ソフトバンクG、Armの高い値付けを追求し苦肉の策を打つも、またもや悪手の予感

Armのライセンス料値上げ計画は、親会社のソフトバンクグループ(SBG)の新たな悪手となり得る。SBGは資産を急激に減らす中で、ArmのIPOでの高い値付けを必要としているが、値上げはライバルへの顧客の投資を招くだろう。


Armはライセンス料体系を変更し、事実上の値上げを通告した。フィナンシャル・タイムズは「同社はチップの価値に基づくデザイン使用料の徴収をやめ、代わりにデバイスの価値に基づく使用料をデバイスメーカーに請求する予定…この変更は、Armが販売する各デザインに対して、より多くの収入を得ることを意味する」と表現している。

FTによると、新しい価格モデルは、チップではなく、モバイル機器の平均販売価格に応じてロイヤリティを設定するというもの。この戦略は、エリクソン、ノキア、クアルコムなどの企業が特許を取得する際によく使われている。

これまでは、Armは同社の設計に基づき販売されたチップの価値の約1〜2%を請求していた。Armのシェアが圧倒的なスマートフォンのチップの平均価格は約40ドルである。これに対し、2022年の平均的なスマートフォンの販売価格は335ドル。このうちの一定の取り分をArmは要求するようだ。

値上げは2024年から開始される見込み。FTのAnna Gross、Cheng Ting-Fang、Kana Inagakiは「この価格戦略により、全体の収益が向上し、SBGの業績が好転すると期待されており、投資家は300億ドルから700億ドルのバリュエーションをArmに適用すると伝えられている」と書いている。

Armは今年ニューヨークでのIPOを控えている。IPO時に新株を引き受ける機関投資家を説得するストーリーを作るため、値上げを計画するのはよくある話だ。例えば、海外投資家の需要を集めた会計ソフトfreeeのIPOでは、上場と同時に値上げを行い、利用者は従来の機能を引き継ぐ場合には10倍の値上げを飲まないといけなかった。

純資産価値(NAV)を急激に減らし、シリコンバレーバンク(SVB)破綻の影響を受けるSBGにとって、ArmのIPOは唯一の明るいニュースであり、より高い価格で持ち分の一部を売りたいはずだ。

しかし、これは悪手になりうる。Armが値上げを行えば、取引企業は競合するオープンソースの命令セットアーキテクチャ(ISA)であるRISC-Vへの投資を加速させることは明白だ。

Armの最大顧客であるクアルコムの製品管理担当ディレクターであるManju Varma は昨年12月のRISC-Vサミットで、Armをレガシーと誹り、RISC-VはArmと比較してより価値の高いユースケースの機会を提供すると述べ、エコシステムの断片化を減らすために標準化されたRISC-V互換システムの開発を呼びかけた

クアルコムはRISC-Vへの移行に積極的になる理由を持っている。クアルコムは、自社開発のArmベースのCPUをめぐって、Armにそのデザインを破棄するよう提訴されている。クアルコムはNVIDIAがArmを買収しようとした際には、反対するロビイングを世界的に行い、企業連合によるArm株の一部取得で「中立化」をほのめかした。

クアルコムは、カルフォルニア大学バークリー校のRISC-Vの開発者らが創業した「RISC-V版のArm」であるSiFiveの投資家でもある。

また、ソフトウェアの対応も進んでいる。Googleは1月、命令セットアーキテクチャ「RISC-V」向けAndroidを開発していることを公式に明らかにした。このAndroidの開発を主導してきたのは、アリババのチップ子会社。中国では、米国との経済戦争の帰結として、スマートフォンのチップをRISC-Vベースへと動かしていく準備が進んでいる。

Armが値上げをすればRISC-Vへの投資はますます加速をするだろう。Armは長期的には損をしかねない。しかし、Armに集中しているとされる孫正義氏はそんな先のことは気にしていられないだろう。窮地に陥ったSBGに一縷の望みをもたらすため、Armの値札を釣り上げることが彼の唯一の目標だろう。

RISC-V向けAndroidの開発が進展しArmの牙城を脅かす
Googleは、命令セットアーキテクチャ「RISC-V」向けAndroidを開発していることを公式に明らかにした。ソフトバンクグループのArmにとっては、携帯電話や車載エンタテインメントのような広範な範囲でRISC-Vの挑戦を受けることを意味する。