痩せ薬「GLP-1」のゴールドラッシュが始まる

「GLP-1受容体作動薬」という新種の痩せ薬に注目が集まっている。今年は大手薬品メーカーが世界各国で本格的に販売を開始する予定で、ゴールドラッシュが始まろうとしている。


デンマークの製薬会社ノボノルディスクが開発したGLP-1受容体作動薬「セマグルチド」は、臨床試験で約15%の体重減少をもたらすことが明らかにされている。この薬は、米国、デンマーク、ノルウェーでWegovyという商品名ですでに販売されており、まもなく他の国でも販売される予定だ。

低容量版のOzempicは糖尿病薬で、減量のために「適応外使用(承認内容の範囲外で使用すること)」されてもいる。米国のイーライ・リリーが製造するGLP-1受容体作動薬「マンジャロ」はより効果的とされている。今年後半に発売される予定で、日本では田辺三菱製薬が流通・販売を行う。

アナリストは、GLP-1受容体作動薬の市場は2031年までに1,500億ドルに達し、現在の抗がん剤市場に近い水準に達すると見ている。ベータ遮断薬やスタチン系薬剤のように一般的な薬になるかも知れないという意見もある。

世界の肥満の蔓延に終止符を打つ新薬
新しいタイプの薬が、富裕層と美容家たちの間で話題を呼んでいる。1週間に1回、注射を打つだけで体重が落ちていく。イーロン・マスクが太鼓判を押し、インフルエンサーたちがTikTokで絶賛し、ハリウッドのスターたちが突然スリムになったかと思えば、使用したことを否定する。

もちろん、GLP−1薬がセレブや富裕層向けにとどまる可能性もある。GLP-1薬はかなり高価で、保険でカバーされないことが多い。GLP-1薬の中には、米食品医薬品局(FDA)が糖尿病用として承認しているものもあり、減量用ではない。患者の健康保険がGLP-1薬をカバーしない場合、その自己負担額は月々1,600ドルにもなる可能性がある。

しかし、企業は千載一遇のチャンスに殺到している。3月6日、減量ソリューション提供企業WeightWatchersは、Ozempicを遠隔処方するテレヘルス企業Sequenceを1億3,200万ドルで買収すると発表した。WeightWatchersは、長年の実績がある食事追跡型の減量プログラムとSequenceの薬物療法を組み合わせることになる。

米ビジネス誌Business Insiderは3月7日、減量アプリのNoomが昨年秋、GLP-1薬を患者に処方するプログラムを開始したと報じた。一定の医療適格基準を満たしたユーザーは、臨床医による評価を受け、流行のGLP-1薬などの減量に役立つ医薬品を処方される可能性がある。

多くの遠隔医療スタートアップは、GLP-1薬が注目されるにつれて、ビジネスモデルを完全に切り替えている。NextMedは2020年にコロナの検査事業として設立されたが、7月には減量のために人気が急上昇している糖尿病薬の処方に重点を移した。勃起不全薬のオンライン販売で知られるスタートアップのRoは1月、GLP-1の取り扱いも開始したと発表した。

より簡単で利用しやすい減量薬の処方が増えたことで、批判も巻き起こっている。WSJは最近、テレヘルス企業による減量薬を含む医薬品のプロモーションを分析し、ソーシャルメディア上の広告が、潜在的な副作用に関する情報を除外しながら、効能を強調し、適応外使用の医薬品を宣伝していることを明らかにした。また、遠隔医療スタートアップは製薬会社と同じルールで規制されていないため、議会指導者は遠隔医療マーケティングに対する監視を強化するよう求めている。

新興企業によるアグレッシブな処方が問題を引き起こした例がある。注意欠陥多動性障害(ADHD)治療薬をデジタル処方するセレブラルは、規制物質法(CSA)に違反した疑いで調査を受けた。ADHDへの多量投与で心身を害した例が多く報告されている。減量薬のデジタル処方を進める新興企業は、ソフトバンクグループの孫正義氏が支援を主導したセレブラルが陥ったような臨床的・倫理的な過ちを犯さないようにする必要がある。