ファーウェイの最新チップの衝撃:禁輸が中国の独自技術成長促す

欧米日の禁輸措置のなか、ファーウェイの最新スマートフォンと半導体が重要な技術ベンチマークを実現したことが確定的だ。輸出規制は裏目に出て、自主開発を促し、中国の半導体技術の「独立」を加速させたのかもしれない。


今週の始め、中国の華為技術(ファーウェイ)が発売した新型スマートフォン「Mate 60 Pro」に搭載された「Kirin 9000S SoC」が、微細化レベルの高い7nmプロセス、積層技術を採用した半導体製造に成功したという情報が波紋を広げた。

中国の半導体製造能力が格段に進歩した説
中国の半導体業界は欧米日の禁輸措置の中でも、追走を止めていないようだ。最新のスマートフォンに搭載された半導体は、持ちうる設備で最大の微細化を遂げたものである可能性がある。

情報の大元は、ブルームバーグの依頼を受けたカナダの半導体分析会社TechInsightsが、ファーウェイの「Mate 60 Pro」スマートフォンのプロセッサ「Kirin 9000s」を分解調査したことだ。その結果、このプロセッサは中国の国策企業である中芯国際集成電路製造公司(SMIC)の7nmプロセスを使用していることが確認された。

TechInsightsの解体では、ほとんどの部品が中国のサプライヤーから調達されているものの、韓国のSKハイニックスのLPDDR5とNANDフラッシュメモリが搭載されていることが判明した。米国の規制によりファーウェイとの取引を停止したSKハイニックスは、こうした規制の順守を強調した。ファーウェイがSKハイニックスのチップをどのような手段で入手したかは不明だが、中国軍に関連する安全保障上の懸念から課された米国の貿易規制以前から備蓄されていた部品を使用したのではないかとの憶測もある。SKハイニックスは調査中とブルームバーグに回答している。

SMICの7nmプロセスを使用した製造は初めてではなく、TechInsightsは2022年7月に、カナダの新興ファブレスのMinerVa Semiconductorがビットコイン採掘用のSoCにこのプロセスを適用していることを報告していた。極端紫外線(EUV)露光装置を使用していないSMICはDUV露光装置の中でも先端プロセスに対応可能なArF液浸露光装置でマルチパターニングを使用して7nmプロセスを実現している、と分析されている。

台湾のDigitimesは、EUV露光装置を使わない手法の歩留まりの悪さを指摘し、SMICの収益性を毀損しているのではないかと推定している。

Mate 60 Proは、5G機能でも重要なベンチマークを達成したようだ。ブルームバーグが行った同機種のテストでは、Appleの最新iPhoneに匹敵するワイヤレス速度を明確に示していた。これは、中国のソーシャルメディア上で、この端末が5G機能を搭載していると主張するブログ記事や動画と一致しているという。

ブルームバーグ・インテリジェンスのチャールズ・シャムとショーン・チェンは、「ファーウェイが新たに発表したMate 60スマートフォンに搭載する新しい5Gチップは、SMICによって製造された可能性が高い。これは中国の半導体進歩のマイルストーンとなる。しかしながら、歩留まりの課題および材料の制約を考えると、2024年のSMICの業績上昇は限定的と見ている」と書いている

制裁は中国の「独立」を促すのみ?

セミコンポータルに5月に掲載された半導体ジャーナリストの服部毅博士の記事では、先端EUV露光装置も数年以内に開発のメドが立つとする現地の状況に触れられている。

服部によると、EUV露光技術に関しては、ハルビン工科大学で長い間研究開発が進められており、現在は長春研究所と連携しているという。さらに、EUV露光装置のための「超精密マスク」や「シリコンウェーハステージ」という要素技術は、清華大学の朱玉教授が率いるチームが2014年にすでに開発していて、それは既に長春研究所に提供されているとのこと。そして、ファーウェイの研究所も長春に位置しており、EUV露光装置の開発にも関与している潜在的ユーザーとして知られている、と服部は記述している。「中国のEUV露光装置開発も、スパコンと同じように、米国の輸出規制がかえって中国研究陣による自主開発を促進することになりそうである」。