ビッグテックによる現金報酬の積み増し競争

シリコンバレーのテクノロジー企業は長い間、大学や中小企業からエンジニアリングやソフトウェア・プログラミングの才能を吸い上げようと競い合ってきた。しかし、いまや、これらの企業は、互いの優秀な従業員を引き抜こうとする動きを強めている。その中で伝統的な手段の価値が再発見されている。現金報酬だ。

例えば、フェイスブックの親会社であるメタ・プラットフォームズは、代替現実技術の経験豊富なスタッフを採用する取り組みを強化し、ライバル企業に賃上げ圧力を強めている。

マイクロソフトの拡張現実(AR)ゴーグル「HoloLens」チームの元社員70人以上がこの1年でを辞めていることがウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道で判明したが、そのうち40人以上が、仮想現実(VR)に大きく舵を切っているメタに入社したことが、リンクトインのプロフィールで示されているという。

組織が職場に拡張現実を導入するのを支援する新興企業Mira Labsの最高執行責任者であるMatt Sternは「それが市場の価格を押し上げている。小さな会社が競争するのは難しい」とWSJに対して語っている。

メタの人材欲の高まりに直面している企業は、マイクロソフトだけではなく、アップルもそうだ。両社はAR / VRのヘッドセットとスマートウォッチにおいて激しいライバルとなる可能性がある。

昨年12月、アップルは半導体設計、ハードウェア、一部のソフトウェアとオペレーショングループの一部のエンジニアに、規定外のボーナスを支払ったと報じられた。ボーナスは約5万ドルから場合によっては18万ドルにも及んでおり、エンジニアの多くは、およそ8万ドル、10万ドル、あるいは12万ドルという金額を株で受け取ったという。

アップルはシリコンバレーをはじめとする企業と人材争奪戦を繰り広げており、特にメタは脅威として浮上している。メタはここ数カ月でアップルから約100人のエンジニアを雇い入れたが、一方通行ではなかった。アップルもメタの主要な社員を引き抜いている。

アップル、株価停滞で株式報酬の魅力が急減

アマゾンは今月初め、基本給(現金で支払われる給与部分)の上限を16万ドルから35万ドルへ引き上げると発表した。「優秀な人材の獲得と維持のために競争力を維持する必要がある」として、ほとんどの職種の報酬の幅を引き上げるという。

アマゾンは、基本給が低くても労働者を惹きつけることができると考え、長年にわたって株式報酬に頼ってきた。しかし、2021年の株価はS&P500が27%上昇したのに対し、自社株はわずか2.4%の上昇にとどまり、この戦略は魅力を失っていった。アマゾン内部の離職率は危機的レベルに達しており、昨年は過去最高の50人のバイスプレジデント(課長・係長レベル)が離職したという。

証券取引所に提出された書類によると、10月19日から適用されるアルファベットの新しいキャッシュ・ボーナス・プランは、営業ボーナスの対象とならないすべての従業員への報酬に使用することができる。この新制度では、会社は個々のボーナスを異なる計算式で算出することができ、非常に柔軟性が高い。

グーグルは10年以上にわたって、若手エンジニアに給与の15%から20%の業績連動型キャッシュボーナスを支払い、シニアエンジニアには給与の25%以上を支給することが可能だったと、元社員は述べている。

グーグルは12月陶、同社の契約社員とインターンを含む全従業員に、1,600ドルまたはその国での相当額の1回限りの現金ボーナスを支給している。

基本給+RSUだけでは足りず「追い銭」が必要になった

テクノロジー大手企業は通常、若手から中堅のエンジニアに給与の30%から100%の範囲の譲渡制限株式ユニット(RSU)を支払っている。管理職や上級職は、給与の2倍から6倍の株式報酬を受け取ることができる。

例えば、25万ドルの現金給与と5万ドルの契約ボーナス(サインアップボーナス)、さらに10万ドルのRSUといった具合だ。また、一部の企業はシニアエンジニアとみなされるために必要な年数をおよそ4、5年に半減させ、若い労働者に収入を増やすチャンスを与えていると、彼らは付け加えている。