エアコンの二酸化炭素排出量について冷静になる時:David Fickling[ブルームバーグ・オピニオン]
化石燃料の時代はどのように始まったのだろうか? ヨーロッパ人が冬に家を暖めるようになったからだ。中世の英国が、減少しつつあった森林からの薪の代わりにノーザンブリアの海岸から掃き出された石炭に目を向けなければ、産業革命は始まらなかっただろう。
(ブルームバーグ・オピニオン) — 化石燃料の時代はどのように始まったのだろうか? ヨーロッパ人が冬に家を暖めるようになったからだ。
中世の英国が、減少しつつあった森林からの薪の代わりにノーザンブリアの海岸から掃き出された石炭に目を向けなければ、産業革命は始まらなかっただろう。世界初の大気汚染法のひとつは、1306年にロンドンで「Sea-coal (微粉状の瀝青炭)」を燃やすことを禁止した布告だった。私たちはあまりにも長い間、暖房とその二酸化炭素排出量を当たり前のこととして受け止めてきたのである。

それは間違いだ。ここ数週間、世界中の気温が次々と記録を更新しており、私たちが自宅を冷やすために使用するエネルギーが気候に与える影響の増大に対する懸念は尽きない。うだるような暑さの発展途上国の人々は、この10年の終わりまでに10億台のエアコンを購入することになるだろう。
それでも、ほとんどすべてのもっともらしいシナリオのもとで、2050年の気候は冷房よりも暖房のほうがより大きな被害をもたらすだろう。人類の福祉と世界の不平等を解決するエネルギー転換を望むのであれば、発展途上国におけるエアコンの台頭にはもっと寛容になるべきであり、豊かな国々における従来型の暖房の存続についてはもっと憂慮すべきである。
数字は明白だ。国際エネルギー機関(IEA)によれば、昨年、世界全体で暖房による排出量は冷房による排出量の約4倍に上った。家庭の暖房の大半はガス、重油、石炭を燃料とするボイラーを使用しているため、電気ストーブだけで、地球上のすべてのエアコンの約3分の2の排出量を占めている。

その恩恵も均等ではない。オーストリアの国際応用システム分析研究所(IIASA)のアレッシオ・マストルッチが率いる2021年の研究によれば、世界人口の約4分の1を占めるヨーロッパ、旧ソ連、アメリカ大陸は、2025年には冷暖房による排出量の約59%を占めるという。これに先進国の基準をほぼクリアしている中国を加えると、その割合は84%に達する。
では、なぜ冷房による二酸化炭素排出量は比較的少ないのに、これほど懸念されているのだろうか?
その要因のひとつは、冷房と暖房のもたらす結果が異なることである。温暖化した地球では、赤道に近い国々で所得が急上昇しており、特に南半球で冷房需要が急増する。一方、冬が温暖化し、人口増加が停滞し、断熱材やヒートポンプが普及すれば、北半球では暖房による排出量が減少するはずだ。

それでも、マストルッチの2021年の研究によれば、2050年にはヨーロッパ、旧ソ連、北米の家庭の暖房による排出量は、全世界の冷房によるフットプリントよりも大きくなるという。
技術、効率、そして温暖化する気候が、今後数十年の間に暖房の炭素集約度を低下させるという楽観的な見方には十分な理由がある。2022年までの10年間で、暖房のCO2排出量は1億5,800万トン増加し、冷房の1億8,000万トン増加をわずかに下回っている。

エアコンの台頭が、気候への影響とは別に、世界のエネルギーシステムに新たな課題をもたらすことも事実である。ガスや重油のボイラーはすべて、家庭の暖房がエアコンのように電力網にストレスを与えないことを意味する。
デリーでは、電力総消費量が42%増加したのに対し、ピーク時の電力需要は2018年までの10年間で64%急増した。このピーク・アンド・トラフのパターンは、電力網のプランナーにとって管理が非常に難しい。特に、一般家庭はソーラーパネルが稼働している日中よりも、夕方や夜にエアコンを使う傾向が強いからだ。
しかし、これに対する解決策は、今後10年間で初めて冷房装置を購入する何十億人もの発展途上国を叱ることではない。多くの場合、気温が生存の限界を超えるレベルまで上昇したとき、それらの電化製品は文字通り命の恩人となるだろう。それよりも、より低いカーボンフットプリントで、より良い生活水準をすべての人に提供する方法を模索すべきである。

最も効率的なエアコン(および暑さがそれほど強くない時期には扇風機)を購入するよう奨励金を与えれば、電気系統への負担、排出量、電気代を減らすことができる。天然ガスのプロパンは、現在主流となっているフッ素化合物よりも気候に優しい冷媒かもしれないのだから。
建築基準法も導入され、施行され、強化されるべきである。エアコンは多くの場合、悪い設計の欠陥を補っているに過ぎない。今後数十年の間に急速に都市化が進む発展途上国が建設する数十億戸の住宅の冷房需要を削減するには、ゆとりのある日陰と相互換気を可能にする間取りが最適である。
しかしなによりも世界は、公正なエネルギー転換が必然的に貧しい国々により多くのエアコンを使用させ、裕福な地域が当たり前と思っている家庭内の快適さのレベルを達成させることを受け入れるべきである。
化石燃料を燃料とするボイラーを手放し、より効率的なヒートポンプを導入しようともがいている先進国は、サーモスタットの温度を1~2度下げたり、屋根や壁を断熱したり、真冬には窓を閉め切ったりすることはおろか、世界の他の国々に説教を始める前に、自分たちの家をきちんと整えなければならない。
Time to Chill Out About Air Conditioning’s Carbon Footprint: David Fickling
By David Fickling
© 2023 Bloomberg L.P.
翻訳:吉田拓史、株式会社アクシオンテクノロジーズ