ソーシャル・ウェルス・ファンド 働く人々に資本所得を分配する政府系基金

ソーシャル・ウェルス・ファンドとは、化石燃料や電波使用権、金融取引への課税などに基づく収入を原資に、一定の利息を市民に提供する、一種のソブリン・ウエルス・ファンド(政府系ファンド)を指します。無条件で生活に最低限必要な現金を支給するベーシックインカム(基本所得)の有望な手段と考えられています。

基本的な枠組みは、政府系ファンドや年金基金と同じですが、その利潤の分配が全国民に対し一律に行われることがことなります。アラスカ恒久基金(APF)やノルウェー政府年金基金のように化石燃料の収入を財源に充てられるケースが成功例となっています。ソーシャル・ウェルス・ファンドは、基本的に、左派が提案する政策ですが、マーク・ザッカーバーグを代表とするシリコンバレーの起業家、投資家のほか、右派の自由主義者も支持しています。

イギリスでは、ブリストル大学客員研究員のスチュワート・ランズリーが、株式保有に対する税金を財源に、ベーシックインカムを実現することを主張しています。イギリスの株式市場に上場する上位100社の株式を保有している人に、株価の0.5%の税を毎年課せば、年間に80億ポンドを超す税収が得られます。この金額の半分以上はイギリス国外の投資家が担うことになるといいます。

ヒラリー・クリントンはソーシャル・ウェルス・ファンドを検討した有力政治家の一人です。回顧録『What Happened!』で、2016年の大統領選挙中に、同ファンドを立ち上げることで、すべてのアメリカの現金人に資本所得を提供する計画を検討したことを明らかにしました。「基金を資本化すると、毎年すべてのアメリカ人に適度なベーシックインカムを提供できます」と彼女は回顧録に書いています。しかし、最終的に、彼女は、そのアイデアの実現性を検討した結果、否定しました。

アラスカ恒久基金は、1974年の知事選でアラスカ州知事に当選したジェイ・ハモンド(共和党)の発案でした。1976年に創設されて以降、週の石油収入の8分の1がこの基金に回されています。すべての合法的な住民に対する「配当」の支払いは、1982年から始まっています。

資金は、APFによって国内および世界の株式、債券、プライベートエクイティなどに投資され、利息収入は毎年9月にアラスカの住民に分配されています。「Vox.com」によると、支払われる金額は石油価格など予算上の問題によって変動するが、2019年は、1人当たり年1606ドル(約17万6000円)、4人家族なら6424ドル(約70万5000円)が支払われたといいます。

参考文献

  1. ガイ・スタンディング.ベーシックインカムへの道 ―正義・自由・安全の社会インフラを実現させるには.
  2. Rachel M. Cohen.  The Push for a “Social Wealth Fund” in the U.S. - The Intercept. Aug 29, 2018.
  3. Matthew Yglesias. The big idea that could make democratic socialism a reality. vox.com, Aug 28, 2018.

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