SPACキングが全面降伏 流行に終止符

「特別目的買収会社(SPAC)キング」と呼ばれたチャマス・パリハピティヤは、自身のSPACのうち2つを閉鎖し、投資家に資金を返還する予定であることが明らかになった。

Virgin Galactic、Opendoor、SoFiなどの事業をSPACに合併させたパリハピティヤは、SPACの買収相手を見つけることができなかった。

SPAC Researchによると、2020年、2021年のブームによって誕生した676のSPACは、まだ合併する相手を見つけていない。本稿執筆時(21日)の段階で、FRBはさらなる利上げに踏み切るとの見方が大勢であり、株式市場に過大なパフォーマンスを期待することは難しい。

SPACは新興企業にとって好ましい資金調達方法ではなくなった。フロリダ大学のジェイ・リッター教授のチームによる研究によれば、今年、企業と合併したSPACのほとんどは、株主が80%以上の現金を償還している。この買収時の償還には一定のプレミアムが加えられるため、SPAC株主はリスクに晒されるずに儲けることができる。株式市場の低調さとSPAC上場を遂げた企業による数々のスキャンダルのため、SPACの株を合併以降も持とうというインセンティブが薄れている。

SPACは新規株式公開(IPO)に比べ、とにかくコストがかかる手段だ。米スタンフォード大学ロースクールのマイケル・クラウズナー教授と米ニューヨーク大学のマイケル・オーロッギ助教授のワーキングペーパー では、2019年1月から2020年6月までの間に合併した47のSPACを調査している。調査では、SPACは約10ドルで株式を発行し、合併時には10ドルで株式を評価するが、中央値のネットキャッシュは1株当たり4.10ドル〜5.70ドルに過ぎないことが判明している。失われた現金は、主にSPACのスポンサー(発起人)への報酬と償還に費やされている。

SPACの冷静な見方
SPACは未上場企業にとって株式公開のための安価な方法であるが、SPACの投資家がそのコストを負担しているだけであり、これは持続不可能な状況である。プロセスの中で33%の現金が消え、合併後の株価が平均で3分の1以上下落する。

SPACは合併の前にPIPE(上場企業の私募増資)を実施し、現金を増強した上で合併を行う。この一連の取引で欠かせないPIPE投資家を捕まえるため、発起人は開示されないサイド・ディール(裏取引)をやっているとリッター教授はフィナンシャル・タイムズ(FT)に対して指摘している。米CFA協会は裏取引の有無などを開示するよう推奨していた。

SPAC合併で上場した企業の中には、おそらく全く上場すべきではなかった企業もある。合併完了後の企業の株式は通常、取引され、場合によっては大幅に下落した。パリハピティヤのSPACの結果、生まれた企業もそうである。Virgin Galactic、SoFi、Clover Health、Opendoorはそれぞれ49%、43%、79%、67%下がっている。

パリハピティヤ自身は、発起人としての特典を活かし、これらの企業の株をいくつか売却して、多額の利益を得ている。しかし、SPACの株価は概して、現在の株式市場の低迷の中でより悪い曲線を描いている。つまり、合併直後の想定された現金のほんのひとかけらしか持っていない企業の割高な株を掴んだ公開市場の投資家(その多くは知識に欠ける個人投資家)が損を一手に背負っているのだ。

パリハピティヤが手を引くというのだから、この怪しげな上場手法は潮時ということだろう。

参考文献

  1. Klausner, Michael D. and Ohlrogge, Michael and Ruan, Emily, A Sober Look at SPACs (December 20, 2021). Yale Journal on Regulation, 2022, Volume 39, Issue 1., Stanford Law and Economics Olin Working Paper No. 559, NYU Law and Economics Research Paper No. 20-48, European Corporate Governance Institute – Finance Working Paper No. 746/2021, Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3720919 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3720919
  2. Jay R. Ritter et al. SPACs. July 13, 2022,