量子インターネット、データのテレポーテーションに活路
デルフト工科大学の研究者たちと、量子コンピューティングネットワークの3つのノードのうちの1つ。鏡、フィルター、レーザーを使って、人工ダイヤモンドに電子を誘導する。(Marieke de Lorijn for QuTech via The New York Times) 

量子インターネット、データのテレポーテーションに活路

科学者たちは、離れた量子コンピューター間で量子情報を送る能力を向上させ、未来のネットワークに向けて新たな一歩を踏み出した。量子テレポーテーションは、情報を保持する物理的な物質を実際に動かすことなく、場所と場所の間で情報を転送することができる。

ニューヨーク・タイムズ

[著者:Cade Metz]カリフォルニア州サンタバーバラから中国の合肥市まで、科学者たちは今日のマシンがおもちゃに見えるような、新しい種類のコンピュータを開発している。

量子力学の不思議な力を利用したこのテクノロジーは、スーパーコンピューターでさえ数千年かかっても完了できないような作業を数分で行うことができるようになる。2019年秋、グーグルはこれが可能であることを示す実験的な量子コンピュータを発表した。その2年後、中国の研究室がほぼ同じことを行った。

しかし、量子コンピューターは、別の技術的ブレークスルーの助けなしに、その可能性に到達することはないだろう。それは「量子インターネット」と呼ばれるもので、離れたマシン間で量子情報を送ることができるコンピューターネットワークである。

オランダのデルフト工科大学では、物理学者のチームが、量子テレポーテーションと呼ばれる技術を使って、3つの物理的な場所を越えてデータを送信し、この未来のコンピューターネットワークに向けて重要な一歩を踏み出した。これまでは、2つの物理的な場所にしかデータを送ることができなかった。

この新しい実験は、科学者が量子ネットワークをますます多くの拠点に張り巡らせることができることを示している。「我々は今、研究室で小さな量子ネットワークを構築している」と、デルフト大学の物理学者で、このチームを監督しているロナルド・ハンソン氏は言いました。「アイデアは、最終的に量子インターネットを構築することだ」

彼らの研究は、今週、科学雑誌ネイチャーに掲載された論文で発表され、アルバート・アインシュタインがかつて不可能とした現象の力を実証している。量子テレポーテーションは、アインシュタインが「離れた場所での不気味なアクション」と呼んだもので、情報を保持する物理的な物質を実際に動かすことなく、場所と場所の間で情報を転送することができる。

この技術は、データが場所から場所へと移動する方法を大きく変える可能性がある。量子力学は、素粒子の世界を支配する物理学の一分野であり、私たちが日常生活で経験するものとは全く異なる振る舞いをするため、1世紀以上にわたる研究が行われてきた。量子テレポーテーションは、量子コンピューター間でデータを移動させるだけでなく、誰にも傍受されない方法でそれを行うことができる。

インスブルック大学実験物理学研究所の研究者で、量子テレポーテーションの研究も行っているトレイシー・エレノア・ノーサップ氏は、「これは、量子コンピューターがあなたの問題を解決できるだけでなく、量子コンピューターが何が問題なのかを知らないままである(プライバシーが守られる)ことを意味する」と述べている。「しかし、今日ではそうはいかない。グーグルは、あなたがサーバーで何を実行しているかを知っている」

デルフト工科大学の量子コンピュータの内部にあるダイヤモンドのサンプル。ダイヤモンド表面の金構造が、量子プロセッサーの制御を可能にする。Matteo Pompili for QuTech

量子コンピューターは、電子や光の粒子のように非常に小さいものや、華氏マイナス460度というほぼ絶対零度に冷却されたエキゾチックな金属のように非常に冷たいものの奇妙な振る舞いを利用するものだ。このような状況では、1つの物体が同時に2つの別の物体のように振る舞うことがある。

量子ビットは、量子力学の不思議な性質を利用して、「1」と「0」の組み合わせを記憶しておくことができる。

つまり、2つの量子ビットは一度に4つの値を保持でき、3つの量子ビットは8つの値を、4つの量子ビットは16の値を保持できるのである。量子ビットの数が増えれば増えるほど、量子コンピュータは指数関数的に強力になる。

研究者たちは、量子コンピュータが新薬の開発や人工知能の開発を加速させ、国家安全保障に不可欠なコンピュータを保護する暗号を解読する日が来ると信じている。世界中で、政府、学術研究所、新興企業、ハイテク大手が数十億ドルを投じて、この技術を探っている。

2019年、グーグルは自社のマシンが科学者が「量子至上主義」と呼ぶものに到達し、従来のコンピューターでは不可能だった実験的なタスクを実行できるようになったと発表した。しかし、ほとんどの専門家は、量子コンピューターが他の機械ではできないような有用なことを実際に行えるようになるまでには、少なくともあと数年はかかると考えている。

量子ビットは、情報を読み出すと壊れてしまう、つまり「0」か「1」のみを保持できる普通のビットになり、両方を保持できなくなることが課題の一つだ。しかし、多くの量子ビットをつなぎ合わせ、デコヒーレンスから保護する方法を開発することで、科学者は強力かつ実用的なマシンを作りたいと考えている。

最終的には、グーグルやアマゾンのようなクラウドコンピューティングサービスによって処理能力に広くアクセスできるようになるのと同じように、これらの装置をネットワークに接続してノード間で情報を送信し、どこからでも利用できるようにすることが理想的である。

しかし、これには問題がある。量子情報にはデコヒーレンス(非干渉性)があるため、従来のネットワークでコピーして送信することはできない。そこで、量子テレポーテーションという方法がある。

物体を移動させることはできないが、「エンタングルメント」(量子もつれ)と呼ばれる量子的な性質を利用して、情報を移動させることができる。ある量子系の状態が変化すると、瞬時に離れた別の量子系の状態にも影響を与えるのだ。

「エンタングルメントの後では、これらの状態を個別に記述することはできなくなる」とノーサップは言う。「根本的に、それは今、一つのシステムなのだ」

これらのもつれたシステムは、電子、光の粒子、または、他の物体である可能性がある。オランダのハンソン教授と彼のチームは、窒素空孔センターと呼ばれる、人工ダイヤモンドの中にある電子を捕捉できる小さな空孔を利用した。

テレポートした量子情報の受信機であるアリスというノード。Marieke de Lorijn for QuTech

この量子システムを3つ作り、アリス、ボブ、チャーリーと名付け、光ファイバーで一列につないだ。そして、これらの量子系の間に個々の光子(光の粒子)を送ることで、量子系を”エンタングル”することができた。

まず、アリスとボブの2つの電子をエンタングルした。このとき、2つの電子には同じスピンが与えられ、共通の量子状態で結合(エンタングル)され、それぞれが同じ情報(1と0の組み合わせ)を記憶していた。

そして、この量子状態を、ボブの人工ダイヤモンドの中にある別の量子ビット(炭素原子核)に転送することができた。すると、ボブの電子が解放され、チャーリーの電子と絡め取ることができた。

さらに、ボブの電子と炭素核の両方の量子ビットに特定の量子操作を施すことで、2つのもつれ合いを接着させることができた。アリス+ボブは、ボブ+チャーリーに接着された。

その結果、アリスはチャーリーと絡み合うことができた。その結果、アリスはチャーリーと絡み合い、3つのノード間でデータをテレポートさせることができた。

このようにデータが移動すると、ノード間の距離を実際に移動することなく、データが失われることはない。ハンソンは、「情報は、接続の片側に供給され、もう片側に現れることができる」と語った。

また、情報を傍受することもできない。量子テレポーテーションを利用した未来の量子インターネットは、理論的には解読不可能な新しい種類の暗号を提供することができるだろう。

今回の実験では、ネットワークノードの距離はそれほど離れておらず、わずか約60フィートだった。しかし、これまでの実験で、量子システムはもっと長い距離でもつれ合うことができることが分かっている。

さらに数年の研究を経て、量子テレポーテーションが何マイルも離れた場所でも実現できるようになることが期待されているとハンソン氏は言う。「我々は今、研究室の外でこれを行おうとしている」

Original Article: ‘Quantum Internet’ Inches Closer With Advance in Data Teleportation.

© 2022 The New York Times Company.