アマゾン販売業者のM&Aバブルが崩壊

「アマゾン・アグリゲーター」と呼ばれるアマゾンマーケットプレイスの販売者を買収合併し、大規模販売者を形成するプレイヤーはコロナ禍の間バブルを謳歌してきたが、現在では市況が変化し、存亡の危機に立たされている。

パンデミック時のeコマース需要の急増を背景にアマゾン内の優良ブランドを発掘し、買収して自社のポートフォリオに加えるという約束で、巨額資金を調達して話題となった企業がいくつもあった。彼らはパンデミック期間注に負債と株式によって150億ドルの資金を調達したとされる。Thrasio、Elevate Brands、Perchのような代表的なアグリゲーターには多くの市場機会があり、彼らが未来のP&Gであるという浮かれた話も聞かれた。

このようなアグリゲーターは、アマゾンで利益を上げているセラーをひとつにまとめ、チームとしてブランドを運営し、そこから得られるキャッシュで負債を補填してきた。eコマースの売上が急増し、アグリゲーターが注目のブランドを獲得するために買収価格を高騰させていた。

しかし、その後、オンライン販売のブームは衰え始め、同時に金利も上昇に転じた。米テクノロジーメディアThe Informationが引用した創業者やブローカーによると、ロールアップ企業は資本金の4倍の負債を抱える傾向があるという。金利は規模やキャッシュフローによって異なるが、多くは15%前後の金利で負債を抱えている。ある債権回収会社によると、その半分が固定金利で、その他は変動金利で、つまり基準金利が超低水準から上昇している今、金利負担が増加している。一方、ベンチャーキャピタル市場の冷え込みは、さらなる資金調達の妨げになっている。

サプライチェーンの混乱や中国工場の閉鎖など、コスト増と売上減という経営上の問題にも直面していると同誌は報じている。あるアマゾンの出品者は、中国から米国へのコンテナの輸送費は1万ドル程度と推定している。これは、今年初めのピーク時の約2万ドルからは下がったものの、パンデミック前の約3,000ドルを大きく上回っているという。先月、アマゾンは、燃料費とインフレの上昇を理由に、同社の物流ネットワークを利用する販売者に5%の追加料金を課すと発表した。

ここ数年で30億ドル以上を調達したThrasioは最近合併買収を減速させ、Business Insiderによると、最近レイオフが行われたと報じられている。わずか12ヶ月ほど前、Thrasioは1週間に3件もの取引を成立させていたと主張していた。

他のアグリゲーターも同様の問題に直面している。例えば、米eコマースメディアMarketplace Pulseは3月、このコンサルタント会社がアグリゲーターと交わした会話を引用し、「セラーのバリュエーションの上昇、サプライチェーンの混乱、買収したブランドの成長への苦闘により、業界の再調整が必要となり、いくつかのAmazonアグリゲーターが買収を一時停止した」と書いている。

SellerXはことを示す事例である。2020年に設立され、ドイツ人起業家のPhilipp TriebelとMalte Horeyseckが率いるSellerXは、総額7億5,000万ドルを調達し、ユニコーンの評価ステータスに到達した。今回の資金投入は、Victory Park Capital Advisors、Blackstone、アブダビ政府系ファンドに関連する企業などの支援者から12月に発表された5億ドルの株式と債券によるものだ。

The Informationによると、SellerXは、アマゾンの40のブランドを集め、その運営を支援するために750人の従業員を抱えるまでに急成長した。SellerXは、ブランドや在庫管理を専門とする小売コンサルタントやアマゾンの中堅社員をリクルーターに引き抜かせることに成功した。ある元社員によると、入社時に現在の給与の2倍もの金額を提示され、一握りの社員は5,000ドルから1万ドル程度のサインオンボーナスを受け取り、6ヶ月の試用期間の後に支給されたそうだ。

しかし、数カ月後にSellerXは人員削減に踏み切り800人いるグローバルチームの4%が対象となった。「市場の不確実性とボラティリティを考慮し、年初に計画したよりも少ない数の買収にとどまる見込みだ」と広報担当者はThe Informationに語っている。

中国のアマゾン販売者と買収を希望する企業をつなぐFBAFlipperの共同設立者であるジェイソン・リー氏は、米小売メディアのモダンリテールに対して、問題は買収者が資金を調達できないことだけでなく、アマゾンのエコシステムのほとんどの部分が難しくなっていることだという。2020年以降、Eコマースビジネスは大きな利益を上げ、記録的な需要に見舞われた。しかし、サプライチェーンの危機によって在庫切れになり、アマゾンのようなプラットフォームは手数料を引き上げた。リー氏は「売り手が儲かっていない。積極性や入札が減っている」という。

アマゾンの成長鈍化はインフレとエネルギー危機の「新常態」の難しさを表している
アマゾンは4月下旬、7年ぶりに四半期損失を計上したが、これはオンラインショッピングの不振、インフレやサプライチェーンの問題によるコスト増、電気自動車の新興企業をめぐる市場の動揺など、幅広い経済動向を反映した結果だった。
アマゾンが米12ヵ所の物流施設建設計画を棚上げ
アマゾンが物流施設の拡大戦略を見直したと報じられた。パンデミックによる急速なEC化が一服し、消費者はインフレに晒され、物流部門では賃上げ圧力が高まっている。これにより路線変更が起きたようだ。