日本が「からあげクン」の値上げを歓迎してほしい理由 - リーディー・ガロウド

通貨安のおかげでついに日本に待望のインフレが訪れようとしている。日銀はその悲願の達成を歓迎しているだろう。黒田総裁は円安こそ、物価上昇を促す試みで悩まされたデフレマインドを打破するものだと考えているのかもしれない。

日本が「からあげクン」の値上げを歓迎してほしい理由 - リーディー・ガロウド
2015年9月11日、日本の東京で撮影された、コンビニエンスストアのフライドチキン「からあげクン」の箱の写真。(写真:Chris McGrath/Getty Images)

一世代ぶりに、日本ではインフレの気配が漂っている。フライドチキンのような香りがするのだ。

コンビニエンスストア「ローソン」のフライドチキン「からあげクン」が10%値上げされたことは、通常、見出しにはならないだろう。しかし、ほとんどの国では、このような商品が36年間一度も値上げされることなく続いてきたことはないだろう。円安とウクライナ戦争で輸入品の価格が上昇し、日本の「値上げラッシュ」と呼ばれる最新の例だ。日本の企業はこの必然に屈し、それを消費者に転嫁し始めている。

この傾向は、インスタントラーメンの価格から、40年の歴史で初めて10円から12円(9セント)に上昇した、子供に人気のコーンスナック「うまい棒」に至るまで、あらゆるものに及んでいる。インフレ率は4月には中央銀行の目標値である2%に加速すると広く予測されており、日銀の黒田東彦総裁の景気刺激策が脚光を浴びている。日銀と、金利を引き上げている米連邦準備制度理事会(FRB)との間の政策の相違が、円安の主な原因である。

円安は歴史的に輸出大国である日本にとって朗報であったが、円安のペースは物語を変えつつある。今年に入ってからの11%の円安は、国内のエネルギーコストや食料コストの上昇の影響を悪化させている。参議院選挙を数ヶ月後に控えた岸田文雄首相にとっては、望むところではないだろう。ユニクロの創業者で日本一の富豪である柳井正氏は先週、円安は「日本経済全体にとって悪いことばかりだ」と断言し、国民の多くを代弁した。

しかし、黒田総裁には軌道修正する動機がほとんどない。2013年に総裁に就任して以来、彼が求めてきたのはまさにインフレ率の上昇である。ブルームバーグ・ニュースは先週、関係者の話として、日銀は今年度のインフレ見通しを1.1%から1.5~1.9%に引き上げる勢いであると報じた。

このような急上昇は歓迎されるが、日銀が超緩和的なスタンスから脱するには決して十分ではない。日銀は何年も前から、インフレ率が神聖な目標である2%に達するだけでなく、その水準にとどまることを望んでいると主張してきた。黒田総裁は、賃金の伸びが緩やかで、労働市場がコロナ流行以前より軟化している現状では、コストプッシュ型のインフレは維持できないと主張している。そのため、利上げのような急進的な措置はほとんど期待できない。

いずれにせよ、日銀は他国とは全く異なる圧力に直面している。日本のインフレ率が今月2%に達したとしても、米国の8.5%やユーロ圏の7.5%にはほど遠い。シティグループのアナリストは今週、マイナス金利は黒田総裁の任期が終わるまで続き、黒田総裁の後任者が来年4月に政策を見直すと予想していると書いた。

金利差を縮めるような変化があるまでは、意味のある円高を予見するのは難しい。黒田総裁は為替レートの動きが急激でないことを望んでいるが、その方向性に違和感を覚えている様子はない。それどころか、3月の黒田総裁の「円安は経済全体にプラス」という発言が、トレーダーに今回の下落を許したのである。

現在、一部のストラテジストは、財務省が円を買い支えるために市場介入を行うかどうかを推測している。また、円が1ドル150円に近づいた1998年に行われたような、国際的な協調救済の可能性を考えている人もいる。今回の円安は、どちらかを促すほど劇的なものではないかもしれない。 (とはいえ、消費者の不満にもっと敏感な政治家もいる。鈴木俊一財務相は先週、円安はむしろ賃金上昇を伴わないので有害だと述べた)。

実際、黒田総裁は円安こそ、物価上昇を促す試みで悩まされたデフレマインドを打破するものだと考えているのかもしれない。2021年後半に生産者物価が上昇し始めたときでさえ、日銀は消費者の期待を変えることは困難であるとすぐに指摘した。

「日本では、物価は簡単には上がらないという前提に基づく行動や考え方が、主に企業の間で深く根付いている」と、日銀は1月の展望レポートで書いている。「コスト上昇の販売価格への転嫁が進まない恐れがある」

黒田総裁が、「良い」インフレがなかなか実現しないことを懸念するのは正しい。企業は値上げに踏み切る前に、まず自社のマージンを圧迫することをいとわないことが多い。フライドチキンの値上がりがニュースになるのは、まさにそれが異常だからである。価格弾力性のある商品のメーカー、安売り居酒屋チェーン、バリューチェーンのさらに下のサプライヤーにとっては、値上げはより困難なことだろう。また、すでにマージンがほぼない家族経営の小売店や外食産業にとってはより過酷になる。

このような考え方を崩すには、「悪い」インフレが有効かもしれない。もしそうなら、より高価なフライドチキンに慣れることだろう。

Gearoid Reidy, Daniel Moss. Why Japan Wants You to Fork Out More for Fried Chicken: Gearoid Reidy. © 2022 Bloomberg L.P.

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米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

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By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

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中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

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By エコノミスト(英国)