インドでフィンテックの帝王が誕生

要点

中国のアントグループが解体・国営化に向かう中、インドから次のフィンテックの帝王となる新興企業PhonePeが台頭している。PhonePeが生まれる基礎を作ったインド政府の政策は先見性があり、称賛されるべきものだ。


ウォルマートが支援するPhonePeは、2020年12月以降、Unified Payments Interface(UPI)の支払いを採用する業界のリーダーだが、8月にはBharat Bill Payment System(BBPS)チャネルにおいて全顧客取引の約半分を支配した。

UPIは店頭でのQRコード決済と電子商取引を可能にするインド決済公社(NPCI)が運用する公的なプラットフォームである。詳しい説明は以下のレポートですでに行っている。

UPI インド政府主導のデジタル決済共通基盤
UPI は、政府主導の多くのデジタル決済製品が相互運用可能なリアルタイム・モバイル・ペイメントを提供するためのソリューション。決済サービスプロバイダーがインド決済公社のサービス群を使用するためのインターフェイスであり、背後のシステムが銀行口座間取引を即時的に実行する。

2016年に開始されたUPIは、インドで最も人気のあるリテール決済チャネルとして浮上し、Paytmのような独自規格で先行したプレイヤーを脇に追いやった。NPCIの資料によると、UPIが8月に処理した取引件数は35億5,000万件(前月同期比9.56%増)、取引金額は6兆3,921億6,000万ルピー(前月同期比5.4%増)と急速な成長を継続している。

今年初め、PhonePeはUPIトランザクションの45%のシェアを獲得する過程で、Google Payを追い抜いている。PhonePeは、8月に16億2,295万件、3兆164億4,800万ルピーの取引を記録し、取引額ベースで市場シェア47.1%を握っている。これに対し、Google Payは12億3,475万件、2兆4,445億3,050万ルピーを記録し、取引額ベースで市場シェア38%だ。

この統計はUPIにおける取引のみを対象としており、引き離されつつある業界3位Paytm等の独自決済部分は含まないものの、インドのデジタル決済は政策的支援を受けるUPIが支配的となっている。

(ちなみに日本首位のPayPayは2020年通年で決済回数20億回、取引額は3.2兆円。インド勢の1月分以下の水準。このためB2Bのサービスで赤字補てんを図ろうとしているようだ)

これに対し、BBPSは電気、通信、DTH、ケーブル、ガス、水道、市税、学費、集合住宅の管理費、病院の請求書、EMI、定期預金、保険料など、さまざまな種類の定期的な支払いを可能にするものだ。

つまり、PhonePeはインドのデジタル決済の全域で支配的な地位を確保したということだ。2016年に政府が高額紙幣を無効化したことや、インドの市中銀行がアプリ間の相互運用性を提供するUPIとの統合を構築したことなどが後押しとなり、過去5年間で1億人以上のインド人がデジタル取引を始めている。

そして、13億人のインドの市場ポテンシャルは想像を絶するものだ。全世界でリアルタイム決済を提供する米ACI Worldwideの報告書によると、デジタル決済は今後数年間で急速に成長し、2025年にはインドにおける全決済の71.7%を占めるようになるという驚愕の予測がなされている。

報告書によると、2020年のリアルタイム決済件数は、中国の157億件に対し、インドは255億件と、件数ベースではすでに中国を上回っている。

また、経済規模も急速に拡大している。2020年にパンデミックの影響で世界第5位から6位へと押し戻されたインドは、2025年には再び英国を抜いて第5位となり、2030年には日本を追い越して第3位になると、英シンクタンクCentre for Economics and Business Research(CEBR)は予測している。

さらにインドのフィンテックは政策的な成功の恩恵を享受している。インドでは、政府、規制当局、銀行、フィンテックの間で協力関係が築かれており、金融包摂の実現という目標を前進させるとともに、市民に迅速な決済のデジタル化を提供している。

決済データを部分的に公開

最近もPhonePeの面白い試みが発表されている。同社は9月初旬にデジタル決済に関するデータ、インサイト、トレンドを掲載したインド初のインタラクティブなウェブサイト「PhonePe Pulse」の開設を発表した。

Pulseは、PhonePeが過去5年間に処理した約220億件の取引を、検索可能なさまざまな形式で表示。データはユーザーのプライバシーを保護するために匿名化され、データベースは四半期ごとに更新される。

決済データを3Dで可視化するPulse. Image by PhonePe Pulse.

PhonePeはアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)を通じてビジネス開発者がPulseを利用できるようにし、トレンドの追跡や特定のユースケースの検討に役立てるという。

PhonePeの共同創業者で最高経営責任者のSameer Nigamは、バーチャルカンファレンスで、PhonePeはAPIを通じて、学術関係者、アナリスト、政府、政策立案者、規制機関などのプレーヤーが無料で利用できるようにもしていると述べた

コメント

インド政府は非常にしたたかに中国でのデジタル決済の先行例を調べ、それをより洗練化され、適合する形で自国にもたらす手段を講じている。

UPIやBBPSの設計は、決済や金融、データにおける広範な独占という中国がいま直面している問題をすでに解いている。

そして、インド中銀は中央銀行デジタル通貨(CBDC)へとさらなる進化を望んでいる。

デジタルルピーの明るい未来
要点インドがデジタルルピー開発へと舵を切った。モバイル決済では中国の先例を活かし、政府が運営する決済基盤の導入で少額決済の手数料をタダにした。中央銀行デジタル通貨(CBDC)でも中国とは一味違うアプローチを見せるか。 中央銀行のインド準備銀行(RBI)は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の「段階的な導入戦略」に向けて取り組んでいると、RBIのT・ラビ・サンカー副総裁が7月下旬、明らかにした。近い将来、汎用デジタル通貨のパイロット運用が行われる可能性があるという。 インドはこれまで、①高額紙幣を廃止②国内決済業者を公的決済基盤「UPI」へ誘導③モバイル決済利用者の急増、のプロセスで人々に電子的な…

現状、ここまでうまくやった国はなく、称賛されるべきものだ。

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