
シリコンバレーの人気フィンテックアプリは伝統的な銀行に依存している
【ブルームバーグ】シリコンバレーで話題のマネーアプリは、旧来の銀行に依存しているフィンテック企業は、現金を動かす仕組みとして、従来の金融機関を利用せざるを得ない。一種の車輪の再発明だ。
【ブルームバーグ・ビジネスウィーク】ニューヨークの地下鉄の車内に貼られているCurrent(カレント)の広告はこう宣言している。「我々は銀行ではない」。 確かに同社は、デビットカード付きの銀行口座を提供している。
しかし、同社は金融テクノロジー企業であり、実際に顧客のお金を保有しているわけではない。カレントのビジネスは基本的に、魅力的な仮想店舗とサービスメニューを構築することにある。カラフルなアプリのユーザーは、カバー写真やプロフィール写真を選ぶなど、ソーシャルメディアのように自分のプロフィールをパーソナライズできる。カレントが顧客に送るメールには、件名に絵文字が含まれることがある。
自分のお金がどこにあるのかを知るためには、パークアベニューに行かなければならないが、メトロポリタンバンクホールディング社にはその可能性がある。マンハッタンのミッドタウンにあるメトロポリタン銀行のオフィスは、白い大理石の壁、2台のコンピューターモニター、銀行のティッカーをあしらったベストを着た銀行員など、伝統的な銀行とよく似ている。メトロポリタンは、カレント社が積極的に提携している2つの連邦政府保証付き銀行のうちの1つである。
このような取り決めは、カレントのようなフィンテック企業や、デラウェア州ウィルミントンに本社を置くU.S.バンコープやオクラホマ州イーニドに本社を置くストライド・バンクを通じて口座を提供しているChimeのようなライバル企業の成長に伴い、より一般的になってきている。
比較的匿名性の高い中小の金融機関は、銀行業務をサービスとして提供する、いわゆる 「Banking-as-a-Service」(サービスとしての銀行)を新興企業に提供している。この言葉は、Salesforce.comなどが開拓したSoftware-as-a-Service(サービスとしてのソフトウェア)モデルと似ているが、この場合は、企業が自社のシステムにパッチを適用できるコンピューティングプラットフォームを提供している。しかし今回は、ハイテク企業が伝統的な銀行のアウトソーシングを行っている。銀行とフィンテック企業は、消費者がデビットカードを使用した際に発生する加盟店手数料を分け合うことで収益を得ている。
銀行が融資の伸び悩みや低金利に悩む中、Banking-as-a-Serviceは注目を集めている。メトロポリタン銀行の最高財務責任者(CFO)であるグレッグ・シグリストは、「競争が激化するだろう」と述べている。メトロポリタンとバンコープの株価は、今年に入ってからS&P500を上回る勢いで上昇している。一方、ベンチャーキャピタルの資金は、銀行業務アプリの新興企業に殺到しており、調査会社CB Insightsによると、2021年初頭から200億ドル以上が投入されているとのことだ。
これらの新興企業の多くは、米連邦預金保険公社(FDIC)によって口座の損失が保証されている銀行とパートナーシップを結ぶ必要がある。銀行の数は5,000近くあり、理論上はどの銀行でもサービスを提供することができる。投資銀行会社パイパー・サンドラー・コスのマネージング・ディレクターであるフランク・シラルディは、「特に銀行業界のように成長が難しい分野では、他の参加者がその分野に参入することになる」と語る。
シラルディによると、多くのBanking-as-a-Serviceプロバイダーは、ライバルとなりそうな企業を阻止するために、自社の周囲に「堀」を設けているという。金融危機後に成立したドッド・フランク法のおかげで、資産100億ドル以上の銀行は、デビットカードの購入時に最大22セントと取引額の0.05%を請求することができるようになった。中小銀行はこの上限を免除されており、通常は大手銀行の2倍の金額を加盟店に請求している。そのため、フィンテック企業は中小銀行と提携することで、より高い手数料を得ることができる。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、株主に宛てた書簡の中で、この規則によって、同社のような大手銀行が不利になると書いている。
フィンテックに特化した銀行は、他の中小金融機関が真似できないようなロジカルなノウハウを構築していると言う。銀行は、提携しているハイテク企業が何をしているかを監視するための規制インフラを必要とする。Coastal FinancialのCEOであるエリック・スプリンクは、「ハードルは非常に高い」と言う。