NFT取引高急落と虚偽取引のあやしい関係
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NFT取引高急落と虚偽取引のあやしい関係

NFTの取引高はブーム前の水準まで戻った。暗号資産界隈では自作自演の取引で価格を高騰させるテクニックが使われていると言われる。取引高の急減とこの虚偽取引にはどのような関係があるだろうか?

吉田拓史

NFTの取引高はブーム前の水準まで戻った。暗号資産界隈では自作自演の取引で価格を高騰させるテクニックが使われていると言われる。取引高の急減とこの虚偽取引にはどのような関係があるだろうか?


NFTの取引高は、今年1月の過去最高から97%急落している。Dune Analyticsのデータによると、2022年初頭の170億ドルから9月にはわずか4億6,600万ドルにまで落ち込んでいる。

今回は、この取引高の急減にウォッシュ・トレーディング(Wash Trading)と呼ばれる虚偽の取引が関連している「仮説」について検討してみたい。

ウォッシュ・トレーディングは、同一人物または2人の共謀者の間で自作自演の取引を行う市場操作の形式である。この行為は、1936年の商品取引所法(CEA)の成立以来、米国の多くの伝統的な市場では違法とされてきた。しかし、この行為は、当局による規制が不完全な暗号資産市場、特にNFTで未だに行われている。

暗号通貨の仕様上、ウォッシュ・トレーディングを簡単に行うことができる。ウォレットアドレス間の取引はブロックチェーン上に保存され、NFTがいつ取引され、いくらで売れたかは誰でも確認できる。しかし、ウォレットアドレスには識別情報がなく、英数字の羅列として表示されるため、取引の背後に誰がいるのか、2つのウォレットアドレスが同一人物によって所有されているかどうかを特定するにはかなりのコストを要する。

元々、ウォッシュ・トレーディング疑惑は、暗号通貨取引所が取引量を偽装しているという文脈で浮上した。例えば、2020年8月、韓国で3番目に大きな取引所であるCoinbitが、取引量のほとんどを偽造した疑いで警察の家宅捜索を受けた。取引所の内部関係者と警察は、プラットフォームの取引量の最大99%が、架空のアカウントを使用して操作または洗浄されたと明らかにした。

世界初のビットコイン取引所である日本のマウント・ゴックスでも、ウォッシュ・トレーディングは行われていたようだ。ネオマ・ビジネス・スクール助教授のArash Alooshとジョージ・メイソン大学助教授のJiasun Liの論文は、ハッカーによって流出したマウント・ゴックスの内部データを用いて、ウォッシュ・トレーディングの証拠を検出した。Alooshらは、複数の「取引所インサイダー」がその自作自演の取引に関与する傾向がある、と結論づけており、取引手数料収入が少ない取引所が収入を増やす目的で採用する、と指摘している。

ウォッシュ・トレーディングはありふれたものかもしれない。コーネル大学ジョンソン経営大学院准教授のLin William Congらのチームは、29の暗号通貨取引所での取引における統計的および行動的パターンを利用したテストを行い、規制対象外の取引所において、ウォッシュ・トレーディングは取引量の平均70%以上となることを突き止めたと主張している。

もっと過激な調査結果すらある。暗号資産運用会社Bitwise Asset Managementは2019年に、取引所で報告されたすべてのビットコイン取引高の最大95%が偽造されていると主張しているのだ。

ウォッシュ・トレーディングは一部のNFTマーケットプレイスでも指摘されている。例えば、NFTトラッカーのCryptoSlamがまとめたデータによると、LooksRareの取引高のうち180億ドル相当、つまり全体の活動の約95%がウォッシュ・トレーディングに関連していることが示唆されている。

取引急増のNFTプラットフォームで自作自演の売買が横行
取引高で急速にNFTマーケットプレイスのトップに躍り出たLooksRareでは、活動の大半はユーザーが自分自身にトークンを売る自作自演の取引だ。プラットフォームが設定する副次的な報酬を得るためのものだ。

調査・コンサルティング会社Chainalysisが2022年2月に発表したレポートは「NFTの売り手の中には、何百回ものウォッシュトレードを行っている者がいる」と結論づけた。Chainalysisは個人の資金で運用されているウォレットで25回以上NFTを売却した262人のユーザーを特定し、それらのウォレットのうち110人は、2021年にまとめて890万ドルの利益を生み出した、と主張している。これらの利益は、ウォッシュ・トレーディングで価格が引き上げられたNFTが一般ユーザーに転売された際に上げられたものだ。

誇大広告と虚偽取引のアンサンブルが崩壊した?

さて、冒頭のNFT取引高の急減に戻る。急減の要因を推定すると、主要な要因の一つがブームの崩壊による需要減であると考えられる。

暗号資産ブームは、5月のTerraUSDの崩壊とそれに伴う分散型金融(DeFi)プラットフォームの倒産によって、いきなり終焉した。Web3 / 暗号資産との組み合わせを謳うDecentaralamdやThe Sandboxのようなプラットフォームでは、NFTの売買を行ったユーザー数が一日あたり数十人から数人のレンジにまで落ち込んでいる。

閑古鳥が鳴くWeb3・メタバース:1日のユーザー数19人
メタバースプラットフォームのDecentralandとThe Sandboxは、どちらもデイリーアクティブユーザーが20を下回っているが、それぞれ評価額は10億ドルを超えている。

もう一つの要因として、ウォッシュ・トレーディングが急減したことについて検討することは筋違いではないだろう。確かに、先に述べたようにウォッシュ・トレーディングに使われたウォレットアドレスと特定のユーザーとの結びつきを特定するにはコストがかかるため、その全貌に関わる証拠を出すのは難しい。しかし、これまで指摘してきたように、一部の暗号資産取引所やNFTプラットフォームでウォッシュ・トレーディングがはびこっているという確度のある分析結果がある。

規制当局の監視が強まる中、ウォッシュ・トレーディングはやりづらくなっているのは間違いない。TerraUSDが引き起こした派手な「爆発事故」は、米当局で規制厳格化の機運が高まるきっかけとなった。ウォッシュ・トレーディングが通常の金融市場と同様に訴追されるリスクを鑑みると、奔放な活動は好まれなくなっているだろう。

米当局が暗号資産業界に本格的にメスを入れた
クリプト、Web3、NFTのようなバズワードとともに膨れ上がった暗号資産のバブルが弾けた。今度は界隈で積み重ねられた不品行が責められる番だ。

また、ウォッシュ・トレーディングで価格を引き上げたNFTを不注意にも買ってしまう、ある種無知な一般の人が、バブル崩壊で興味を失っていることも大きい。彼らがいないと、ウォッシュ・トレーディングの仕手は取引手数料分損をするだけだ。

ハイプ(誇大広告)とウォッシュ・トレーディングのアンサンブルが最高潮に達したのが1月で、この2つが機能しなくなったのが5月、そしてそれが如実に数字に現れたのが、2022年6月以降だという見立ては、突飛なものではないだろう。6月以降、NFTマーケットプレイスは2021年上半期と同様、アクティビティの薄い「箱」へと回帰している。

参考文献

  1. Aloosh, Arash and Li, Jiasun, Direct Evidence of Bitcoin Wash Trading (January 7, 2019). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3362153 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3362153
  2. Lin William Cong et al. Crypto Wash Trading. arXiv:2108.10984 econ.GN