アジアで最も富裕な男であるムケシュ・アンバニは2020年、FacebookやGoogle、プライベート・エクイティ等から、270億ドルの資金を調達した。63歳のインドの大富豪は、リライアンス・インダストリーズ・リミテッド(RIL)を旧来の企業複合体からテクノロジーと電子商取引の大企業へと転換させてきた。市場価値1780億ドルに到達した財閥は、競争の激しいデジタル小売業界でAmazonとWalmartに挑んでいる。

RILの株式は今年、9月に史上最高値を更新して55%も上昇した。KKRやシルバーレイク、ムバダラなどの大物投資家がデジタル事業に200億ドル以上、小売事業に64億ドル以上の出資を決めた。RILは、自主的に定めた期限の9ヶ月前の6月に無借金化を宣言し、株価は急上昇した。

Bloombergによると、アンバニが昨年実行した米国企業からの資金調達は当初、プランBのようなものだったという。2019年8月に最初に発表されたアラムコとの取引では、アラムコが同社の石油・化学品事業の20%の株式を150億ドル、企業価値750億ドルで取得することになっていた。これは、RILが18カ月間で同社の220億ドルの純負債を解消する目標を達成するのを助けると見込まれていた。しかし、アラムコとの協議が行き詰まるにつれ、RILの投資家は不安感を強めた。RILの株価は2020年3月23日までの3カ月間に40%以上も下落した。アンバニはその数ヶ月前にデジタルサービスと小売部門の株式売却を検討し始めていたが、アラムコとの取引が壁にぶつかった後、交渉を加速させることにしたという。

アンバニは出資のためにあらゆることを約束したが、その中には、5Gネットワークの展開に向けた製品開発、FacebookのWhatsApp決済サービスをRILのデジタルプラットフォームに組み込むこと、eコマースサービスを全国に展開する実店舗のネットワークと統合することなどが含まれる。アンバニは石油・石油化学部門の株式を売却する計画も進めており、RILは名実ともにテクノロジー企業へと変化しようとしている。

その旗艦が、Jio Platformsだ。Jio PlatformsはRILの100%子会社で4億人以上の加入者を持つ国内最大の通信キャリアであるReliance Jio Infocommを100%子会社の傘下に入れている。Jio PlatformsはReliance Jio InfocommやJio Appsのほか、Haptic、Reverie、Fynd、NowFloats、Hathaway、Den Networksなどの技術系スタートアップへの投資など、多数のデジタル事業資産を保有する。これらの投資は、ビデオコンテンツ、音楽、自然言語処理、地域言語技術、さらには電子政府まで多岐にわたる。

Bank of America Global Researchの2019年末の報告書によると、アジア全体のスーパーアプリの収益化方法は、広告のような従来型の手法から決済やコマースに焦点が移っている。アジアの新興国では、モバイル主体のインターネットが形成されており、店頭やオンライン上のデジタル支払いが急速に普及していることが背景にある。スーパーアプリの典型例は、中国のテンセントのWeChatで、同社は開始から2年以内にデジタル決済で40%の市場シェアを獲得し、ソーシャルと決済の融合を活用して、多くのコンテンツやサービスを提供している。この中国発の戦略が東南アジア、インドの支配的なトレンドである。

最近、RILが力を入れているのが、デジタル小売事業だ。RILは昨春、Amazon Indiaと協業関係にある競合小売会社フューチャーグループがコロナの感染拡大で資金難に陥った機を活かして買収したことでAmazonとの間で係争が生じたが、買収は当局の承認に向かって進んでいる。

RILは最近承認されたWhatsAppの決済システムとの統合を、オンラインショッピングサービスの開発における重要なステップと捉えているとされている。ただし、インドのデジタル支払いをリードするのは、PhonePe、Google Pay、Paytmの3社であり、後発のWhatsAppがどの程度食い込めるかは不透明だ。

同社はまた、Googleと協力してAndroidベースの54ドルのスマートフォンを開発しており、2年間で1億5000万台から2億台の携帯電話を販売する目標を立てている。規制当局が国内製造に有利な税制を設計したため、インド企業は2020年3月までの1年間で、1億6500万台のスマートフォンを組み立てたと推定されている。スマートフォンの約5分の1は、7,000ルピー未満(約1万円未満)の廉価帯だ。7月にGoogleがRILに45億ドルを投資し、広範な提携を結んだことがこの動きの端緒だが、この提携はまだ規制当局の審査中であるため、RILは今のところ携帯電話への取り組みを独自に進めているという。

アンバニは、12月初旬の携帯電話事業者の会議で「2020年を通じて、インドはオンラインで仕事をし、オンラインで勉強し、オンラインで買い物をし、オンラインでヘルスケアを受け、オンラインで社会化し、オンラインで遊んだ。このことは、インドにおけるデジタルテクノロジーの驚異的な進化を物語っている」と語っている。

RILがインドにおけるデジタルビジネスのすべてを囲い込もうとする野心は全く隠されていない。RILは他にもビデオストリーミング、オンラインゲーム、ショッピングなどのサービスでより多くのインド人にモバイルサービスと帯域を利用してもらう戦略を推し進めている。

リライアンスの辿った経緯

RILは典型的な新興国の縁故主義的な財閥である。RILは、1957年に父親のディルバイによって設立された。富裕ではない環境で生まれたディルバイは、役人を巻き込むこと、自分とRILの小株主軍団のために財を成したこと、そして巨大な政府プロジェクトへの貪欲さという3つのことで有名だったとされる。『The Polyester Prince』(ポリエステルの王子)という書籍の中では、ディルバイは、典型的な縁故資本家であり、役人や政治家に影響力を行使するフィクサーであり、ビジネスを確立するため残忍な縄張り争いに勝利し続けたとされている。

RILはサプライチェーンの上で、まずポリエステル製造、次に石油化学製品、精製、そして2000年代初頭には石油・ガス探査へと進出してきた。それぞれのステップには莫大な投資が必要だった。グジャラート州西部のジャムナガルにあるリライアンスの製油所は、世界で10本の指に入る規模を誇り、世界の原油処理能力の2%を供給している。2000年に開所したが、ディルバイが亡くなる2年前のことだった。

2002年にアンバニと弟のアニルが財閥を引き継ぎ、2005年に分裂し、ムケシュがRILの全権を握ることになった。それ以来、業績は芳しくなかった。RILの株式は過去10年間、インドの株式市場が台頭する流れに遅れをとってきた。

アンバニは父を見習って、いくつかの巨大プロジェクトに賭けてきた。アンバニは、石油化学と精製事業の近代化のために巨額の投資を行ってきた。この決断は成功した。しかし、アンバニの他の投資は失敗に終わった。2010年から15年にかけて、RILはアメリカのシェール鉱区に80億ドルを投じた。原油価格が下落した現在では、この投資は赤字となっている。RILはインドの東海岸沖のエネルギー田に約100 億ドルを投資したが、期待したよりもガスの生産量が少なかった。石油ビジネスの上流を目指す動きはことごとく失敗に終わっている。

また、RILは小売事業に約20億ドルを費やしているが、利益はわずかである。結局のところ、RILの精製・石油化学部門は、財閥の従業員の5分の2を占めるが、営業利益の100%以上を占めている。その他の事業は、主にアンバニが単独で経営権を握った後に開発されたもので、資源の大部分を吸収しているにもかかわらず、利益を上げてこなかった。

アンバニは2002年に大規模な携帯電話事業を構築しようとする試みを開始し、長期に渡り苦戦した。RILは一歩一歩、帯域を獲得し、携帯電話のサプライヤーと協力し、4Gネットワークを構築してきた。彼は2016年9月、彼は通信キャリアReliance Jioを立ち上げ、無料通話と格安データを提供することでインドの電気通信業界を一変させ、激しい価格競争が勃発した。いくつかのライバルが倒産に追い込まれた。Reliance Jioの加入者数は現在4億人を超えている。Jioは世界で最も価値のある2つの通信事業者であるチャイナモバイルやAT&Tよりも多くのデータを保有している可能性がある。

世界で最も高価な邸宅といわれるムンバイのアンバニ邸「Antilla」。クリストファー・ノーラン監督の最新作『テネット』でも「インドの富裕な情報屋」の邸宅のモデルにされている。Image via Youtube

縁故資本主義

6月に中国との国境紛争が勃発して以降、インドのテクノロジーセクターと中国企業の関係は急速に悪化したが、アンバニは国内で高まるナショナリズムの追風を享受している。アンバニは中国の技術的な強さに対抗する方法を模索しているインド政府にとって、RILは潜在的な資産であると位置づけている。アンバニは、リライアンスの目標がナレンドラ・モディ首相の目標と一致していることを何度も強調してきた。

RILは、グジャラート州の前州知事であるモディが政権についたことで不当に利益を得ているとの意見もある。RILはグジャラート州に資産の3分の1を保有しており、アンバニはグジャラート人である。両者の関係は良好なように見える。米系のテックジャイアントが彼の帝国に投資を決断した要素として、アンバニがモディ政権以前から政府と「良好な関係」を築いてきたことと関連があるかもしれない。

ただ、モディが最も仲がいいのはアンバニの弟アニルのようだ。アニルは、2006年にRILから分裂して誕生したリライアンス・グループの会長を務めている。第1期の間、モディの海外旅行には大規模なビジネス代表団が同行していたが、彼の旅行パートナーにはしばしばアニルが含まれていた。アニルは次から次へと資産を売却を迫られてきたが、彼の会社の1つであるリライアンス・ディフェンスは、2016年に数十億ドル規模の戦闘機の契約を獲得している。

インドの政治腐敗の主な原因は、経済の根底にある伝統的な体質に根ざしており、「政党の選挙費用が法外に高騰し、政党が不正な資金を大量に集めざるを得なくなったこと」にある、と『The Billionaire Raj: A Journey Through India's New Gilded Age』の著者は主張している。僅差の議会選挙では、候補者は少なくとも100万ドルを集めなければならないが、これは不正な見返りがなければほとんど達成不可能な金額である。インドの乱立した民主主義は、その将来の発展に深刻な脅威をもたらす可能性がある。

その中でも、RILはインドのクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)を象徴する存在とも言える。RILは2014年には政府からの情報を利用して液化天然ガス価格を操作しようとした疑惑が浮上した。ニューデリー在住のジャーナリスト、Paranjoy Guha Thakurtaと2人の共著者によって書かれた『Gas Wars』は、2011年にBP社が72億ドルで30%の権益を購入したRILのガス田に対する規制の「調整」と、天然ガス価格設定に関連した数々の不正疑惑を詳述した。同書は「RILが自らの利益のために意識的にシステムに保持されていた抜け穴を悪用することを可能にしていた縁故資本主義の事例」に焦点を当てている。RILはこの書籍に対し11ページに及ぶ法的通知を提示し、本には「数え切れないほどの凶悪な、中傷、中傷、名誉毀損の申し立てが含まれている」と主張した。

ケイリワルはアンバニらを州汚職対策本部に提訴するという前代未聞の措置をとり、インドで最も裕福な男と石油相が結託して天然ガス価格を倍増させてRILに多額の利益をもたらしたと告発したことがある。ただ、問題となったガス田は、産出が心もとなく事業としては失敗だった。当時のRILの株主資本利益率(ROE)は低空飛行を続けていた。

他にも、現在の反映の礎になっている通信キャリアのライセンスを不適切な手段で取得したとの告発に直面したこともある。海外の競合他社も地元の競合他社も、通信キャリアの誕生の経緯については不満を漏らしている。Jioが使用している無線周波数は当初、データ専用サービス用に予約されていたが、2010年にInfotel Broadband Servicesという無名の会社が政府のオークションで購入した。その数時間後、同社はRILに買収された。2013年には、政府が規制当局に規則の変更を命じた結果、同社は4Gサービスを運営する権利を獲得した。ライバル企業は、あらかじめRILがInfotel Broadband Servicesを支援することを知っていたら、2010年にもっと注意を払っていただろう。腐敗防止運動家の中にはこのプロセスに明確な不正があったと主張するものもいる。

RILの所有権は複雑を極める。The Economistの2014年8月の記事によると、アンバニの「プロモーター・グループ」(アンバニとその盟友を指す言葉)がリライアンスの45%を所有している。その持ち株は66の法人に分割されている。これらのうち少なくともいくつかは、さらに別の法人によって投資されている。RILは、すべての事業体の「最終的な所有権」はアンバニとその家族にあるとしている。アンバニが会社支配権の所在を外部に対し難読化しようとしているようだ。

腐敗防止運動から生まれたアーム・アードミ党(庶民党)のリーダーであるアルヴィンド・ケイリワルはかつて、アンバニが2つの主要国政政党を「所有」しており、彼が「国を動かしている」と述べたことがある。

※参考文献はリンクで示した。

Photo: "Mukesh Ambani - India Economic Summit 2011" by World Economic Forum is licensed under CC BY-NC-SA 2.0

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