RISC-VベースのAIチップが台頭

ライセンスやカスタマイズが自由なRISC-Vは、多様な利用形態に対する低コストの半導体開発の機会を生み出した。コストの高いAIはその主要な応用先であり、雨後の筍のようにRISC-Vチップが誕生している。


先週のHot Chipsカンファレンスで、ミックスドシグナルチップ(デジタル・アナログ混載回路)のパイオニアであるマーティン・スネルグローブが共同設立したUntether AIは、1,400以上の最適化RISC-Vプロセッサーを搭載した新しいAI推論チップ「Boqueria」を発表した。

7ナノメートルの台湾積体電路製造(TSMC)プロセスで製造された、Boqueriaは1ワットあたり30テラフロップスの性能を発揮する電力効率の高さを誇っているという。これは、2020年に発売された同社の先行AIチップ「RunAI」が500テラフロップスの性能を発揮し、1ワットあたり8テラフロップスの効率を実現したことから、全体的に向上している。RunAIは16ナノメートルプロセスで作られている。

「私たちがAI推論高速化のためのアーキテクチャーに取り組んだとき、まずわかったことは、ニューラルネットワークのコンピューティングにおけるエネルギーの90%は、外部メモリや内部キャッシュのデータの移動にあるということだ。そして、コンピュータの中で実際に行われているのは10%だけだ」と、Hot Chipsのプレゼンテーションで、製品・ハードウェアエンジニアリング担当バイスプレジデントのロバート・ビーチラーは述べたという。

Boqueriaは、1,088以上のコアを搭載し、今年初めに品質検証プロセスを開始した新興企業Esperanto.aiのAI推論チップ「ET-SoC-1」と競合することになる。

Esperanto.aiの共同創業者は、SunのSPARCプロセッサの開発などRISCチップのパイオニアとして知られるデイブ・ディッツェルである。ディッツェルはベル研究所やサンマイクロシステムズでRISCプロセッサの研究に携わった後、Transmetaを共同設立し、x86のコードをRISCアーキテクチャに翻訳してインテルに対抗する低消費電力プロセッサを開発した。

Esperanto.aiのプリンシパルアーキテクトであるJayesh Iyerは、昨年12月に開催されたRISC-V Summitで「Esperanto.aiのアプローチは、複数の低消費電力チップを使用し、それでも電力予算内に収まるようにすることだ」と語った

また、Tenstorrentは、Apple、AMD、Intelでのキャリアを通じ、モバイルおよびPCチップを躍進させたことで知られる最高技術責任者(CTO)のジム・ケラーの指導のもと、AI用RISC-Vチップを構築している。同社はRISC-Vの開発メンバーが多数在籍するチップ設計企業SiFiveの提供するRISC-VアーキテクチャをベースにAIチップを設計している。

他のAIプロセッサも、RISC-Vと独自のカスタム機械学習アクセラレーションの組み合わせに目を向けている。例えば、Ceremorphicは今年初め、Hierarchical Learning Processorを発表し、RISC-VとArmコアの両方を、独自のカスタム機械学習および浮動小数点演算ユニットとともに使用している。また、Intelの次期製品Mobileye EyeQ Ultraは、レベル4の自律走行に必要な知能を提供することを目的としたチップで、ニューラルネットワークアクセラレータを備えた12のRISC-Vコアを搭載する予定だ。

Mobileye EyeQ Ultra. 出典:インテル

調査会社のSemicoによると、少なくともRISC-V技術を含むチップの数は、2027年までに年間73.6%増加し、約250億個のAIチップが生産され、2,910億ドルの売上を占めると予想されている。

RISCとは、Reduced Instruction Set Computer(縮小命令セットコンピュータ)の略で、実行可能な命令セットアーキテクチャ(ISA)を絞り込むことで、より小型で低消費電力、高性能なプロセッサを実現するという考え方を持っている。RISC-Vのコアは、わずか47個の命令セットである。x86の実際の命令数は1,000近くはある。