畜産完全廃止でCO2排出が70%カットできる説
もし世界が今後15年の間にすべての肉・乳製品の生産をやめた場合、今後30年から50年の間、他のすべての経済部門からの排出を相殺するほどの温室効果ガスの排出を防ぐことができると植物肉ベンチャーを支援する研究者が主張した。

要点
もし世界が今後15年の間にすべての肉・乳製品の生産をやめた場合、今後30年から50年の間、他のすべての経済部門からの排出を相殺するほどの温室効果ガスの排出を防ぐことができると植物肉ベンチャーを支援する研究者が主張した。
植物性食肉新興企業「インポッシブル・フーズ」の創業者で、スタンフォード大学名誉教授のパトリック・ブラウンとカリフォルニア大学バークレー校の計算生物学者マイケル・アイゼンが執筆した研究は、畜産を廃止することで、今世紀中に排出される二酸化炭素の68%を相殺することができると主張し、波紋を広げている。
学術誌「PLOS Climate」に掲載された論文は、通常のビジネスから畜産を廃止するまでのさまざまなシナリオで温室効果ガス(GHG)レベルをモデル化した。その結果、他のセクターの排出量を削減しなくても、畜産を廃止することで大きな変化が生じることがわかった。
アイゼンとブラウンは、21世紀中に畜産が完全になくなった場合の温室効果ガスの量を予測した。その結果、年間25ギガトンの炭素排出量が削減され、これは人為的に発生するCO2の約70%に相当すると主張している。これは、気温上昇を2℃以下に抑えるために必要な排出削減量の半分に相当する。
この分析によると、2019年(全データが入手可能な直近の年)の世界の動物由来の食品生産は主にエネルギー使用による1.6ギガトンのCO2、主に腸内発酵と糞尿管理による120メガトンのCH4、主に飼料作物への施肥と糞尿管理による7.0メガトンのN2Oの直接排出をもたらしたことになるという(図1)。

最近のニューヨーク大学の環境学助教授助教授マシュー・ハイエックによる推定では、現在畜産に充てられている地球の陸地表面の30%に自生のバイオマスを回復させれば、光合成によって800ギガトンのCO2相当の炭素が固定されるとしている。これを踏まえ、アイゼンらは「大雑把に言えば、畜産をなくせば、今世紀中に約1,350ギガトンのCO2相当の純排出量を削減できる可能性がある」と主張している。

「ポジショントーク」の側面もし適されるが…
ただ、この研究は、動物性タンパク質からの脱却によって利益を得るであろうインポッシブル・フーズの創業者であるブラウンと同社の顧問を務めるアイゼンから与えられたものだということだ。ふたりとも同社の株主である。著者は論文の中で自分の利益相反を開示している。