インドのスマホ・エコシステム、「第2の中国」の様相

インド規制当局はGoogleとAppleのモバイルOSを通じた支配力を緩和し、スーパーアプリの成立を支援している。代替OSも登場した。「第2の中国」の様相である。


インドの裁判所は先月、独占禁止法違反の罰則に対して異議を唱えるGoogleの訴えを退けた。判決によって、インド競争委員会(CCI)が昨年Googleに対して宣告した命令が確定した。確定した命令は以下の通り。

  • サードパーティのアプリストアの許可
  • アプリのサイドローディングを許可
  • 端末のセットアップ時に、Google以外のデフォルトの検索エンジンを選択を許可
  • Android端末へのGoogleアプリのプリインストールを義務付けないこと
  • 携帯電話機メーカーへの支払いを停止
  • Androidのフォークで動作するアプリケーションを構築する開発者がAndroidのAPIにアクセスすることを拒否せず、そのようなフォークを許可すること

CCIは昨年、GoogleがAndroidモバイル端末のエコシステムとPlayストアの運営において支配的な地位を乱用したとして命令を宣告した。Googleは今年の1月初め、この判決を不服として、インドの全国会社法上訴裁判所(NCLAT)に罰則の停止を求めていたが棄却された。最高裁も訴えを棄却したため、命令が確定した。

これを受けてGoogleは1月下旬に判決にそぐう形にビジネス方針を変更すると発表した。これは、ほぼインドの携帯電話の96%を占めるAndroidにおいて、Googleの支配力が抑えられ、アプリベンダーがエコシステムの中で影響力を強める中国型の発展を遂げていく路線に乗ったことを意味する。

中国型のアプリエコノミーの大きな特徴は、スーパーアプリに代表される。WeChat Pay(微信包銭)には、各種のAPIを使って作られたミニプログラムと呼ばれる無数の下位アプリケーションがあり、WeChat Payがアプリストアの地位を獲得している。

欧米圏や日本でも、このOSプロバイダーの利権を交わすスーパーアプリの構築が試みられてきた。しかし、規制当局が中国やインドのようにスーパーアプリの成立に好意的ではない限り、アプリストアの規約が壁となる。

最新の挑戦者はイーロン・マスクで、Twitterの買収完了前からスーパーアプリを作る方針を明らかにしてきたが、Appleのティム・クックと会談してから、マスクがスーパーアプリについて触れることはぱったりとなくなった。エピックゲームズが人気ゲーム「フォートナイト」にApp Storeの決済を迂回する独自決済を実装した途端にApp Storeから排除されたようなことが、「Twitterにも起こる」と釘を刺されたのかもしれない。

WeChat Payを運営するテンセントも、Appleからミニプログラム内で発生するトランザクションへの取り分を主張され、係争が続いていた。最終的にAppleが折れる形で和解したのは、中国の司法制度というホームのアドバンテージがあったからだろう。テンセントは、AppStoreやGoogle Play Storeの規約の壁に挑戦し続けているエピックゲームズの筆頭株主である。

インドは、今回の最高裁の判断によって、間違いなく中国と同じシナリオに入ったと考えていいだろう。

インドにはWeChatPayを模倣したスーパーアプリがすでにたくさんある。同国最大級のECプレイヤーであるFlipkartのデジタル決済サービスPhonePeは、AliPayとWeChatPayを融合させたようなスーパーアプリ路線を進んでいる。

印デジタル決済企業PhonePeがスーパーアプリとして躍進
Paytmは中国の先行例を見本としたスーパーアプリ戦略を推進している。デジタル銀行として支払い、投資信託、リボ払い、ローンなどの金融サービスを提供するほか、ゲーム、チケット予約にも触手を伸ばしている。

石油や自動車のような産業で成長した財閥が、この領域に参入にしているのがインドの特徴である。自動車、製鉄、電力、ITアウトソーシングで有名なタタグループは、食料品配送、EC、ホテル予約、航空券予約を含むTata Neuをリリース。

石油、重化学、通信、小売で有名なリライアンス・インダストリーズは、EC、音楽ストリーミング、映画ストリーミング、保険を含むMy Jioを展開している。

工夫が凝らさえれているのが、スーパーアプリの中核的機能であるモバイル決済であり、インド政府が展開する決済基盤UPIをベースにしている。中国では、AlipayとWeChatPayが市場を支配し、国家の通貨発行権を脅かすほどのレベルまで発展し、最終的には政府が規制とデジタル人民元で両者を抑え込もうとする事態になった。インドも中国同様、政府の性質は権威主義的で、似たような事が起きる可能性は否定できないだろう。

そもそもモバイルOSを取り替えてしまおうという試みまた、中国とインドに共通する。中国の「国営企業」であるファーウェイがHarmonyOSをリリースしたのは、トランプ政権による貿易戦争が激化する中だった。先月下旬、インド工科大学マドラス校(IIT Madras)のインキュベーションプロジェクトが「BharOS」を発表した。財閥のリライアンス・インダストリーズの通信会社は独自OSである「KaiOS」を載せたスマートフィーチャーフォン通信契約とバンドルで販売している。