印デジタル決済企業PhonePeがスーパーアプリとして躍進

Paytmは中国の先行例を見本としたスーパーアプリ戦略を推進している。デジタル銀行として支払い、投資信託、リボ払い、ローンなどの金融サービスを提供するほか、ゲーム、チケット予約にも触手を伸ばしている。

印デジタル決済企業PhonePeがスーパーアプリとして躍進

ここ数ヶ月間、PhonePeは最大10億ドルの資金調達ラウンドに向けて投資家との協議を行っていると報道されています。報道によると、3人の元Flipkart幹部によって設立された同社の企業価値は、80億ドルと120億ドルの間と算定されているようです。この水準が確定すると、PhonePeはPaytmに次いで価値のあるデジタル決済のユニコーンになります。

しかし、2018年にFlipkartの77%の株式を購入するために160億ドルを支払ったウォルマートが要求する企業価値を巡って、昨年春頃から取り沙汰されていた交渉は長期化しています。Flipkartの子会社PhonePeだけで100億ドルの価値があるとすれば、ウォルマートは、驚嘆すべきお値打ち品を買ったことになるからです。

投資銀行のMorgan Stanleyは、昨年9月、「ベースケース(基調的な場合)」のシナリオでPhonePeの価値を70億ドルに固定しました。この評価は、多くの仮定に基づいています。前提の1つは、Flipkartがeコマース市場で50%のシェアを保持し、モバイルトランザクションの65%がPhonePeで処理される、ということです。PhonePeは、Flipkartトランザクションを除くペイメントビジネスの(UPIの総支払いの約40%のシェアを占めていた)22%を獲得する必要があります。これらが達成されていれば、PhonePeは決済事業から5000万ドルの収入を得るはずです(総収入は昨年約2900万ドルでした)。

さらに、Morgan Stanleyは、70億ドルの企業評価を保持するために、PhonePeは金融サービスの流通から3億5,000万ドル、消費者融資から10億ドルを稼ぐ必要があると想定しています。 しかし、PhonePeはまだ融資を開始していません。より広範な金融サービスプラットフォームになるための最初のステップの1つとして、投資信託の直接販売を開始しました。

全体として、収益に関する重要な仮定に関しては、PhonePeは不十分です。 つまり、この「ベースケース」は実際には適用できない可能性があります。

11月、PhonePeは2019年に4回目の資金調達をFlipkartから受け、約25億ドルの評価で8250万ドルを調達しました。それ以前の資金調達ラウンドでは、同社の企業価値は15億5,000万ドル(9月)と10億3000万ドル(2月)でした。したがって、FlipkartがPhonePeの企業価値を20億ドル未満で評価しているのにもかかわらず、外部投資家に会社を5倍の価値で評価すべきだと納得させようとしています。このため、ゲームは非常に難しくなっているのです。

Paytmのベンチマーク

インドにおけるデジタル決済の申し子であるPaytmは、2019年11月に発表された最後の資金調達ラウンドで160億ドルと評価されました。Paytmの収益は300億ルピー(約4億ドル)であるのに対し、PhonePeの収益は20億ルピー(約2600万ドル)にすぎません。収益マルチプルを基準にすると、PhonePeは10億ドル強と評価されなければならないでしょう。

Paytmはスーパーアプリに舵を切っています。すでにデジタル銀行として、投資信託、ローンなどの金融サービスを提供するほか、ゲーム、チケット予約にも拡大しています。PhonePeが示しているのは、トランザクションの着実な増加と収益の大幅な増加であり、デジタル決済市場におけるリーダーシップを発揮する可能性です。インド決済公社(NPCI)による政府の決済基盤 Unified Payments Interface(UPI) を活用した決済アプリのレースをリードしており、Google Payとの激しい競争のさなかにあります。

PhonePeは12月にUPIで5億件以上のトランザクションを記録しました。この数は、11月に4億1,000万、8月に3億4,000万に近く、目覚ましい成長率を示しています。同社自体は、QRコード支払いのための小規模小売商のユーザーベースを急速に拡大した、と主張しているのです。

インドのデジタル決済市場は、当初は、アリババが株式の半数を保持するPaytmがその技術供与のおかげで、独自の決済網を拡大し、大きなリードを奪っていました。それが、決済システムの構築と運営のインフラを政府が提供することを意味するUPIが登場し、そのUPI基盤上にシステムを構築したPhonePeとGoogle Payがその新しい大陸の2強に躍り出たのです。

市場には大きな可能性があります。 Credit Suisse Group AGによると、インドのデジタル決済は、2023年までに約2,000億ドルから1兆ドルに達すると予測されています。PhonePeはこの追い風のおかげでPaytmをしのぐ規模まで拡大できると確信しており、それを企業価値の源泉のひとつとみているのでしょう。Morgan Stanleyの描いた「ブルケース(強気の場合)」では、企業価値は200億ドルと評価されているのです。

ウォルマートは、中国のTencent(Flipkart、Ola、Swiggyの支援者)をPhonePeの主な投資家として利用しようとしている、と長い間、取り沙汰されてきました。

Tencentは事実上インサイダーです。なぜなら、TencentはFlipkartの約5%の株式を所有しており、取締役会の席を持っています。また、TencentにはPhonePeに投資するインセンティブがあるように映ります。PhonePeへの大きな投資でAlibaba(Paytmの支援者)、Google(Google Pay)、Facebook(WhatsApp Pay)が重要な一角を占めようとしているデジタル決済市場に、同社も深く関与できるようになるからです。はたして、どの企業価値でステークホルダーが合意に至るのか、PhonePe自体は8000万ドル程度の資金注入で数ヶ月の運営に問題はない状態なため、時間が解決するのかもしれません。

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