中国の半導体製造能力が格段に進歩した説
中国の半導体業界は欧米日の禁輸措置の中でも、追走を止めていないようだ。最新のスマートフォンに搭載された半導体は、持ちうる設備で最大の微細化を遂げたものである可能性がある。
中国の半導体業界は欧米日の禁輸措置の中でも、追走を止めていないようだ。最新のスマートフォンに搭載された半導体は、持ちうる設備で最大の微細化を遂げたものである可能性がある。
中国の華為技術(ファーウェイ)の新型スマートフォン「Mate 60 Pro」に搭載されたKirin 9000S SoCが話題を呼んでいる。中国のチップ製造企業である中芯国際集成電路製造公司 (SMIC)が7nmプロセス、積層技術を採用した半導体製造に成功したという憶測が飛び交っている。
ファーウェイも共産党系の環球時報も、Kirin 9000Sに使用された正確な製造プロセスを確認しておらず、推測の域を出ていない(※筆者注:本稿は情報の確実性が低いので割り引いて読んでもらえると助かります)
ファーウェイ製品を扱うメディアであるHuawei Centralが公開したスクリーンショット情報によれば、このチップは独自の「TaiShan」マイクロアーキテクチャをベースに設計されている。このSoCは、強力な4つの「コア」と、電気を節約する4つの「コア」が含まれている。画像やゲームの映像をきれいに描画するためのGPUの「Maleoon 910」も含まれている。
興味深いのは、この新しいCPUとGPUのクロック周波数は、前世代のファーウェイの半導体設計子会社「HiSilicon」製SoCに使用されていたArmコアのものと比べて、やや低い点だ。ファーウェイはエネルギー効率と高性能を両立させることを目指していると見られる。今後の詳細なスペック公開と性能テストの結果が待たれる。
微細化の程度を巡る推定は割れている。香港メディアのサウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)が引用したTechInsightsの分析は7nm(ナノメートル)プロセスとしているが、環球時報は5nmとしている。
SMICは少し無理をしている?
SMICの採用する技術は、台湾積体電路製造(TSMC)やサムスンのようなマーケットリーダーの技術よりも経済効率が低い可能性が高い。 SMICは「Twinscan NXT:2000i」というDUV(深紫外線)露光システムを使用している。DUVを使用した場合、7nm プロセスでより微細な特徴を得るためには、「マルチパターニング技術」に頼る必要がある。この方法は、競争相手が採用するEUV(極端紫外線)露光システムを使った手法と比べて、コストが高く、歩留まりにも影響する。
最先端露光システムの大手メーカーであるオランダのASMLは最近、中国のチップ工場へのDUV露光システムの輸出を4カ月間継続する承認を得た、とSCMPは報じた。2023年末日までは輸出が可能だが、2024年1月からは、新たな輸出管理規則により、Twinscan NXT:2000iを中国に出荷できなくなる。この規則は、特にアメリカ、オランダ、日本が、中国への高度なチップ製造ツールの輸出を管理・制限しようとする国際的な取り組みを継続するものである。中国の半導体産業は、装置のほとんど(85%)をこれらの国から輸入しているため、これは大きな打撃となると考えられる。
このチップを開発したファーウェイ傘下の半導体設計子会社HiSilicon(ハイシリコン)は、以前はチップ製造においてTSMCと提携していた。
2020年以降、ファーウェイが米国の技術へのアクセスを失った後、HiSiliconはTSMCへの製造委託ができなくなった。このため、ファーウェイはSMICの製造技術の向上を支援し始めた可能性がある。
米の業界団体「米半導体工業会(SIA)」の情報によれば、ファーウェイは昨年、半導体の製造を開始し、政府や地元深圳市から約300億ドルの資金援助を受けた。また、SIAの発表によると、ファーウェイは2つのファウンドリー(チップ工場)を買い取り、さらに3つの新しいファウンドリーを建設していることがわかった。この情報は、ブルームバーグによって確認されている。SIAの主張が正しく、ファーウェイが目立たないように別の企業名でこれらの施設を買収・建設しているとすれば、現在制限されている米国のチップ製造設備や供給品を間接的に購入する可能性がある。
中国は国内半導体分野に積極的な投資を計画している。中国は2014年から2030年までに1500億ドル以上を半導体に投資する、とSIAは予想している。
国内の半導体業界の裾野は成長しているようだ。中国の大手エッチング装置メーカーであるAdvanced Micro-Fabrication Equipment(中微半導体)の創業者によると、米国の輸入規制は同社の操業能力にほとんど影響を与えないという。輸入された(そして現在制限されている)装置の約80%は、年末までに国内の代替品に置き換わる可能性があるという。中微半導体は2024年後半までにフル稼働を再開できると予測している。
一定のベンチマーク?
全体として、Kirin 9000SはファーウェイとSMICの双方にとって重要な成果であり、特に地政学的な状況を考慮すると、中国の半導体製造能力の進歩を示すものと思われる。ただし、スペックは推定の域をでない。