ベンチャーキャピタリストの入門書でゲームのルールを把握するともともと低い起業家の勝率は上がる “Secrets of Sand Hill Road”

本書のメッセージは「ゲームのルールを把握しておくと勝率が上がる」と解釈しています。

誰もが孫氏の「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」を知っています。「相手の実情と自分の実力を正しく知ることで、負けない戦い方ができる」ということです。あなたがスタートアップの創業者か従業員だったとき、その資金を供与する主体になることが多いベンチャーキャピタル(VC)について詳しく知っておくことは非常に大事なことです。しかし、あなたが見つけられる情報の大半は、肝心なことを教えてくれません。

”Secrets of Sand Hill Road: Venture Capital and How to Get It, Reviews” はVCの入門書のような書籍です。著者は、シリコンバレーのトップVCのひとつであるAndreessen Horowitz(a16z)のマネージングパートナーで、会社運営を担当している、Scott Kuporです。Crunchbaseによると、彼は、2009年の創業以来、3人の従業員から135人、管理資産3億ドルから60億ドル以上までの急速な成長を監督してきました。Scottは以前、Hewlett PackardのグローバルカスタマーサポートおよびSaaS事業のバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーでした。

Scottは2007年にOpsware(以前のLoudcloud)の16億ドルの買収の一環としてHPに入社し、カスタマーソリューションの上級副社長を務めました。Opswareはa16zの創業者Ben HorowitzがCEOを務めた企業です。Scottは、会社の設立直後にOpswareに入社し、財務計画担当バイスプレジデントや企業開発担当バイスプレジデントなど、多数の経営管理職を歴任しました。Opswareの前は、Credit Suisse First BostonとLehman Brothersで合併買収に携わっていました。

つまり、a16zの創業者の古くからの「戦友」であり、金融業界からテクノロジー業界に移籍してきたキャリアをもち、VCを説明するのにふさわしい人物です。

Scottは、10年以上の間さまざまな起業家から同じ質問を受けたことに気付いた後、サンドヒルロード(世界のベンチャーキャピタルの1/2が集まるメンロパークの通り)の秘密を説明するべきだというインスピレーションを得たといいます。この本は、VCが実際に行うこと、VCがどのように考え、創業者がVCとどのように関わるべきかについての最新ガイドとして機能しています。

本書の紹介文はこのように書かれています。「多くの起業家にとって、VCの世界は神秘的で、最悪の場合敵対者のように見えるかもしれません。それでも、多くのVCの成功には、その仕組みとVCがどのように意思決定を行うかを理解することがしばしば重要です。 新しい会社を立ち上げようとするか、既存のビジネスを次のレベルに拡大しようとするかどうかにかかわらず、創業者はVCが何を動かしているのかを知る必要があります」。

彼は、典型的なVCファンドがどのように設定され、VCの人々がどのようにインセンティブを与えられるか、それから、典型的なファンドのライフサイクルを説明します。これは、資金を探している創設者にとって非常に重要な情報でしょう。満期を迎えようとしているファンドは、操業を続けるために必要な投資をフォローする能力を欠いているため、最良の投資家ではないかもしれません。

彼が触れているもう1つの重要な側面は、ほとんどのVCが単に「まともな」ビジネスにあまり興味を示さず、潜在的に大きなアップサイドがある企業のみを探している背景です。典型的なベンチャー投資家にとって、他の全員が投資しているユニコーンを見逃すことは、明らかなキャリアリスクです。

典型的なパブリックエクイティ(PE)のファンドマネージャーと比較して、ほとんどのVCはポートフォリオ企業に関してはるかに積極的な考え方を持っています。a16zでは、従業員の3分の2以上が実際にポートフォリオ企業の支援に取り組んでいます。ビジネス上のつながりを介して新たなリードを獲得したり、採用候補者を募集したりしています。これは、VCと、創業者と一緒にビジネスを構築することに深く関わっていることがよくあるPEを除いた他の多くの投資運用会社の大きな違いの1つです。

本書には、M&A時の創業者や従業員への支払いの構成方法や、付録の標準的なタームシートなど創業者や従業員のための知恵が含まれています。本書の他にもa16zは動画やPodcast等で多量の有用な情報を、将来のスタートアップ創業者や従業員のために配布しています。わたしも会社員時代によくa16z Podcastを聞いていました。

本書が扱う知識はスタートアップの元来低い勝率を引き上げる潜在性があります。また負け戦のときの最低ラインの設定を助けてくれます。そして、VCからの資金調達はスタートアップにとって手段のひとつに過ぎないということを教えてくれます。