米国の対中半導体輸出規制が効いている説が浮上

台湾のリサーチ会社が、米国の対中半導体輸出規制が効いている可能性を示唆する兆候らしきものを観測した。中国は半導体サプライチェーンの育成に苦戦しているのだろうか?


中国最大の半導体受託製造会社で、中国のチップ内製化の旗艦である中芯国際集成電路製造(SMIC)は、同社のウェブサイトのサービス一覧から14nmの製造技術を削除した。同社はまた、先週の決算説明会でFinFETベースの先端技術について語らなかったと台湾エレクトロニクス専門誌DigiTimesは報じた

ASML、Applied Materials、KLA、Lam Researchなどのサプライヤーから先端機器やスペアパーツを入手できなければ、台湾のTSMCを模して作られた同社は、最新の製造技術を使って顧客向けのチップを製造できなくなる可能性があり、14nmプラットフォームを同社の技術のリストから外すことは妥当である、とDigiTimesは書いている。

一方、SMICのウェブサイトの別のページでは、依然として14nmに言及し、このノードを使用した試作設計や少量生産を目的としたウェハー・シャトル・サービスを提供できると主張している(5月18日現在)。

米国の中国への半導体輸出規制は、前トランプ政権時代に本格化した。具体的には、主に最先端の半導体と関連する製造装置の輸出を、安全保障やその他の懸念がある中国企業に原則禁止した。

また、極端紫外線(EUV)などの装置やその他の設計ソフトウェアの輸出を一部の大手中国半導体メーカーに禁止。SMICに対して、10nm以下のロジック半導体の開発・製造に必要な装置・ソフトウェアの輸出を禁止している。製造装置において、米国、欧州、日本の企業の市場シェアが9割以上を占めている。

「量産」は小規模だった説(?)

SMICは2019年末から、SN1施設で14nmクラスの生産技術を使用している。同社が生産した14nm SoCの1つが、ファーウェイのHiSilicon Kirin 710Aだった。同社はこのノードに起因する収益を開示するのを途中で止め、28nmノードの収益と合算しているのだが、合算をしても大きな収益貢献はしていない。

中国の国営メディア環球時報は昨年9月、SMICが中国・上海近郊のFab SN1で14nmクラスの製造プロセスによるチップの量産を開始したと、現地関係者の話を引用して報じた。SMICは、独占的なサプライヤーであるASMLから極端紫外線(EUV)露光装置へのアクセスを拒否されているにもかかわらず、同社は7nmと5nmクラスのノードを進めていると主張していた。

調査会社TechInsightsは、昨年7月、SMICが製造したビットコインのマイニング用ASIC(ある特定の用途に特化して製造された集積回路)を分解し、「7nm」プロセスと判断した。ただ、TechInsightsは、TSMC N7+ や Intel 10nm ほどの微細化には成功していないとした。

巨額補助金

中国政府は、半導体企業への巨額補助金を拠出している。サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、2022年、中国政府は、米国による先端半導体製造の規制が残したギャップを埋めるため、上場半導体企業190社に121億人民元(約2,370億円)の補助金を割り当てた。SMICは、19.5億元という最大の補助金受給者でもあり、長引く技術戦争の中で国の優先順位が示された。

SMIC、中国の半導体国産化の期待を背負う
米国と中国の間の新たな「技術冷戦」は、今日の多くの電子機器の動力源となる半導体製造の自立化を目指す北京の動きをさらに加速させている。このような背景の中で、これまで無名だったSMICが、中国共産党の夢を実現するための「主人公」として浮上。政府の支援で規模を拡大し続けるSMICは業界を独走するTSMCと渡り合えるか。
世界の半導体ファウンドリー売上高シェア: Q1 2023。出典:CounterPoint

調査会社Counterpointによると、2023年Q1の SMICの売上高シェアは5%で台湾のTSMCの59%に対してまだまだ小さいのが現状だ。今後米国の措置を織り込んでいくと、どのように推移するか見守る必要がある。