ネットフリックスが広告の採用をためらう理由

先月、同社のCFOであるSpencer Neumannは、モルガン・スタンレー主催のカンファレンスで、ストリーミングプラットフォームの広告に関して「決してないとは言えない」と発言した。ただこう付け加えている。「我々は本当に素晴らしいスケーラブルなサブスクリプションモデルを持っており、決して絶対とは言わないが、それは我々の計画ではない」

実際、競合他者はすでに広告を採用している。HBO Maxは番組中の広告を含む低価格帯の購読サービスを提供しており、Disney+は今年後半に同様のサービスを展開すると発表している。

Netflixは2億人を超える有料会員を獲得しており、採用を検討しない理由はないだろう。Netflixは2021年第4四半期に828万人の加入者を獲得したが、ウォール街の予想830万人にわずかに届かず、株価が軟化したことも検討の素地を作っているとも言えるだろう。

Mobile Dev Memoに寄稿したアナリストのエリック・スゥファートはこの「広告付き」の追加可能性に関して、Netflixの個々人に最適化したコンテンツ群を提案するパーソナライゼーション・エンジンは広告ネットワークに応用可能だと主張している

「入札システムとキャンペーン作成用のインターフェイスを除けば、Netflixのパーソナライゼーション・インフラには、パーソナライズ広告の配信に必要なものがすべて含まれており、そのために同時利用される可能性もある」とスゥファートは書いている。

1つ目のパーソナライゼーション技術に関しては、Netflixが機械学習を利用してNetflix製品の体験をパーソナライズする方法の包括的な概要については、2018年と多少古いものの、同社の機械学習担当ディレクターによる1時間の講演に詳しい。

Netflixの機械学習インフラの影響は、製品におけるユーザーエクスペリエンスの至るところに存在する。そして、これによる同社への経済的利益は相当なもので、2015年の論文では、Netflixの研究者が「パーソナライゼーションとレコメンデーションの複合効果により、(Netflixは)年間10億ドル以上を節約している」と推定している。この統計が今日出されたとしたら、ほぼ間違いなくもっと高い数字になっているはずだ。

両面市場の推薦システムは何を目的に設計されるべきか?
ユーザーはバイヤーとサプライヤーをつなぐ仲介業者を通じて欲求を実現する。このような市場の規模、利便性、速度は、バイヤーとサプライヤーを一致させる推薦システムによって実現される。

スゥファートは、サブスクリプションで年間300億ドルを稼ぐNetflixが、広告ビジネスを20億ドルから30億ドルに「即座にスケール」させることができると主張している。LinkedIn(年間30億ドル以上)とAmazon(310億ドル以上)は、主要な収益源とは別に大規模な広告ビジネスを構築したプラットフォームの2つの例である。

広告の採用には2つの採用方法が存在する。1つがSpotifyやYou Tubeのような広告ありの無料部分と広告なしの有料部分にサービスを分割することだ。Netflixのコンテンツに費やしているコストを勘案すると無料はありえないため、広告付き低価格の区分を設けることになるだろう。もう1つは、有料ユーザーにも広告を表示することだ。

両方の方法とも長期に渡って2%前後を誇る(ストリーミング分析会社Antenna調べ)とされる業界最低の解約率にプレッシャーをかけるのは間違いないだろう。

解約率が増えれば、顧客が全期間のうちにもたらす儲けを指すライフタイムバリュー(LTV)は減ることになる。一度逃した顧客を再度取り込む必要が生じるためマーケティング費用も膨らむ可能性がある。またAmazon Prime Videoのような利益を出そうとしない企業との競争力を毀損するのではないか。

広告がもたらす利益がこれらのダウンサイドに見合うものか。これらのポイントが長期に渡ってNetflixが広告を採用しなかった理由なのかもしれない。