米国での半導体製造は高すぎるとTSMC創業者が指摘

米国が国内でのチップ製造を拡大しようとしている中、世界最大の受託チップメーカーである台湾積体電路製造(TSMC)の創業者、モリス・チャン(張忠謀)は米国での製造工場の建設・運営コストが高いとし、懐疑的な見方を示した。

米ブルッキングス研究所との最近のポッドキャスト・インタビューで、チャンは世界最大の半導体チップメーカーを設立した経緯や、技術者育成の重要性、半導体製造の米国回帰の未来について洞察を語った。

TSMCを例にとると、同社が同じ製品を米国で製造する場合、台湾のチップ工場で製造するよりも50%高いコストがかかると、チャンは述べている。

チャンは、中国と台湾の戦争が台湾海峡で勃発し、チップの供給が途絶える可能性があるため、台湾は安全ではないかもしれないという懸念に対して、ワシントンが国内の半導体製造を後押しすることに懐疑的で、「戦争がなければ、これは無駄で高価な動きだ」と述べている。もし戦争になれば、「チップ以外にも心配することがたくさん出てくる」と付け加えた。

チャンは、TSMCが1997年にアメリカ北西部のワシントン州に工場を設立したことに触れ、過去25年間、生産性の向上を図ってきたと述べた。しかし、改善はされたものの、台湾とワシントン州での製造コストの大きな差は変わらない。

ワシントン州の製造拠点で製品を生産するコストは、台湾の工場に比べて約50%高い、という。このため、TSMCは同地での製造オペレーションの規模を拡大しなかった。「(施設は)まだ採算が取れていたので、もちろんまだ操業しているが、拡張はしていない」とチャンは述べた。

米国ではチップの製造単価が高いため、米国が半導体の国内生産を増やすのは非常に高くつくと、チャンは指摘する。「TSMCのような企業と競争する世界市場では、非競争的となるだろう」

しかし、チャンは、米国には半導体で非常に優れた強み、すなわち設計力があると述べた。「米国は、世界のほとんどの設計能力を有している。台湾には少ししかなく、TSMCには何もない。台湾にも設計を行う企業はいくつかあるが、米国の企業ほどには進んでいない」

1950年代、1960年代、そして1970年代の前半、米国は競争力のある人材が揃っていたため、製造業が盛んだったという。しかし、その後、多くの人材が、より収益性の高い設計や金融・サービス業に移っていったと彼は指摘した。

アリゾナ州にあるTSMCの新しい工場は、半導体ウェハーの製造に5ナノメートル技術を利用するもので、ワシントン州の工場よりも規模が大きく、より高度な技術を使用するとチャンは述べた。

日本ではTSMCの合弁会社が運営するファブの建設が木曜日に始まり、2023年9月に完成し、2024年12月に製品出荷を開始する予定である。Japan Advanced Semiconductor Manufacturing 株式会社(JASM)の設立当初の発表では、22/28nmプロセスで半導体を製造するとしていたが、今回新たに12/16nm FinFETプロセス技術による製造も担えるようにJASMの能力を強化する。

※初稿で「オレゴン州の製造拠点」とあったのが、ワシントン州の誤りでした。訂正しました。