マイクロソフトの10兆円買収、ソニーとテンセントへの圧力に

マイクロソフトによる米大手ゲーム会社アクティビジョン・ブリザードの買収が成就した。近年進行するゲーム会社の囲い込みにおいて、マイクロソフトの潤沢な資金力は、前を走るソニーとテンセントの脅威でしかないだろう。


先週金曜日に完了した買収は、50年近い歴史の中で最大の取引であり、世界的な規制当局の関門を通過するのに21ヶ月を要した。マイクロソフトはテンセント、ソニーに次ぐ世界第3位の売上高を誇るゲーム会社となる。

この買収は2022年1月に発表されたが、欧州連合(EU)、米国、英国など多数の規制当局から徹底的な調査が行われた。各国当局の挑戦は、マイクロソフト、グーグル、アップル、アマゾン、そしてフェイスブックを所有するメタのようなハイテク企業に対して行動を起こそうとする、世界中の政府による働きかけの一部だった。

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マイクロソフトは、数十カ国の承認を得ることを含む、巨大買収のための厄介なプロセスを乗り切った。同社は、アクティビジョンの主要タイトルのひとつである「コール・オブ・デューティ」を、任天堂やソニーといった他社のゲームプラットフォームで継続的に提供することを約束し、連邦準備制度理事会(FTC)らの主張を弱体化させた。

メガ合併は、マイクロソフトがアクティビジョンを687億ドル(10兆2,750億円)の「キャッシュ」で買うものであり、マイクロソフトの資金力を物語る。裁判文書や漏洩した文書によって、マイクロソフトが任天堂、スクウェア・エニックス、セガの買収を検討したことがあると判明している。

マイクロソフトは任天堂もセガもスクエニも買いたい 旺盛な買収欲
静かに大規模なM&Aを繰り返していたマイクロソフトが、任天堂とセガとスクエニを買収したいという思いをずっと胸に秘めていた。同社には、使い切れないほどのキャッシュがあり、規制当局に止められない限り買収は続くだろう。

アクティビジョンを加えることで、マイクロソフトの最新会計年度の売上に占めるゲーム事業の比率は、実際の7%から約10%に上昇することになる、とウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の Tom DotanとSarah E. Needlemanは分析した。ビデオゲーム事業が強化されれば、マイクロソフトが最初に築いたウィンドウズ事業と肩を並べることになり、リンクトインや広告部門よりもかなり大きくなるが、それでもオフィス製品やクラウドサービス部門の半分だ、という。

アクティビジョンはゲーム業界において玉手箱のようなものだ。マイクロソフトは、アクティビジョン・パブリッシング、ブリザード・エンターテインメント、キングのチームを含む、傘下のすべてのゲーム開発企業(*1)を所有することになる。

この買収は、ゲーム業界においてプラットフォームホルダーが力を結集している傾向を継続するものである。さらに、この買収によって、他の企業も競争力を維持するために独自の買収の可能性を検討するようになるかもしれない。過去10年間、マイクロソフトを含む様々な大手企業が独立したゲームスタジオを買収してきた。

『One Up: Creativity, Competition, and the Global Business of Video Games(ワン・アップ:創造性、競争、そしてビデオゲームのグローバルビジネス) 』の著者であるジュースト・ヴァン・ドリュネン(Joost van Dreunen)は「マイクロソフトの入札は、ゲーム開発会社からプラットフォームホルダーの手に権力を移したビデオゲーム業界における数年来の統合トレンドの一部である」とロサンゼルス・タイムスに対して語った

先立って、2021年3月、マイクロソフトは推定75億ドルでゲームパブリッシャーZeniMax Mediaの買収を完了していた。ZeniMax Media傘下の企業が発売した『Starfield』は2023年に最もゲーム愛好家の話題をさらったゲームになっており、配信はXboxプラットフォームに限定されている。

サティヤ・ナデラ政権の元で行われているМ&Aには一定の効果があるのかもしれない。マイクロソフトの収益はナデラが就任する前の会計年度から3倍近くになり、株価は8倍以上になった(同時期のナスダック総合指数は3倍)。上述のWSJ記事が引用したリサーチ会社Dealogicのデータによると、ナデラが指揮を執った数年間で、総額1700億ドル以上の取引を326件以上行った。2番目に多かったのはブロードコムで、その間に約1500億ドル相当の取引を行い、その半分以上は2022年のVMware買収だった。

脚注

*1: Treyarch、Raven Software、Sledgehammer Games、Beenox、Toys for Bob、Activision Shanghai Studioなどだ。