した。

リスクを測るには、それらの計算のうち、資産側から始める。孫がどんなに勇ましい顔をしていても、良いニュースは乏しい。決算の日、ソフトバンクは、英国のチップ事業であるアームをカリフォルニア州の半導体企業エヌビディアに売却することを、規制当局の圧力を理由に取りやめたことを明らかにした。エヌビディアの最高値では、暗黙の売却額は600億ドルを超え、ソフトバンクが2016年にアームに支払った金額の約2倍となっていた。代わりにソフトバンクは、来年度中に新規株式公開(IPO)でアームの株式を売却する予定だ。孫は、アームのチップ事業の営業利益は最近改善されていると推定され、魅力が増す可能性があると指摘した。しかし、投資顧問会社レデックス・リサーチのカーク・ブードリーは、IPOが売却と同じだけの価値を生む可能性はほとんどないと考えている。さらに、潜在的な投資家は、ソフトバンクが過去10ヶ月に上場した25社のほぼすべての公開市場パフォーマンスの低さを見るだけで、ハイテクIPOがもはやうまい汁が吸える仕事でないことを知ることができるだろう。

また、資産面では、ソフトバンクの中国への投資や2つのビジョン・ファンドの投資が問題視されており、昨年はなんと239社もの若い企業に投資している。経営難に陥っている中国の巨大ハイテク企業アリババは、かつてソフトバンクの投資戦略の要であり、純資産の60%を占めていた。しかし現在、ソフトバンクはアリババを「魔法の切り札」のように扱い、株式を売却して他のリスクの高いベンチャー企業に資金を提供している。ソフトバンクのポートフォリオに占める割合は24%に縮小している。2月7日、アリババの株価は、ソフトバンクがさらに出資比率を下げるのではないかとの懸念から6%下落した。ソフトバンクにとって、アリババの重要性は、グループの純資産のほぼ半分を占める2つのビジョン・ファンドに大きく水をあけられている。この2つのファンドは直近の四半期で価値を上げているが、その主な理由は未上場企業の企業価値の増加である。しかし、ソフトバンクが株主となっている公開企業に対する株式市場での大規模な売りが指標となるなら、IPO前の段階のバリュエーションが停滞するか、場合によっては下落に転じるのは時間の問題かもしれない。

ソフトバンクの負債も気になる。同社によると、保有資産の時価総額に対する純負債額の割合であるLTV(loan-to-value)は、3ヶ月前の19%から12月末には22%に上昇し、平時には25%が妥当であると考えられている。しかし、他の企業は、ソフトバンクが除外しているマージンローン(証券担保融資)のような追加負債や投資コミットメント、自社株買いを含めて、より保守的にこの比率を計算している。金融分析会社ブルームバーグ・インテリジェンスのシャロン・チェンによれば、同社の測定によれば、ソフトバンクは、格付け会社S&Pグローバルが債務引き下げの引き金になりうると指摘するLTV40%の閾値に近づいている(ただし、アームの上場計画はその圧力を緩和する可能性もある)。アリババ株のさらなる売却は債務削減につながるが、ポートフォリオの質を低下させる可能性もあり、これも格付け機関にとって赤信号となる。

ウェットスーツ、スピードスーツ、それとも何も着ない?

ソフトバンクは過去に負債に関連するトラブルを十分に経験しており、孫はその危険性を認識している。ソフトバンクは以前から、2年分の債務返済を賄えるだけの手元流動性を確保することを約束している。また、日本の銀行や一般貯蓄者が、他の日本の借り手と比較して高い利回りを好むという利点もある。しかし、長期的な財務の安定性は、資産価値と負債額の2つの変数にかかっており、現状では成長よりも慎重さからの恩恵が大きいと考えられる。孫に必要なのは、スピードウェアよりもウェットスーツだ。

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“From As its sale of Arm collapses, the tide is turning against SoftBank, published under licence. The original content, in English, can be found on *https://www.economist.com/business/as-its-sale-of-arm-collapses-the-tide-is-turning-against-softbank/21807597*”