両面市場の推薦システムは何を目的に設計されるべきか?

ユーザーはバイヤーとサプライヤーをつなぐ仲介業者を通じて欲求を実現する。このような市場の規模、利便性、速度は、バイヤーとサプライヤーを一致させる推薦システムによって実現される。

両面市場の推薦システムは何を目的に設計されるべきか?

両面市場は消費者とサプライヤ、またはユーザーと広告主などの2セットのエージェント間の経済的相互作用を促進する仲介役として機能する。 近年、オンラインの両面市場は、宿泊施設の検索(Airbnb、Booking.com)、ビデオコンテンツの視聴(YouTube、Netflix)、ライドシェアリング(Uber、Didi、Lyft)、オンラインショッピング(Alibaba、Ebay、楽天)、音楽(Spotify、Soundcloud)、アプリの検索(AppleおよびGoogle App Store)、仕事の検索(LinkedIn)等多様な範囲で成立する。ユーザーは、バイヤーとサプライヤーをつなぐ仲介業者を通じて、製品を購入し、映画を観、音楽を聴き、サービスを利用する。このような市場の規模、利便性、速度は、バイヤーとサプライヤーを一致させる推薦システムによって実現される。

推薦システムは、このような市場の重要な構成要素である。そのような市場でのマッチングは両側の選好に依存するため、推薦システムの構築は両側の選好を考慮を必要とする。パーソナライゼーションとは、個人の好みや行動に関する知識に基づいて、個人(つまりユーザー)に合わせたコンテンツやサービスを推奨する機能である。

バイヤーの立場からは推薦されるアイテムとの関連性(Relevance)が重要だ。初期のAmazonが載せていたもののような従来の推薦システムは、関連するコンテンツを消費者に提供することにより消費者満足度の向上に特に焦点を合わせていた。だが、最近の両面市場はサプライヤーの選好と可視性(Visibility)を加えて最適化しないといけないという問題に直面している。

サプライヤーは公正(Fairness)に留意する。プラットフォームは消費者の関連性を盲目的に最適化すると、サプライヤの公正性に悪影響を与える可能性がある。多くの市場では、スーパースターサプライヤーが大きな注目を集める一方で、ロングテールのサプライヤの大部分はほとんどユーザーの関心が当たることがない。そのような格差の主な要因は、ユーザーの事前知識とオンライン市場外での露出(広告や口コミなど)がある。たとえば、トムクルーズの映画とアクション映画のファンとの関連性は、俳優が高品質の映画に出演するのに相当するスキルと影響力を持っていることに由来するだけでなく、俳優と映画にすでに慣れているため高くなる傾向がある。つまり、システムは関連性を最適化するため、トム・クルーズを起用した映画のような特定のアイテムに露出が偏りやすいのだ。特にシステムとの対話の労力を最小限に抑えたいユーザーに対して、人気のあるサプライヤーへのロックインが生じる。スーパースターエコノミクスの主な副作用は、テールエンドにいるサプライヤーは露出度が低いために消費者を引き付けるのに苦労することだ。

スーパースターエコノミクス

これは「スーパースター経済学」という問題である。スーパースター経済学とはパフォーマンスには僅かな差しかないのにも関わらず少数の勝者が著しく大きな報酬を得ることを得るような現象を指す。プロのスポーツや音楽, 芸能などの世界では多くの選手や歌手が下積みで極めて低い報酬に甘んじる一方, トップは巨額の報酬を稼ぐ。シャーウィン・ローゼンはこのようなスーパースターの巨額の報酬が生じる要因として、マーケットのサイズと他のプレーヤーとの代替の難しさを挙げている。

実際、両面市場は、プラットフォームにより多くのサプライヤーを引き付け続けるためには、スーパースターにおもねる推薦をすることを避けがたい。これに対し、平均的なサプライヤー(小売業者、アーティスト、ライターなど)は、ユーザーに提示される公平な機会がほしいと考えている。

関連性のみを最適化するシステムは、人気のない多数派のサプライヤーにとって不公正である可能性がある。ユーザー満足度が同じサプライヤーが二者いたとしても、ユーザーの認知次第で、片方のサプライヤーが推薦される可能性は低く、片方は著しく高くなりうるためだ。一方、すべてのサプライヤーを平等に公開することは、消費者の満足度(Satisfaction)に深刻な影響を与える可能性がある。

この満足度を抜いて関連性とサプライヤーの露出のトレードオフを評価することは困難である。またこの満足度は両面市場の成立のための不可欠な必要条件であり、満足度を引き下げてまで公正さを確保することを、両面市場は正当化しない。

つまり、ユーザーの満足度、ユーザーに対する関連性、サプライヤーへの公正、が最適化された常態を作るのが、好ましい両面市場における推薦システムと言える。Spotify Research の Rishabh Mehrotraは、因果推論の技法を利用してこの課題を解決する手段を提案している。複数の目的をもったモデルの適用により、必ずしもゼロサムゲームになるわけではなく、単にユーザー中心的な推薦アルゴリズムよりも好ましい、という。私にはこの技法の内容を説明できる力量がないので、そこは参考文献リストからたどっていただければ幸いである。これが多面市場(Multi Sided Marketplace)になったときにはステークホルダーがより増え、もっと要素をブレークダウンしていけばより複雑性が増すはずである。

参考文献

Sherwin Rosen(1981). The economics of superstars. The American economic review 71, 5 (1981).

Rishabh Mehrotra, James McInerney, Hugues Bouchard, Mounia Lalmas, Fernando Diaz () Towards a Fair Marketplace: Counterfactual Evaluation of the trade-off between Relevance, Fairness & Satisfaction in Recommendation Systems"

Rishabh Mehrotra, Personalizing Explainable Recommendations with Multi-objective Contextual Bandits

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