ソフトバンクのドラマの日々は終わった―Gearoid Reidy
後藤氏に引き継いだ孫氏のスピーチには、時代の終わりを感じるものがあった。ブロードバンドサプライヤー、携帯電話事業者、投資大手と、これまで何度も生まれ変わってきたソフトバンク。次の生まれ変わりは、単に少し退屈なだけなのかもしれない。

(ブルームバーグ・オピニオン) --ソフトバンク・グループは長年、派手な決算イベントで目立ってきた。かつての通信会社が世界最大のベンチャーキャピタル投資家に変貌を遂げるにつれ、ウォーレン・バフェットの株主への年賀状をサイケデリックにしたような、必見の資料となってきた。創業者である孫正義のスライドとコメントには、金の卵、空飛ぶユニコーン、イエス・キリストになぞらえたもの、WeWorkの不可解な利益予測などなど、すべてが詰まっている。
悪いときでさえ、孫正義氏は謎の方程式を解かせたり、戦国武将の歴史を語らせたりしていた。それに比べると、金曜日の決算は、率直に言って、かなり退屈だった。
そして、さらに退屈なものになりそうだ。孫氏は、NVIDIAへの売却に失敗したチップ設計会社Armの再建に専念するため、将来のイベントや日々の経営から手を引くつもりであることを明らかにした。投資家が孫氏の話を聞けるのは、6月の株主総会だけとなる。
これは、何十年にもわたる前例に反することだ。孫氏は、金曜日に今のところ最後の演説を行い、Armの計画について約25分話した後、最高財務責任者の後藤芳光氏に引き継いだ。後藤氏は、これまでよりもずっと伝統的な数字とグラフを使った説明をしてくれた。
日本では、決算説明会のほとんどをCFOが行うのは珍しいことではない。先週は、ソニーグループの吉田憲一郎CEOではなく、CFOの十時裕樹氏がメディア向けに講演を行ったばかりだ。しかし、ソフトバンクは長い間、伝統的な日本企業とは一線を画してきた。孫氏の率直さ、あらゆる質問を受ける姿勢、自虐的な発言と自慢話の組み合わせ(さらに、本当に驚くような数字の可能性)により、この決算発表は必見のテレビ番組となったのである。
少なくとも、しばしば疑問視される同社の投資ビジネスモデルにとって市場環境が好転するまでは、控えめで、スポットライトを浴びないことが望まれる。
「インフレはすぐには収まらないし、上場企業でも厳しいのに、ましてや非上場企業では」と孫氏は後藤氏にバトンタッチする前に言った。「ディフェンスを強化しなければならない」
ソフトバンクは今年初め、元バンカーの後藤氏が率先して守りの態勢に入ると宣言したが、これは冗談ではなかった。その結果、今期はほとんど話題に上らなかった。新たな自社株買いの発表もなければ、新たな資産売却もなく、3月期末に延期されたArmの新規株式公開(IPO)に関する目立った進展もなかった。
孫氏は、「会社の新しい成長エンジン、そして彼の言う『情報革命』のエンジンになる」と宣言しているArmに、夢中になってしまったようで、「本当は売りたくなかった」と言った。孫氏が最も時間を費やすことになるのは、IPOの評価額を彼が期待する水準まで引き上げることだろうが、この市場においてこれは容易なことではないだろう。
後藤氏は、孫氏に比べればはるかに伝統的な人物であり、安全性と安定性を強調し、キャッシュポジションと低い借入比率を強調し、市場環境はいずれ良くなるが、保守的なアプローチを取るつもりであると述べた。
これは、すでにビジョン・ファンドの新規投資の急減に見られる雰囲気だ。9月までの3ヵ月間に投じられた資金はわずか3億ドルで、前年同期比97%減となった。今後の四半期はさらにみじめになりそうだ。投資を求める新興企業にとっては、悪い時代になりそうだ。

後藤氏は、中国(「日に日に不安定になる」)と暗号資産(「Vision Fundのビジョンにはない」)に対する懐疑論を強調した。FTX.comのニュースでさえ、ソフトバンクがサム・バンクマン=フリードの問題の暗号資産取引所に行った1億ドルの投資が金曜日に明らかになり、一部の人が突飛に予測した10億ドルに遠く及ばなかったことから、あまり刺激的ではなかったようである。暗号通貨に対するソフトバンクの懐疑論は、今では予想外に先見の明があるように見える。
今日に至るまで、同社はすでにカラフルなパワーポイントデッキから離れつつあり、不要な注目を集め始めていた。孫氏の時代から、プレゼンは平凡なものになり、物語よりも数字が重視されるようになっていた。
しかし、後藤氏に引き継いだ孫氏のスピーチには、時代の終わりを感じるものがあった。創業者は当面Armに専念するとのことで、「情報化時代のベンチャーキャピタル」ソフトバンクのスワンソング(訳注:死ぬまぎわに白鳥がうたうという歌)のような感じさえする。ブロードバンドサプライヤー、携帯電話事業者、投資大手と、これまで何度も生まれ変わってきた同社。次の生まれ変わりは、単に少し退屈なだけなのかもしれない。
Son Steps Away, and SoftBank’s Days of Drama Are Over: Gearoid Reidy
© 2022 Bloomberg L.P.
翻訳:吉田拓史、株式会社アクシオンテクノロジーズ