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スーパーアプリ WeChatが生んだ機能統合型プラットフォーム戦略

スーパーアプリは、日常生活のあらゆる潜在需要をひとつのアプリで満たしてしまおうという発想を具体化したもの。WeChatでは、従来のメッセージング機能に加え、フードデリバリー、映画鑑賞チケットや航空券の購入、ゲーム、ニュースの配信、書籍の検索、フィットネスデータのトラッキングなどの機能を、他のネイティブアプリをダウンロードすることなく利用できる。

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何かをするたびに、いくつもアプリを開くなんて煩わしい。そう思っているスマホユーザーは少なくないはず。このある種盲点とも言える潜在需要をひとつのアプリで満たしてしまおう、という発想を具体化したのが〝スーパーアプリ〟で、そのモデルを構築したのが中国のテンセントの「WeChat」(中国国内では微信=Weixinと呼ばれる)だ。

日常生活のあらゆる場面に登場する統合的なひとつのアプリは、中国国内で欠かせない生活インフラになった。このモデルを東南アジアに持ち込もうとしているのが、今やデカコーン(企業評価額が時価100億ドル以上)となった東南アジアのライドシェアリングサービスのGrabGojekで、スーパーアプリ化に向けて域内での横展開に精を出している。

スーパーアプリ(Super App)という名称は、2015年ごろからデジタルの世界を賑わせるようになったとされる。WeChatでは、従来のメッセージング機能に加え、フードデリバリー、映画鑑賞チケットや航空券の購入、ゲーム、ニュースの配信、書籍の検索、フィットネスデータのトラッキングなどの機能を、他のネイティブアプリをダウンロードすることなく利用できる。別々のアプリを開く手間を省き、支払いは独自の電子決済「WeChat Pay」(2013年8月に実装)に集約した。

WeChatは、テンセントの広州プロジェクト研究センターが2010年10月に開発し始めた。2011年1月にシンプルなテキストと写真のメッセージングアプリとして国内公式ローンチ。その後、ボイスメッセージやタイムラインとしてのモーメンツ、ストーリーのようなショートムービーという、現在の他メッセージングアプリにおおよそ備わった機能を追加しながらユーザー数を増やしていった。

開発当初はChina MobileのSMSアプリのFeixinやXaomiのMiTalkが席巻していたが、特にボイスメッセージ機能を実装した時は、タイピングを煩わしく思っていたビジネスマンに受け、DAUが1万人から6万人に急増した。

2012年に世界展開後、順調に拡大し2018年2月にMAU10億人を達成。今年3月末時点の数字は11億1170万人(テンセントの2019第一四半期連結決算より, https://www.tencent.com/en-us/articles/8003551557911908.pdf)。ただ、全世界で23億人超のユーザーを誇るフェイスブックと比べ、WeChatのユーザーのほとんどが中国国内にいるとされ、現に中国メディアは国内のMAUが10億人超と頻繁に記載している。2013年8月には、国外の登録者数が1億人に達到したとアナウンスしている。

”アプリオンアプリ”の「ミニプログラム」登場

スーパーアプリがWeChatとイコールで結ばれる契機となったのが、2017年1月に実装された「ミニプログラム(mini program=小程序)」だ。先に述べた複数のサービスは、全てこのミニプログラムによってユーザーに提供されている。

中国国外のプレーヤーにWeChatでのソリューションを提供するWalktheChatによれば、ミニプログラムはWeChatのエコシステム内でのみ稼働する〝サブ・アプリ(sub-applications)〟という位置付け。例えば、eコマースで中国最大手のJD.comがミニプログラムを開発してWechatに組み込むことで、ネット通販がWeChat内で可能になった。

デメリットとして5点を挙げている。それは①プッシュ通知ができない②モーメンツにシェアできない③テンセント独自言語でしか組めない④ミニプログラムの更新にはテンセントの承認が要る⑤WeChat内でしか稼働しない--だが、このモデルがあればネイティブアプリを自身の端末にダウンロードする必要がなくなるという唯一無二のメリットがあるため、発表当時、スマホの二大プラットフォーマーであるApple、Googleが戦々恐々とした話は有名だ。

この革新はスマホユーザーの行動をどう変えるのか。スーパーアプリが登場する前の、何の変哲もない休日の様子を例に挙げてみよう。

月曜日、次の土曜日に新しい映画を観に行こうと友人と約束した。早速、鑑賞チケットを押さえようとシネコンチェーンが作っているアプリかチケット販売会社のアプリを立ち上げて予約。受け取りはコンビニで現金払い後に済ませた。

そして当日、映画を観終わって感想を言い合いながらご飯を食べようと、目当ての店に向かうがハッピーアワーで混雑し1時間待ち。自宅が近かったので、家飲みにしようということになり、コンビニで酒類を現金で買う。話題のウーバーイーツ(支払いはデビットカード)で頼んだ餃子が家に届くと、映画の感想話で盛り上がり、ロケ地巡りをしようという流れになった。そのまま旅行アプリを開いて航空券とホテルを押さえ、クレジットカードで支払いも済ませた。

ここでは映画チケット予約、フードデリバリー、旅行予約の3つのアプリが登場する。支払いもそれぞれ現金、クレジット、デビットと3種類。しかし、Wechatのミニプログラムを開いてこれらに対応したサービスを利用することで、繰り返しになるが、このアプリひとつで事足りるのである。

さらに、WeChatはユーザーをオフライン状態からミニプログラムに導いている。その原動力がQRコード。ビルトインのリーダーで街中に設置された(別の言葉で言えば提携サービス店舗が設置した)QRコードを読み取り、前述のWeChat Payで決済できる。食べ歩き中にふらっと立ち寄った店での支払いやシェア自転車のキーロックなど、様々なシーンで利用できるのだ。

上昇するミニプログラム利用率

中国のモバイルネットビジネス調査会社QuestMobileのレポートによれば、ミニプログラムのMAUは2018年1月に4億人を突破。この前年末に公開されたゲームのミニプログラム「跳一跳」(Tiao Yi Tiao)の爆発的ヒットにより、約2億人から倍増した。これにより、ミニプログラムの利用率は当時、ユーザーの半数以上に当たる51.9%に一挙に拡大、市民権を得た。さらに今年6月27日、WeChatのメディアカンファレンスで、その急速な発展度合いが示された。

今年6月時点でのミニプログラムのサービス業者数は8200、プログラム数は63万に到達。実装からわずか2年半での数字としては驚異的だ。もちろん既存プレーヤーが提供するアプリとの重複を考慮する必要はあるが、AndroidとAppleにも同じことが言えるので割愛しておこう。ちなみにそれぞれのアプリ総数は、5月時点でGoogle Play Storeは210万、Apple App Storeは180万(独調査会社Statistaより)。規模としてはすでにWindows Storeに肉薄している。

スマートフォン黎明期に比べ、最近ではあまり気にしなても問題はなくなったが、ミニプログラムの登場が端末ストレージの節約に一役買っていることは言うまでもない。特にゲームは内部容量を気にせず、ウェブ上で起動するため多くの支持を得ている。先のQuestMobileのレポートによれば、2018年3月時点のミニプログラムの用途に見れば、ゲームが28%で最大。ライフサービス(生活服务、いわゆるサービス産業系)が13%、ショッピングが12%、観光が9%、実用ツール8%、資産運用・財テク7%と続く。

当時、ゲーム分野の累計アクティブユーザー数で首位は「跳一跳」の3億8914万。IQサプリのような頭脳クイズの「成语猜(※正しくはけものへんに青)猜看」が1億4703万で2位。対戦クイズの「头脑王者」が1億3341万で3位。それ以下は、トランプゲーム「欢乐斗地主(日本語で闘地主と呼ばれる)」1億1285万、文字パズルゲーム「成语消消看」8304万。

ミニプログラム「跳一跳(テャオイーテャオ)」の画面。プレイヤーはタップ時間の長さで、ジャンプできる距離を調整して、ブロックを飛び越えていくゲーム。飛び越えた数だけ加点される、ちょっとした隙間時間にでもすぐに遊べるゲーム。

ライフサービス分野の累計アクティブユーザー数は、デリバリー需要がある「肯德基(ケンタッキー)+」が7271万で首位。次点は、旅行予約やグルメ情報などをてんこ盛りした「美团丨外卖美食电影酒店门票健身」で4917万。映画鑑賞予約に特化した「电影演出票儿」が4617万で3位。口コミサイトの「大众点评(dianpiang)」が3079万の4位。スターバックスは万国共通で、友人にQRコードでコーヒーをプレゼントできる「星巴克用星说(SAY IT WITH STARBACKS)」が僅差の3077万で5位。

3年で上場を果たし、上場後も年間2倍近くの驚異的なスピードで成長するPinduoduoはWeChatのミニプログラムから大量のユーザーを獲得する。

往年のビジネスデバイス、コミュニケーションツールとしてその名を轟かせたBlackberry。その創業者Mike Lararidisは2010年、こういった言葉を残している。「スーパーアプリは傘となるアプリの内にあるたくさんのアプリ。それはアプリの支配から解放するOSのこと。それこそがモバイル第1世代にとってのインターネット世界への入り口となる」(A Super App is many apps within an umbrella app. It’s an OS that unbundles the tyranny of apps. It’s the portal to the Internet for a mobile-first generation.)

スマホの登場で、パソコンを持たない人が増えた。人々の日常に密着したミニプログラムの登場が流れをさらに加速させているのは間違いないようだ。東南アジアのGrabとGojekは旅客輸送サービスから歴史をスタートさせており、WeChatとは違った毛色の発展を遂げている。次の記事で詳しく触れていきたい。

Image via "WeChat for Windows Phone"by Young Lynn is licensed under CC BY-NC 4.0

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本記事は富裕国を飛躍(リープフロッグ)する東南アジアのデジタル経済の「攻略本」となる『【特集】東南アジア デジタル経済 攻略』 の連載のひとつです。特集のトップページはこちらです。

【連載目次】

  1. 『6億経済圏のデジタル変革 東南アジアのデジタルエコノミー』
  2. 『GO-JEK VS GRAB 1兆円スーパーアプリの決戦 テック経済レビュー』
  3. 『スーパーアプリとは?WECHATが編み出した最強のモバイルファースト戦略』
  4. 『大競争時代の到来:東南アジアのデジタルウォレット テック経済レビュー#10』
  5. インドネシア デジタル決済: 中国モデルの「移植実験」
  6. 『東南アジアEコマース帝国の台頭』

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参照文献

  1. How WeChat became China’s everyday mobile app
  2. What is a ‘Super App’?
  3. What are WeChat Mini-Programs? A Simple Introduction
  4. WeChat Mini Program Part I: What Is It and Why Is It Significant?
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Editorial

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