MITとボストン連銀の決済システムはCBDCのゲームチェンジャーか?

ボストン連銀とマサチューセッツ工科大学(MIT)が共同研究するCBDCプロジェクトである「プロジェクトハミルトン」は、中国が独走しているCBDC開発競争の状況を大きく変える可能性がある。

今年2月、ボストン連銀とMITデジタルカレンシーイニシアティブ(DCI)の研究者が、VISAの処理能力をはるかに上回る毎秒170万件の取引を処理するシステムを構築したと発表した。

公表されたホワイトペーパーによると、共同研究のフェーズ1では、モジュール式で拡張可能なトランザクション処理システムの設計を行い、2つの異なるアーキテクチャで実装し、その速度、スループット、耐障害性を評価した。ユーザーが自身の資金を預かり、個人を特定するユーザーデータをトランザクションプロセッサのコアに保存しないと主張した。

この設計の柔軟性、性能、耐障害性の課題は、3つの重要なアイデアで対処している。最初のアイデアは、トランザクションの検証を実行から切り離すことで、中核となるトランザクションプロセッサにほとんどデータを保存しないデータ構造を使用することだ。また、システムの一部を独立して拡張することが容易になる。2つ目のアイデアは、安全で、自己保存や将来のプログラマビリティのような潜在的な機能に対して柔軟性を提供するトランザクション形式とプロトコルである。3つ目のアイデアは、これらのトランザクションを効率的に実行するシステム設計とコミットプロトコルである。

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研究チームはこれを2つのアーキテクチャで実装した。アトマイザー(ブロックチェーン)モデルと2フェーズコミット(分散型データベース)モデルである。

ブロックチェーンアーキテクチャは、完全に検証されたトランザクションをバッチまたはブロックに整理し、注文されたトランザクション履歴を実現する注文サーバーを介してトランザクションを処理する。

「このアーキテクチャでは、99%以上のトランザクションを2秒以内に、大半のトランザクションを0.7秒以内に持続的に完了させることができた。しかし、注文サーバーがボトルネックとなり、ピーク時のスループットは1秒あたり約17万トランザクションとなった」とホワイトペーパーに記述されている。

非ブロックチェーンの方がパフォーマンス優位か

2フェーズコミットアーキテクチャは、複数のコンピュータでトランザクションを並列処理し、ビットコインの攻撃手法として有力視されているダブルスペンディング(二重支払い)を防ぐために単一の注文サーバーに依存しない。この結果、スケーラビリティに優れているが、すべてのトランザクションの順序付き履歴を実現することはできない。詳細は詳しく説明されていないが、WeChat Pay(微信仕付)やAlipay(支付宝)のようなシステムと想定される。

2フェーズコミットアーキテクチャでは、1秒間に170万件のトランザクションを処理し、99%のトランザクションが1秒以内に確実に完了し、大半のトランザクションが30分以内に完了するというスループットを実証した。また、サーバーを追加してもリニアに拡張できるようだ。弾力性を持たせるため、各アーキテクチャは、(自然災害やネットワーク接続の喪失などにより)2つのデータセンターが失われた場合でも、シームレスにトランザクション処理を継続し、データを失うことなく許容することができる。

ボストン連邦準備銀行のセキュアペイメントおよびフィンテック担当エグゼクティブバイスプレジデントであるジム・クーニャは、ホワイトペーパーの公表後、このプロジェクトは技術にとらわれないとしながらも、連邦準備制度理事会が運営するシステムは分散型である必要はないと強調した。「我々がシステムをコントロールすることになるので、エネルギーの浪費の元となるプルーフ・オブ・ワーク(PoW)のような重いコンセンサス方式は必要ない。ビットコインのような悪質業者のリスクもない。私たちはネットワークの信頼できるコントローラーになれる」。

共同研究はフェーズ2に移行する。「(フェーズ2の)研究テーマは、プライバシーと監査可能性のための暗号設計、プログラマビリティとスマートコントラクト、オフライン決済、安全な発行と償還、新しいユースケースとアクセスモデル、サービス拒否攻撃から保護しながらオープンアクセスを維持する技術、政策を制定するための新しいツールなどが考えられる」とホワイトペーパーは記述している。

MITデジタルカレンシーイニシアティブは伊藤穰一がMITメディアラボ所長在職時に設立した組織。