中国政府、RISC-V連合体にアリババとテンセントを加入させる

中国政府は、米国の半導体制裁強化への防御策として、技術大手であるアリババとテンセントに国産半導体の官民連合体に参加させた。大規模なデータセンター網を持つ2社の加入は、豊富な半導体のユースケースと研究開発力の増強という利点を連合体にもたらすだろう。


フィナンシャル・タイムズ(FT)の報道によると、2社が参加したコンソーシアムであるBeijing Institute of Open Source Chip(BOSC、北京开芯院)は、オープンソースのRISC-V 命令セットアーキテクチャ(ISA)をベースにしたチップを構築することを目的としている。

中国科学院計算技術研究所の副所長で、RISC-V InternationalのカウンシルであるBao Yungangは今年の4月にBOSCが4ヶ月の準備期間を経て、正式運用を開始したと述べていた。Bao YungangはBOSCのチーフサイエンティストを務めている。

Bao YungangのBOSCの正式稼働を伝える投稿。出典:知呼

コンソーシアムの大元は、Xiangshan(香山)と名付けられた高性能オープンソースRISC-Vプロセッサプロジェクトに由来する。香山は中国科学院計算技術研究所が2019年に中心となって立ち上げた。プロジェクトの発展として、16の団体が共同でBOSCを立ち上げることになった。

「私たちの目標は、世界の建築イノベーションのためのオープンソースプラットフォームとなり、産業界、学術界、個人の愛好家の建築研究のニーズに応えることです」とコンソーシアムはXiangshanのGithubページに書いている。

また、BOSCはXiangshanの開発中に高性能プロセッサのアジャイル開発プロセスを模索することも明らかにしている。これは、アジャイルなプロセッサ開発フローを支援するオープンソースのプラットフォーム「MINJIE」として提案されており、「MINJIEは、論理設計、機能検証、性能モデリング、プリシリコン検証、デバッグのための幅広いツール群を統合し、最先端のプロセッサ設計の開発効率を向上させます」と研究チームは論文に書いている。

中国政府は、技術の国産化や貿易戦争回避の観点から、現在主流のX86やArmではないISAを使いたいと考えており、オープンソースのRISC-Vに期待を寄せている。同政府は以前からCPUなどの国産化予算を計上し、中国製のX86 CPUや中国製OSなどは国営企業によって開発されてきたが、あまり普及しなかった。

アリババとバイトダンスは大規模なデータセンター網と数億人が利用するモバイルアプリケーションといった、「国産RISC-Vチップ」のユースケースをたくさん提供できる。

FTの取材に応じた5人の従業員によると、北京がリソースの統合を進める以前から、アリババとバイトダンスは、AIアルゴリズムやデータセンターを動かす高性能チップを開発するために、RISC-Vを使ったチームを立ち上げていたという。

アリババのチップ部門であるT-Head(平头哥)のあるシニアエンジニアは、同社の目標は「最も先進的な製品で」Armチップを置き換えることだとFTに語っている。また、FTはArmを「今はリスクが高すぎる」とするテンセントのエンジニアの言葉を引用している。

米国は、2019年にファーウェイに対して行ったように、オランダや日本などの同盟国に対して、中国のハイテク企業をサプライチェーンから切り離すよう働きかけている。このため、中国は半導体のサプライチェーンのさらなる混乱に備えないといけなくなった。

RISC-Vが業界のより多くの関心を集めたのは、660億ドル規模のArmの米チップメーカーNVIDIAへの売却案が半導体業界に衝撃を与え、複数の企業がArmに代わる選択肢をより真剣に検討し始めた2020年以降のことであった。この取引は後に破談となり、ソフトバンクグループは来年、Armをニューヨークで上場させることを計画している。

中国は、地政学的な懸念から2020年に本部を米国からスイスに移転したISAの統括団体であるRISC-V Internationalを通じて、過去数年間にわたりRISC-Vの開発に深く関与してきた。