ジオフェンシングによる自動車の制御で都市はより安全で気候にやさしくなるか？

［著者：Tanya Mohn］2017年4月、ストックホルム中心部の繁華街で、男が盗んだトラックでデパートに突っ込み、4人が死亡、15人が負傷する事故が発生した。

このテロ事件をきっかけに、スウェーデン政府はデジタル技術を活用することで、この種の事件を防ぐことができないか調査した。そこでスウェーデン政府は、デジタル技術を活用してこのような事件を防ぐ方法を検討し、その1つであるジオフェンシングを都市環境でテストする4年間の研究プログラムを開始した。

ジオフェンシングは、GPSなどの技術を利用したソフトウェアによって、あらかじめプログラムされた、あるいはリアルタイムのアクションを起こし、地理的なエリア内での車両の動きを制御する仮想ツールだ。ゾーン内の車両の速度を規制したり、車両がそこに属しているかどうかを判断したり、ハイブリッド車を自動的に電気駆動モードに切り替えたりすることができる。

スウェーデン交通局のデジタル化担当上級顧問であるヨハネス・ベルクは、この技術によって交通安全が向上し、排出ガスが低減できると述べている。また、道路や天候の状況に応じて速度を調整したり、ドライバーがジオフェンスに囲まれた地域に入る許可証を持っていない場合は車両を停止させるなど、規制の遵守を保証する可能性もあると、ベルクは付け加えている。

単純な使い方では、例えば、走行前に制限のある地図を車両にダウンロードし、低速ゾーンに入ると自動的に速度を下げるような場合、車両を外部ソースに接続する必要はないとベルクは述べている。

しかし、より高度なアプリケーション、例えばリアルタイムでの使用では、車両は接続されていなければならない。ルールや規制はテッククラウドにあり、車両の実際の位置に基づいて変更される可能性があるという。

「クラウドサービスは、車両のテレマティクス接続を利用して、車両のエンジンにアクセスすることができる」とベルクは言う。

2019年に一連のジオフェンシングの試験を開始したスウェーデンは、長年、車両関連の安全性において革新的な取り組みを行ってきた。1990年代には、ヒューマンエラーを考慮した安全へのアプローチである「ヴィジョン・ゼロ（Vision Zero）」を導入している。その目標は、交通事故死と重傷者をすべてなくすことであり、何重もの保護層を作り、一つが失敗しても、他のものがセーフティネットを作るというものだ。

スウェーデンの事故死率は世界で最も低く、世界の多くの都市がこのアプローチを導入している。今年初め、米国運輸省は、米国内の死者数の急激な増加に対応するため、この戦略を正式に採用した。

ストックホルムでは、ジオフェンシングのパイロットプログラムは、市内中心部の商業交通に焦点を当て、一般的に人通りの少ない夜間に低速で企業への配達が可能かなどを評価した。

「電気駆動に切り替えると、低速度と組み合わせて、夜間のトラック配送をほとんど無音にすることができる」とベルクは言う。「夜間の配送を増やすことで、昼間のラッシュアワーの混雑を緩和し、24時間均等な交通の流れを作ることができる」と、ベルクは述べている。

また、歩道に設置したセンサーで歩行者の流れを監視し、それをきっかけに試験車両の速度を下げるという実験も行っている。

「実際にトラックは自動的に速度を落としている」とベルクは言う。

ヨーテボリは、公共交通機関でのジオフェンシングのテストに率先して取り組んでいる。2015年から、ボルボ・グループを含む地域の官民パートナーシップである「エレクトリックシティ（ElectriCity）」と協力し、2つのバス路線でこの技術の評価を行っている。評価では、商店街や交差点など人通りの多い場所に焦点を当てた。現在、市はリアルタイムの状況に基づいてジオフェンスゾーンを調整する機能を持ち、バスの運転手は変更に関する情報を自動的に得ることができる。

このほど終了した試験では、指定されたエリアでは電気駆動モードで安全かつ燃費のよい速度でバスが運行された。

ヨーテボリ都市交通局のプロジェクトマネージャーであるマリン・シュトルトは、「ジオフェンシングは、空気の質が良く、騒音の少ない、より安全な都市を作るためのツールだと考えている」と述べている。

このほかにも、学校周辺の交通安全強化や、自転車を保護するためのスマートな都市交通ゾーンの構築などのパイロットプロジェクトが進行中だ。複雑な交差点で公共交通機関の車両を優先的に誘導するジオフェンス技術は、すでにヨーテボリで日常の交通に利用されている。

ジオフェンシングは、都市空間をよりダイナミックに活用することにも貢献できるとシュトルトは述べている。

「時間帯や季節によって、エリアを簡単に変更し、異なる用途に使用することができる」と彼女は述べている。

スウェーデンのヨーテボリにある電気バスの充電ステーション。交通機関Västtrafik提供。

この試みは好評だという。少なくとも、もう一つのバス会社はこの技術を取り入れる予定だ。また、安全面だけでなく、車両の摩耗を考慮して、オペレーターもジオフェンシングを認めているそうだ。

スウェーデン国家ジオフェンシングプログラムの主任コーディネーターであるロドリゲ・アル・ファヘルは、ジオフェンシング技術はしばらく前から開発されており、携帯電話の位置情報に基づいて携帯電話にメッセージを送る、商用車の管理、最高速度の設定、電子スクーターの駐車制御、7月から欧州連合のすべての新車に義務付けられるISA（自動速度抑制装置）などのADAS（先進運転支援システム）の強化に使われている、と述べた。

スウェーデンは、一般交通を対象としたジオフェンシングの実験が最も盛んな国のひとつであり、「素晴らしいコラボレーション環境」のおかげだとアル・ファヘルは述べている。

しかし、ジオフェンシングの普及に必要な規模のデータ収集、標準化、デジタル化は、依然として困難な課題となっている。まず、開発者は交通ルールを機械で読み取り可能にする方法を考え出し、通信規格を決めなければならない。

「これはまだ完全に開発されていないことだ」とアル・ファヘルは言う。

しかし、ヨーロッパではGeoSenceやNordicWayのようなプロジェクトを通じて、進歩を助ける協力関係が発展している。

最近の市場分析と最新技術のレポートでは、ジオフェンシングはより広く利用されるようになると結論づけている。

「これは都市のためのツールだ」とアル・ファヘルは言う。「今までとは違う方法で都市計画を行うことができる」

「私たちは、それが交通や輸送システムに与える可能性と効果を調べようとしている。技術開発だけでなく、関係者全員に受け入れられ、機能するシステムを作ることが重要なのだ」とアル・ファヘルは語った。

スウェーデン交通局のベルクは、「このパイロットプログラムは最終年度を迎え、スウェーデン政府は、自治体が交通管理にジオフェンシングを利用できるよう、交通ルールなどを改正する法律を検討しているほど有望な結果を得ている」と述べている。

技術の新しい使い方は、プライバシーの問題を持ち出す可能性がある。しかし、スウェーデンのプログラムが個人ドライバーではなくプロのドライバーに焦点を当てた理由の1つは、「車両が雇用者によって提供されるツールである場合は異なると考えている」とベルクは言う。

しかし、EUが世界で最も安全な道路システムを持っていると考えられている理由の1つは、加盟国が個人の権利とともに、地域社会の責任を重視していることだと専門家は指摘する。

「この技術はテロリストを阻止する防弾にはならないかもしれないが、技術をスマートにして交通システムをよりダイナミックにすることができれば、真に持続可能な交通システムを作ることができる」と、ベルクは語った。「すべてがより効率的になる」

「高い目的とは、安全性と持続可能性だ。それらは一緒になる」