セブンイレブンがインド進出で時価総額27兆円の巨大財閥と提携した経緯

要点

セブンイレブンがコロナや提携先の係争に苦しめられながら、念願のインド進出を果たした。紆余曲折を経て提携先になったのは、時価総額27兆円のインド最大財閥であるリライアンスという強力過ぎるパートナーだった。


インド小売大手リライアンス・リテール・ベンチャーズ(RRVL)は10月初旬、セブン-イレブン・ジャパンの子会社である米セブン-イレブンとの間で、インドにおけるコンビニエンスストア開設に関するマスターフランチャイズ契約を締結したと発表した。これに伴いインド最大都市のムンバイで1号店がオープンした。

RRVLはすでにリライアンス・フレッシュ、Jioストア、リライアンス・デジタル、リライアンス・トレンドなど12,700以上の店舗を運営しており、アパレル、食料品、電子機器などを販売している。

セブン-イレブンとのマスターフランチャイズ契約は、インドの8500億ドル規模の小売市場において、RRVLの最大のオフライン小売業者としての地位を確固たるものにするとみられている。

インドでは 「キラナ」と呼ばれる日本でいうキヨスクのような伝統的小型店舗が1,400万店舗あり、全体の9割を占めている。日本や中国のコンビニのように利便性の高い小売店舗はなく、主要都市においても 「キラナ」 が大半を占めている状況だ。

これから、都市部における所得分布は、 「アッパーミドル層」 と呼ばれる比較的裕福な経済階層の人口が増え、購買活動が活発になることが予想されることから、今後は利便性の高いコンビニへの需要の拡大が期待できると考えられている。

提携先のリライアンスは超巨大財閥

RRVLは現地最大級の財閥リライアンス・インダストリーズ・リミテッド(RIL)の小売部門。RILの時価総額は、2021年10月13日時点で18.1兆ルピー(約27兆2,800億円)となっており、日本有数のコングロマリットであるソフトバンクG(約10兆6,700億円)の2.5倍超の規模だ。

リライアンスは元々エネルギー産業にビジネスの中核をおいていたが、数年前に電撃的に通信キャリアとインターネットサービスプロバイダー(ISP)に参入し、価格破壊によってインドの急速なスマート普及を促進し、デジタル化を果たした企業だ。

5G通信事業の許認可を突如として取得し、市場を席巻した経緯からも、 RILはしばしば政治力の著しい強さが指摘されている。腐敗防止運動の活動家で政党党首は、アンバニが2つの主要政党を「所有」しており、彼が「国を動かしている」と述べたことがあるほどだ。懇意とされるモディ首相はアンバニの故郷の知事から首相まで上り詰めた人物でもある。

このRILを支配しているのが、財閥の二代目の当主であり、アジアで最も富裕な大富豪であるムケシュ・アンバニだ。彼の総資産額は1023億ドル(11兆6,177億円)と推定されている。RILの所有権は外部からはわかりづらく工夫されているが、アンバニとその家族は代理人や海外のペーパーカンパニーによってリライアンスの45%を所有しているとされる。

世界で最も高価な邸宅といわれるムンバイのアンバニ邸「Antilla」。インドの貧富の格差の象徴としてしばしば例示される。クリストファー・ノーラン監督の最新作『テネット』でも「インドの富裕な情報屋」の邸宅のモデルにされている。Image via Youtube

小売もリライアンスの柱の一つで、近年はその足場を急速に拡大しており、昨年は新たに1,500店舗を追加して合計約13,000店舗になった。リライアンスはスーパーアプリの展開に意欲を示している。

第1店舗がオープンまで長く続いた困難

セブンのインド進出は山あり谷ありだった。当初は、地場財閥Future Groupの小売部門で大手のFuture Retailとの提携のもとインド進出が進められていた。Future Retailは2019年2月に米セブンと提携し、その後、2019年にムンバイを皮切りに試験的な小型店舗をオープンし、また、他のコンビニエンスストアである「Nilgiri’s」や「EasyDay」の一部をセブンブランドに転換するとしていた。

インドには現代的なコンビニエンスストアがまだ本格的に未参入と言っていい状態だった。インドには、Samir Modi Enterprises社が所有する「Twenty Four Seven」、RJ Corp社が所有するJ-Mart、In&Outなどの一握りのローカルプレイヤーしかいなかった。Future Retailを率いるKishore Biyaniはセブン事業の有望さに惚れ込んでいたとされる

しかし、コロナ禍による小売業への規制や負債の増加により、計画は頓挫した。積極的な価格設定でインドの中流階級の消費者をBig Bazaar、Central、Brand Factoryなどの店舗に呼び込んでいたFuture Retailは、コロナ禍による影響を受け、2020年3月までに純負債が1,298億9,000万ルピー(約2,000億円)に上る経営危機に直面した。

Future Retailが運営していた小売ブランド群。

RRVLは、Future Retailが債務超過で死にかけているという状況を利用した。昨年8月、RRVLは、Future Retailを含むFuture Groupの小売・卸売事業と物流・倉庫事業を約25,000億ルピーで購入することに合意したと発表した。

しかし、この取引はいまだに完了していない。なぜなら、グループの企業であるFuture Coupons (Future Retailの7.3%の株式をワラントを通じて保有)に49%出資している米国のAmazonがこの取引に異議を唱え、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)に提訴したためで、裁判所は最終決定が出るまでこの取引を中断すべきだとしている。

この取引について、AmazonはFuture Couponsに資本注入する際に交わした契約への違反であると主張した。Amazonは、この契約により、ボンベイ証券取引所(BSE)上場のFuture Couponsがリライアンスを含む12のグローバル企業およびインド企業に資産を売却することが禁止されていると主張している。

SIACの2020年10月の暫定命令をきっかけに、アマゾンとFuture Groupの間で約1年間にわたって訴訟と反訴が相次ぎ、最初はデリー高等裁判所で、最終的には最高裁判所で争われることになりました。最高裁は8月、SIACの緊急命令はインドでも執行可能であるとの判決を下し、取引成立の見通しをSIACの仲裁結果に託した。

10月初旬には、SIACによって、緊急仲裁人により、Future Retailが制限付き当事者からの資金調達を確保するため、資産の処分や担保設定、有価証券の発行などの措置をとることを禁止する暫定裁定が下され、Amazonに有利な判断が下された。

なお、Kishore Biyani率いるFuture Retailは、8月28日、デリー高等裁判所が下した取引に関する現状維持と、シンガポールを拠点とする緊急仲裁人の命令を執行するよう指示する命令に対して、最高裁判所に提訴したと発表していた。

このような混乱の中で、Future Retailは10月初旬、インドでの店舗運営を2年以上にわたって計画してきたセブンとのマスターフランチャイズ契約が終了したことを発表した。この契約は、セブンが「店舗開設とフランチャイジー料の支払いの目標を達成できなかった」ために破談となったと説明されている。

270億ドルを調達したインドのデジタル財閥RILの目論見
アジアで最も富裕な男であるムケシュ・アンバニは2020年、FacebookやGoogle、プライベート・エクイティ等から、270億ドルの資金を調達した。63歳のインドの大富豪は、リライアンス・インダストリーズ・リミテッド(RIL)を旧来の企業複合体からテクノロジーと電子商取引の大企業へと転換させてきた。

参考文献

  1. 琴浦 諒. インドにおける M&A 関連規制(1) . アンダーソン毛利友常法律事務所.