Go-JekがモバイルPOS企業Mokaと買収交渉 消費者行動データの全量的把握目指す

インドネシアのGo-JekはMoka POSという販売情報管理スタートアップと買収交渉を進めている(2019年12月現在、交渉は最終段階に達している)。Moka POSはインドネシアの中小企業向けにモバイルPOS(Point-of-Sale: 販売時点情報管理)テクノロジーを構築。全国のブティックやレストランにMokaの決済端末がある。

Moka POSはインドネシア版「Square」である。商店主はMokaを導入すると、専用端末とタブレット等を接続することでレジスターとなり、クラウドのPOSシステムが提供される。それだけではなくMoka Cpaitalという事業ではクラウド上で集計された販売情報を分析し、商店主へのローンなどを提供する。

Square, by Blake Wisz on Unsplash

2014年に設立されたMokaは、インドネシアのフィンテックの最初期の参入者の1つであり、初期投資家であるイーストベンチャーズや「ユニコーンメーカー」のセコイアキャピタルを含む投資家からこれまでに4,000万ドル近く調達している。MokaとGojekは地域の主要な投資家であるセコイア・インディアのポートフォリオであるという共通点をもっているのだ。

Mokaはその支払いエコシステムで実際にGojekのデジタルウォレットGo-Payと提携している。Mokaはこれまで独立したプラットフォームであり、Ovo(Grabが使用するウォレット)やDanaやLinkAja、その他のモバイルウォレットなど、Go-Payのライバルと見なされる他の多くの企業からのデジタル支払いも受け入れている。 さらに、Moka POSは、KredivoとAkulakuが提供するクレジットカードも受け入れている。

背景: デジタルウォレット競争

Go-Jekが行った買収の一連の流れを追いかけてみよう。Go-Jekは2016年にMVCommerceを買収した。MVCommerceは、Go-Payウォレットの基礎となる「電子マネーライセンス」を取得する戦略的な動きだった。 Go-Jekは2017年にMidtrans、Kartuku、およびMapanを買収した。これらはインドネシアの決済会社で、それぞれが異なるセグメントに対応していた。

Mokaはインドネシアの200の都市にいる18,000の商人に利用されており、前述の通り様々なペイメント機能との接続性や貸金業などモバイルPOSを超える役割を持っている。これがOvo等と厳しいたたき合いをしているGo-Payにとっては重要なピースと考えられる。

東南アジアではデジタルウォレットの覇権をめぐる激しい競争が起きている。最大市場のインドネシアでは、デジタル取引は決済の2%程度の占有率に過ぎないが、OvoやGo-Payのようなマーケットリーダー候補が登場している。

2017年時点での野村の予測では、モバイル決済の総取引額は、2027年には1兆910億ドルに達すると予想されており、これは10年間で毎年25%の増加を意味している。ASEANにおける現在のモバイルペイメントの普及率はわずか7%に過ぎず、これは2027年までに約27%(1億6700万ユーザー)まで増加すると予測されている。(詳しくはこちらの記事)。

この文脈の中でインドネシアではGo−JekのGo-PayとGrabが支援するOvo等の競争が激化している。マーチャントにモバイルPOSを普及させることで、自らの支払いの受け入れ店舗を拡大していくとともに、ライバルのプラットフォームの利用を閉め出すような経営戦略の選択肢が存在する。

背景: スーパーアプリ戦争

さらにGo-JekとGrabはスーパーアプリの座をめぐる戦争をしている。ひとつのアプリケーションの中に多数の機能を包含し、それを単一のアプリというUX(ユーザー体験)で表現するものだ。

最も知名度の高いスーパーアプリ(Super App)である「WeChat」(中国国内では微信=Weixinと呼ばれる)は本土中国を中心に3月末時点の数字は11億1170万人のユーザーをもつようになっている。WeChatでは、従来のメッセージング機能に加え、フードデリバリー、映画鑑賞チケットや航空券の購入、ゲーム、ニュースの配信、書籍の検索、フィットネスデータのトラッキングなどの機能を、他のネイティブアプリをダウンロードすることなく利用できる。(詳しくはこちらの記事)。

WeChatはメッセージングからこのような機能拡張を行ったが、Go-JekとGrabは配車からデジタルウォレット、食品配達等、事業レンジを広げているのが興味深い点だ。

推定: 戦略地点の確保

また長期的に見るとPOSは非常に戦略手的な地点になりやすいことにもふれておきたい。

POSとは個々の商品がいつ、いくらで、何個売れたか、という情報を収集し、管理すること。店舗にあるPOSレジスタを通じて商品の販売時間や購入者性別、年齢層、販売数などをリアルタイムに集計し、在庫状況や時間別売上傾向、人気商品や不人気商品を把握するもの。企業が市場調査を行う時にPOSは重要なものであり、マーケティングには欠かせない存在となっている。

インターネット企業から見たとき、POSはオフラインの購買を可視化する策である。デジタルウォレット運営者にはトランザクションのデータは貯まるが、そのトランザクションの主体はわかるが、売買された物品のデータは基本的に手に入りずらい(推測が効くケースが一部にある)。

例えば、米国にはオラクル傘下のデータロジックス(Datalogix)という企業がある。Datalogixは2兆ドルを超える個人消費に関する集計と洞察を提供している。Facebook、Twitter等の属性・行動データと購買情報の照合により、カスタマージャーニーの解像度が著しく上昇し、ターゲティングの精度が向上する。(ただし、プライバシーには配慮しないといけないし、このような技術の悪用は極めて危険であることには留意しないといけない)。

あるいは、POSデータは新しい経済指標を生み出すためにとても有用だと考えられている。日本の内閣府でも、POSデータの価格情報を利用し、小売価格と小売店の販売動向や消費者マインド、景気循環との関係性を分析することが検討されている。現行の調査方法が調査票手入力である一方、POSデータにはマニュアルの作業が存在しない。経済統計を速報化できる。加えて、速報化された統計のおかげで施策自体のリアルタイム性も高まってくるのではないか、と考えられている。

POSシステムのクラウド化、得られるデータと洞察の共通化を行えば、経済自体の底上げも可能になってくるはずだ。

Image via Moka Pos