米国から暗号資産取引所はなくなりそう

米国証券取引委員会(SEC)は今週、暗号資産取引所のCoinbaseとBinanceを相手取って提訴した。「存在自体を違法」とする訴えで、米国から暗号資産取引所の居場所はなくなりそうだ。


提訴はSECのかつてからの「暗号資産取引所を現存する法制で評価すると違法である」という主張を改めて示すものだった。

すでに商品先物取引委員会(CFTC)の提訴で兆候は出ていたものの、SECによる提訴は、米国での暗号資産取引所の終焉を決定づける可能性がある。米国の方向性を富裕国の多くは追随するだろう。

一方、ドバイのような場所では、一定の地位を保ち続けるだろう。暗号資産でもある種のデカップリングが起きたことになる。

SEC 対 Coinbase

SECは訴状の中で、Coinbaseは未登録の証券取引所、証券会社、清算機関として運営していること、「ステーキング・アズ・ア・サービス」の登録を怠っていることを非難した。ステーキングとは、暗号通貨を預けておくと確率的な報酬がもらえる暗号通貨の仕様のこと。Coinbaseは顧客のステーキング可能な暗号資産をプールして代行サービスを行い、生成された報酬の一部を顧客に分配している。SECは「未登録の証券」と非難した。

SECによると、Coinbaseは、証券に分類され、発行前に規制当局に登録されるべきであった少なくとも13の暗号通貨を取引していた。SECは、投資家がトークンの利息を得ることができるCoinbase Earn Stakingプログラムを「未登録の証券」と断定した。

SEC.gov | SEC Charges Coinbase for Operating as an Unregistered Securities Exchange, Broker, and Clearing Agency

SEC 対 Binance

SECは、Binanceと米国事業を運営する関連会社BAM Trading Services Inc.、および創業者の趙長鵬を多数の証券法違反で提訴した。世界最大の暗号資産取引プラットフォームを運営するBinanceと、BAM Tradingは、未登録の国内証券取引所、ブローカーディーラー、清算機関を運営していたとして告発された。「ステーキング・アズ・ア・サービス」などの「未登録の証券」を扱うビジネスを提供していたとされている。趙は、一連のスキームの支配的な人物として、これらの告発に関与している。

  • SECは、米国の顧客がBinance.comでの取引を制限されていると公に主張しているにもかかわらず、趙とBinanceは、価値の高い米国の顧客がプラットフォームで取引を継続することを密かに許可したと主張した。
  • Binanceと趙は、Binance.USを秘密裏に管理していたにもかかわらず、Binance.USが独立した別の取引プラットフォームであると誤解を与えるような記載をしたことでも非難されている。
  • SECは、趙とBinanceが顧客の資産を管理し、顧客の資産を混ぜたり、趙が所有する事業体であるSigma Chainに流用するなど、好きなように流用することができたと主張。彼らは、存在しない取引管理について投資家を誤解させ、Sigma Chainを通じてプラットフォームの取引量を人為的に膨らませる操作的な取引に従事したと非難されている。

SECは、Binanceの責任を追及するため、コロンビア特別区連邦地方裁判所に訴状を提出したと公表。Binanceは本拠地が開示されていない完全な「オフショア企業」として機能している。

SEC.gov | SEC Files 13 Charges Against Binance Entities and Founder Changpeng Zhao

別事業体を使って取引所に流動性を供給する

「取引所が取引を水増しする」という通常の証券取引所では違法とされることが行われていた可能性が浮上している。BinanceはSigma Chainで人為的な流動性を提供していたとSECは主張しているが、FTXも傘下のトレーディング会社Alameda Researchで同様の行為を行っていた、と取り沙汰されている。両者とも顧客資金と自己資金の区別を付けていなかったと当局に避難されている。

このような慣行は、暗号資産業界では、ウォッシュトレーディング(※1)の可能性が常に取り沙汰されてきたことを想起させる。東京を拠点にしていたマウントゴックスのような一部の取引所は、流出したデータの分析によって価格操作の事実を指摘されている。NFTでも一部の取引プラットフォームにウォッシュトレーディングの嫌疑がかけられている。

NFT取引高急落と虚偽取引のあやしい関係
NFTの取引高はブーム前の水準まで戻った。暗号資産界隈では自作自演の取引で価格を高騰させるテクニックが使われていると言われる。取引高の急減とこの虚偽取引にはどのような関係があるだろうか?

米国からの追い出し

SECは暗号資産取引所に逃げ場を与えない方針のようだ。ブルームバーグが引用したニューヨークの法律事務所Jenner & BlockのパートナーであるKayvan Sadeghiの談話では、暗号資産の取引や保管を促進するための実行可能な道は、既存の規制のもとでは存在しない。つまり、SECのロジックの中では、Binanceらが合法的に米国で創業できる道は最初から与えられていなかった。

(※1) ウォッシュ・トレーディングは、同一人物または2人の共謀者の間で自作自演の取引を行う市場操作の形式である。この行為は、1936年の商品取引所法(CEA)の成立以来、米国の多くの伝統的な市場では違法とされてきた。しかし、BinanceやFTXのようなオフショア立地の暗号資産取引所には規制は及ばない。