ソフトバンクのドラマの日々は終わった―Gearoid Reidy

後藤氏に引き継いだ孫氏のスピーチには、時代の終わりを感じるものがあった。ブロードバンドサプライヤー、携帯電話事業者、投資大手と、これまで何度も生まれ変わってきたソフトバンク。次の生まれ変わりは、単に少し退屈なだけなのかもしれない。

ソフトバンクのドラマの日々は終わった―Gearoid Reidy
2020年11月4日(水)、横浜で開催された国際青年会議所(JCI)世界大会で基調講演を行い、退場するソフトバンクグループ株式会社の孫正義会長兼最高経営責任者(CEO)。

(ブルームバーグ・オピニオン) --ソフトバンク・グループは長年、派手な決算イベントで目立ってきた。かつての通信会社が世界最大のベンチャーキャピタル投資家に変貌を遂げるにつれ、ウォーレン・バフェットの株主への年賀状をサイケデリックにしたような、必見の資料となってきた。創業者である孫正義のスライドとコメントには、金の卵、空飛ぶユニコーン、イエス・キリストになぞらえたもの、WeWorkの不可解な利益予測などなど、すべてが詰まっている。

悪いときでさえ、孫正義氏は謎の方程式を解かせたり、戦国武将の歴史を語らせたりしていた。それに比べると、金曜日の決算は、率直に言って、かなり退屈だった。

そして、さらに退屈なものになりそうだ。孫氏は、NVIDIAへの売却に失敗したチップ設計会社Armの再建に専念するため、将来のイベントや日々の経営から手を引くつもりであることを明らかにした。投資家が孫氏の話を聞けるのは、6月の株主総会だけとなる。

これは、何十年にもわたる前例に反することだ。孫氏は、金曜日に今のところ最後の演説を行い、Armの計画について約25分話した後、最高財務責任者の後藤芳光氏に引き継いだ。後藤氏は、これまでよりもずっと伝統的な数字とグラフを使った説明をしてくれた。

日本では、決算説明会のほとんどをCFOが行うのは珍しいことではない。先週は、ソニーグループの吉田憲一郎CEOではなく、CFOの十時裕樹氏がメディア向けに講演を行ったばかりだ。しかし、ソフトバンクは長い間、伝統的な日本企業とは一線を画してきた。孫氏の率直さ、あらゆる質問を受ける姿勢、自虐的な発言と自慢話の組み合わせ(さらに、本当に驚くような数字の可能性)により、この決算発表は必見のテレビ番組となったのである。

少なくとも、しばしば疑問視される同社の投資ビジネスモデルにとって市場環境が好転するまでは、控えめで、スポットライトを浴びないことが望まれる。

「インフレはすぐには収まらないし、上場企業でも厳しいのに、ましてや非上場企業では」と孫氏は後藤氏にバトンタッチする前に言った。「ディフェンスを強化しなければならない」

ソフトバンクは今年初め、元バンカーの後藤氏が率先して守りの態勢に入ると宣言したが、これは冗談ではなかった。その結果、今期はほとんど話題に上らなかった。新たな自社株買いの発表もなければ、新たな資産売却もなく、3月期末に延期されたArmの新規株式公開(IPO)に関する目立った進展もなかった。

孫氏は、「会社の新しい成長エンジン、そして彼の言う『情報革命』のエンジンになる」と宣言しているArmに、夢中になってしまったようで、「本当は売りたくなかった」と言った。孫氏が最も時間を費やすことになるのは、IPOの評価額を彼が期待する水準まで引き上げることだろうが、この市場においてこれは容易なことではないだろう。

後藤氏は、孫氏に比べればはるかに伝統的な人物であり、安全性と安定性を強調し、キャッシュポジションと低い借入比率を強調し、市場環境はいずれ良くなるが、保守的なアプローチを取るつもりであると述べた。

これは、すでにビジョン・ファンドの新規投資の急減に見られる雰囲気だ。9月までの3ヵ月間に投じられた資金はわずか3億ドルで、前年同期比97%減となった。今後の四半期はさらにみじめになりそうだ。投資を求める新興企業にとっては、悪い時代になりそうだ。

小さなビジョン|ソフトバンクの投資額はどんどん減っている

後藤氏は、中国(「日に日に不安定になる」)と暗号資産(「Vision Fundのビジョンにはない」)に対する懐疑論を強調した。FTX.comのニュースでさえ、ソフトバンクがサム・バンクマン=フリードの問題の暗号資産取引所に行った1億ドルの投資が金曜日に明らかになり、一部の人が突飛に予測した10億ドルに遠く及ばなかったことから、あまり刺激的ではなかったようである。暗号通貨に対するソフトバンクの懐疑論は、今では予想外に先見の明があるように見える。

今日に至るまで、同社はすでにカラフルなパワーポイントデッキから離れつつあり、不要な注目を集め始めていた。孫氏の時代から、プレゼンは平凡なものになり、物語よりも数字が重視されるようになっていた。

しかし、後藤氏に引き継いだ孫氏のスピーチには、時代の終わりを感じるものがあった。創業者は当面Armに専念するとのことで、「情報化時代のベンチャーキャピタル」ソフトバンクのスワンソング(訳注:死ぬまぎわに白鳥がうたうという歌)のような感じさえする。ブロードバンドサプライヤー、携帯電話事業者、投資大手と、これまで何度も生まれ変わってきた同社。次の生まれ変わりは、単に少し退屈なだけなのかもしれない。

Son Steps Away, and SoftBank’s Days of Drama Are Over: Gearoid Reidy

© 2022 Bloomberg L.P.

翻訳:吉田拓史、株式会社アクシオンテクノロジーズ

Read more

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)