日本のスタートアップを発射台に載せろ AXION WEEKLY #2

🐯A.T. カーニーの日本のスタートアップ調査

コンサルティング企業のA.T. カーニーがGoogleとの協力し日本のスタートアップの現状と展望に関する調査を行い、その報告書を出し、注目を集めている。

報告書はA.T. カーニーがGoogleの協力を得て統計情報・各種公表情報を調査したのに加え、VC関係者、CVCや大手企業の事業開発担当者、スタートアップ経営陣などの関係者に数多のインタビューをして作成されており、スタートアップに関連する職責の人や興味がある人はぜひ一読をおすすめしたい内容である。

A.T. カーニーは以下の3点を指摘する。

  • 『①ディープテックの先鋭化』:既存の事業モデルの焼き直しや輸入ではなく、大きな経済・社会課題を解決する技術・アイデアの発見・統合・先鋭化
  • 『②ハイリスクな領域での資金の拡充』:具体的な市場や顧客が明確でない段階でのリスクテイクや、中途でのIPOをせずに、じっくりと企業価値を最大化するための中長期的な成長資金の投入
  • 『③多様な人材でのチーム作り』:事業を理解した技術者、起業家、技術に明るい経営人材を、国籍に関係なく集めた最適チームの編成、そのための環境整備

近年の日本のスタートアップの状況は年々向上しているが、まだまだ黎明期の段階のようだ。報告書は「諸外国と比べ、開業率は低いが廃業率も低く、多産多死モデルとは異なる生態系となっている」「また、諸外国と比べると、現時点では経済力対比ではスタートアップへの投資総額は少ない」と指摘し、これは世界と国際的な「スタートアップ」の定義やその運用に乖離が存在することを示唆していよう。

報告書は「時価総額100億円を超える上場が一般的になってきたが、依然として200億円以下の上場が7割を占めている」と指摘。「また、上場後に継続的に事業を成長できている企業は3分の1程度にとどまっている」。

これの含意は日本のスモールIPOが可能な環境を活用した「上場ゴール」が、日本のスタートアップ市場では依然として多数派を占めているということだ。上場後ロングオンリー投資家の投資対象に入るのは時価総額300億円以上の企業に限られていると言われる。上場後、事業が継続成長しないのは事業ポテンシャルを使い切っていたり、高度な人材を集めていなかったり、途中途中で必要だったファイアンスを得られていなかったりと様々な要因を想像することができるかもしれない。

報告書は「日本では、基礎的な研究には相対的に多く投資しているが、革新的なアイデア/技術を先鋭化させるための資金は少ない」と指摘している。報告書は米国防省傘下DARPAを紹介しているが、日本は常に政府の存在感の大きな経済のため好ましいと考えられる。DARPAの投資をコントロールするプログラム・マネジャーは「アカデミア、陸海空軍、シンクタンクなど多岐に渡るが、多くのPMは、民間企業での経験や起業経験を有する」とのことで、日本の官主導のあり方を改める必要がある、と読んでしまった。日本の官僚機構は基本的に学部卒で官庁以外での経験をもたない人々で構成されており、不確実性の高い先端技術投資にはあまり適性がない。また民間にもあまり目利きはないので、カジュアルな投資案件にだけ投資マネーが向いてしまうという難点があったのではないか。

レーターステージのあり方やイグジットのあり方の多様性は日本市場の喫緊の課題のようだ。「大規模な成長資金が求められるレーター段階では、十分な資金が投入されておらず中長期的な成長のボトルネックになっている」。「米国では、企業がM&Aによってスタートアップを取り込み、この後の継続的な成長を支えている」。ユニコーンを目指すには日本市場だけを対象にシているのでは厳しく、また資金調達の面でも日本のプラットフォームだけではおおむね足らなかった。このため最初から国内ではなく海外を拠点に創業し、グローバルでの競争を志向するスタートアップも増えてきているという。

報告書はテックとビジネスの双方がわかる人材、資本市場経営を理解する人材、多様な国籍の人材の活用を提言している。

現状日本の都市はスタートアップエコシステムの上位には存在していないが、潜在性は確かなため、政府による制度設計やステークホルダーの多様化、そして成長するアジア経済との接続性の深化などにより、これらが著しく改善することを傍流の参加者の1人として強く願っている。非常に有用な素晴らしい調査内容に感謝したい。

A.T. カーニー[「日本のスタートアップの現状と今後の展望:足元のスタートアップ市場の活況を、世界に挑むスタートアップの育成につなげるために」](https://www.atkearney.co.jp/VC_study_Google)

🐼Facebook仮想通貨「リブラ」の衝撃

  • リブラはビットコインなどとは競合せず、中央銀行、商業銀行のリテール部門と競合する
  • 国家の管理通貨制度の上にレイヤーを敷いて、自作の通貨制度を建てる挑戦
  • Facebookはリブラの準備金を低リスク金融商品で運用するが、運用益はFBのものらしいので、もしかしたら暗号通貨と引き換えに法定通貨を集めていくビジネスになりうる。

テック経済レビューでまとめたので参照いただきたい。

[Libra White Paper](https://libra.org/en-US/white-paper/)

🦊 Wechat はあなたを見ている

オックスフォード大博士(人類学)のBarclay Bramの中国の監視社会に関する論考。

彼の生活すべてがWechatに包まれており、中国の個人データの活用慣行を考えるとあまりにも恐ろしいという内容。中国政府が構築している社会信用システムは、政府が蓄積した記録に商業的なプロファイルを組み合わせることによってまとめられる予定だ。この商業的なプロファイルとはAnt Financialの「芝麻信用」やTencentと提携しているChina Rapid Financeが開発しているWeChatデータをベースにしたクレジットスコアを指しており、最終的には「ビッグブラザー」化する懸念がある。

Barclay Bram | [We Chat is Watching](http://m.nautil.us/issue/73/play/wechat-is-watching)

こちらも念のため。

吉田拓史 | [パノプティコンの監視社会は人類を幸せにできるか?](https://www.axion.zone/can-panopticon-make-humanitt-happy/)

🐧人口衛星のコスト低下が「軌道経済」を生む

人工衛星の製造と打ち上げのコストは激減し、さまざまな宇宙ベースのビジネスが出現することを可能にした。 この1年で、レーダーを使って雲や暗闇を乗り越えることができる小型衛星が発売された。最近の注目の大部分は、SpaceXとOneWeb(Softbank Vision Fund出資)によって提案された低軌道上のインターネット接続性のための人工衛星だ。 これらは長い間計画されており、それらを設置するのに必要な数十億ドルは市場全体に供給されています。日本でも超小型衛星市場にアクセルスペースや堀江貴文が挑戦している。今後は「衛星軌道の経済」が宇宙空間上に築かれるのかもしれない。

The Economist | Orbital ecosystem

🦁東京郊外が高齢者の「ゲットー」化

Guardianとワセダクロニクルが東京都多摩市の愛宕団地の様子を描いている。2016年に東京郊外の公営住宅の居住者の3分の2が65歳以上に到達しており、超高齢化した公営住宅の状況が描かれている。

内閣府の経済財政白書の「郊外の“街の高齢化”」は「かつて70,80年代に転入してきた世代が老年期へと入り始める中で、転入者数が減少し、さらに団塊ジュニア世代等の若年層が郊外から都心部へ転出していき、その帰結として高齢化が急速に進行した」と説明している。以下のテーブルは2000年と2010年を比較しているが、2019年を比較するともっと過激な様相を呈しているのは想像に難くない。

Guadian[Jun 2019 10/30], Makoto Watanabe, Kazuhiro Tsuji, Robert Hongo and Hideaki Kimura, All photographs by Taishi Sakamoto"How Tokyo's suburban housing became vast ghettoes for the old"

内閣府、経済財政白書「郊外の“街の高齢化”」