デジタル人民元、順風満帆

要点

7月に公開された白書でその進展具合が報告されていたデジタル人民元。最近の報道でその応用範囲がますます広がっていることが観測されている。来年のオリンピックでは外国人観光客にも開放される見込みだ。


2021年9月3日から7日まで、サービス業の国際展示会「中国国际服务贸易交易会」が北京で開催され、デジタル人民元にまつわる様々な製品やサービスが展示された。

国営新華社通信の記者は、デジタル人民元の体験コーナーで、「携帯電話で『デジタル人民元アプリ』を開き、個人アカウントを登録し、ウォレットを追加してお金を入れ、パスワード設定を完了すれば、デジタルウォレットを開くことができる。 その後、コードを読み取るか、QRコードを見せることで、支払いを完了することができる」と書いている。

ウォレットを選択する際には運営金融機関を選択する必要があるが、現在、中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行、中国建設銀行、中国交通銀行、中国郵政儲蓄銀行の6つの国営銀行に加え、アリババとテンセントのグループ企業であるネット銀行がその対象となるという。「 ウォレットが追加されると、モバイルバンキングと紐付けされた銀行カードによるチャージの2つの方法で、ウォレットへのチャージが可能になる」と書いている。

ここまではモバイルペイメントと同様の技術仕様のように見受けられる。ただ、中国人民銀行の公開情報が正しければ、デジタル人民元は許可型チェーンを利用した暗号通貨であり、ソフトウェアの構造はAlipayやWeChatPayとは完全に異なる。

利用者側からみたデジタル人民元とAlipayやWeChatによる送金の最大の違いは「インターネットに接続できなくても、バスの中でカードをスワイプするような感覚で決済ができることだ」と記者は記述している。

デュアルオフライン決済(dual offline payment)によって実現されていると説明されてきた。これは、媒体と受信端末がオフラインの場合でも、デバイス間の通信でサービスを完結させる処理を指している。具体的にはその場の支払い(ペイメント)を先に完了させ、決済(セトルメント)を先延ばしにする。支払者がオフラインで取引メッセージを構築して署名し、署名された取引メッセージをニアフィールド通信(NFC)で受取人に渡し、最終的にインターネットを通じて中央銀行が管理するチェーンに渡すという段取りだ。

アントグループに迫るデジタル人民元の巨大なリスク
中国政府に市場を奪われる前に上場する強硬策

国営企業が率先して採用

デジタル人民元が目標とするのはマネーサプライにおけるM0と呼ばれる区分だ。M0は「すべての現物通貨と、現物通貨と交換可能な中央銀行の口座の合計」であり、いわばリテールの現金の流通部分を指す。つまり、AlipayやWeChat Payが占拠している所を横取りしようとしている。

展示会の最中には、中国の3大通信キャリアの一角である中国電信(チャイナテレコム)のモバイルウォレット「翼支付」と中国銀行のデジタル人民元ウォレットアプリが正式にスタートした、と第一財経が報じた。

ユーザーは翼支付のなかでワンタップでウォレット内のデジタル人民元ウォレット(中国銀行が提供)を開くことができ、実名認証を通過して銀行カードと照合した後、デジタル人民元による銀行預金、通貨交換、送金などの操作を行うことができるようになるという。

さらに、報道によると、翼支付はユーザーが普遍的な割引クーポンを入手できるデジタル人民元ショッピングモールをアプリ内に立ち上げ、中国電信のローカルネットワークのユーザーは、モール内で利用データ量の追加を行うこともできるという。

翼支付は昨年の段階ですでに中国銀行と共同でデジタル通貨ハードウォレットを開発し、ユーザーはデジタル通貨ハードウォレットの登録、口座開設、デジタル通貨の受け取り、デジタル通貨での支払い、デジタル通貨の交換、銀行への預金、デジタル通貨の送金などのアプリケーション体験がを可能にしていた。

展示会では、消費者向けのデジタル人民元の物理的なウォレット(ハードウェアウォレット)と小売店舗側の決済端末がさかんに展示されたようだ。

紫光国微はセキュリティチップを用いたハードウェアウォレットを提案した。デジタル人民元向けの最高グレードのセキュリティチップは、機密情報の保存と取引プロセスの安全性を確保することができると同社は主張している。セキュリティチップはデジタル人民元の技術仕様に含まれる「信頼される実行環境」(TEE)を満たすために役立つ。

TEEは他の処理と分離されており、トランザクションに関連する処理をTEE(紫光国微のマーケターは「セキュリティチップ」と呼んでいる)で実行する。デバイス間でオフライン決済を実行し、それがブロックチェーンに配送されるとき、このような「信頼される実行環境」で決済がなされていることは、誤ったトランザクションをチェーンに紛れ込ませるというような攻撃の重要な防御壁となる。

累計約345億元(約5,866億円)の取引

近年、デジタル人民元ビジネスの発展は“高速道路”に入り、10以上の大中都市で幅広いシナリオで試験的に行われている。このデジタル人民元は、北京、上海、深圳、江蘇省東部の蘇州など多くの都市で、地下鉄の料金支払いやオンラインショッピング、さまざまな業者での商品購入に利用できるようになった。また、2022年の北京冬季オリンピックでも使用される見込みで、外国人もデジタルウォレットを開設してテストに参加できるようになっている。

7月に中国人民銀行のeCNY研究開発部門から発表された白書によると、2021年6月30日時点で、卸売・小売、飲食・観光、教育・医療、公共交通、政府決済、徴税、補助金の支払いなどの分野で、オンラインとオフラインの両方をカバーする132万件以上のデジタル人民元のパイロットシナリオが存在し、2087万件以上の個人用ウォレットと351万件以上の公共用ウォレットが開設されているという。 2,087万個以上のパーソナルウォレットと351万個以上のパブリックウォレットが開設され、累計で7,075万件以上の取引と約345億元(約5,866億円)の価値が発生している。

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