バイデン政権がマスクのTwitter買収を阻止することを利害関係者は切望している

バイデン政権が検討する安全保障関連の審査は、マスクとTwitterの取引を阻止するかもしれない。だが、それこそ、この取引のステークホルダーの大半が望んでいるシナリオと言えるだろう。


ホワイトハウスは、マスクのTwitter買収とStarlinkが展開する衛星インターネットについて、国家安全保障上の審査を開始することを検討している、とブルームバーグは報じている。

米国政府と情報機関の関係者は、連邦政府がマスクが経営する企業を審査できるツールがあるとすれば、どのようなものかを検討している。1つの可能性は、対米外国投資委員会(CFIUS)を規定する法律を通じて、国家安全保障上のリスクをめぐって審査することだという。

440億ドルのTwitter取引のうち、CFIUSの審査を受ける可能性がある要素の1つは、マスクのコンソーシアムに外国人投資家が含まれていることだ。このグループには、サウジアラビアのアル=ワリード・ビン・タラール王子、バイナンス・ホールディングス・リミテッド(中国出身者が設立・運営するデジタル資産取引所)、カタールの政府系ファンドなどが参加している。

この審査の観測は、マスクがプーチン大統領を賞賛するツイートをしたため、ワシントンが不快感を示していることと関連がありそうだ。

しかし、これはあらゆる人にとって好機である。もし、買収が消え失せれば胸をなでおろす人たちはたくさんいる。まず、銀行だ。取引で利用されているレバレッジド・バイアウト(LBO)スキームで債務を引き受けるモルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ、バークレイズなどは損失を負う公算が高い。銀行は債権の大半を機関投資家に売却する考えだったが、金利の上昇や景気後退への懸念が強まり、リスクの高いローンや債券に対する投資家の意欲は冷え込んでいく中、125億ドルの債権をディスカウントなしに販売するのは難しい。特に無担保部分については大幅なディスカウントを求められることが確実だ。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が以前報じたところでは、銀行がTwitterの債権を現在の市場価格で売却しようとすれば、約5億ドル以上の損失を被る可能性がある。また、10月28日までにマスクとTwitterは取引を終了しないといけないが、この時間的制約が銀行が債権を売り込むのに必要な時間を奪っているという。

銀行は損失を避けるため、マスクの負債を抱えると、他のLBOを引き受けるのが難しくなり、LBOマーケットへと問題が波及する可能性もある。

次にバイデン政権による阻止を祈っているのが従業員である。ワシントン・ポストは、マスクがTwitterを買収した場合、Twitterのスタッフを75%、約5,600人をレイオフする計画であると報じている。同紙は、Twitterは元々25%の人員削減を検討していたとされる。Twitterはこの報道の後、全社的なレイオフを計画していないことを従業員に伝えた。しかし、これを言葉通り引き受ける従業員は存在しないだろう。

最後に取引の停止を願うのは、イーロン・マスク本人だ。まず、彼はTwitterを買う契約を反故にするため、法廷闘争に持ち込み、そのさなかに登場した内部告発者を証人台にあげようとしていた。彼が最後まで粘っていたことを忘れてはいけない。それから、Twitterは彼が買収契約を交わしたときからだいぶ安くなっている。最新のSNSの決算は、先週のSnapのものだったが、それは悲観を誘うものだった。このジャンルの王者であるMetaですら株価がピークから7割減らしている状況下で、Twitterが例外に当たる可能性は少ないだろう。

もしかしたら、プーチン称賛ツイートはマスクがTwitter買収から撤退するための瀬戸際戦略なのかもしれない。