IPOとVCエグジットが空前絶後のブーム

要点

ベンチャーキャピタル業界は、2021年の9ヵ月間で2020年の2倍以上のエグジットを達成。IPOの件数、調達額もすでに過去最高に達している。ベンチャー投資とIPOがサイクルがまれに見る成功を収めている。


スタートアップ業界リサーチ会社Pitchbookによると、第3四半期のエグジット総額は1,870億ドルに達し、2021年のエグジット総額は5,820億ドルを超え、2020年の過去最高額の2倍以上となった。

メガラウンド(1億ドル以上)の爆発的な増加により、ディール金額が490億ドル以上となり、年間総額が2020年通年の2,380億ドルを大幅に超えた。

第三四半期だけで161のファンドが資金調達をクローズし、出口価格の高さとディールサイズの拡大により、ベンチャーキャピタルの資金調達は、かつて不可能とされた 1,000億ドルの大台を突破するペースで進んでいる。

新興企業の隆盛は別の情報源でも裏付けられている。The Informationが引用したDealogicのデータによると、今年はこれまでに104のテクノロジー企業が新規株式公開(IPO)を行っており、これは2000年以降のどの年よりも多いという。

また、今年のIPOは、Dealogicが記録を取り始めた少なくとも1995年までのどの年よりも多くの資金を調達している。今年のIPOの資金調達額は、Dealogicが記録を取り始めた少なくとも1995年までのどの年よりも多くなっているという。この数字には、直接上場した企業や特別目的買収会社(SPAC)と合併した企業は含まれていない。

ロイターが引用したDealogicのデータによると、SPAC合併を含めると、今年の米国のIPO件数(SPAC合併上場含む)は777件、上場を通じて調達された金額は2,492億2,000万ドル(28兆2,881億円)に達しているという。

全世界にスコープを広げても状況は一緒だ。ロイターが引用したRefinitivのデータによると、 9月末までに2,000件以上の新規株式公開が行われ、その調達総額は4,210億ドルに達し、過去最高を記録した。これは昨年の同時期の調達額の2倍以上にあたる。

最近は、ベンチャーキャピタルやその他のインサイダーがエグジットするための手法が洗練化されている。

通常、株式の売却を開始するためには、上場後6カ月間待たなければならないが、直接上場(ダイレクトリスティング)の場合は売却に制限はない。また、ネット証券会社のRobinhoodは通常のガードレールをいくつか緩和し、従業員が保有する株式の15%を直ちに売却できるようにすらした。Robinhoodはスマートフォンアプリで個人投資家が非常に簡単な操作で同社の公募に参加できるようにもした。

IPOの衰退と直接上場の台頭
直接上場は米国のテクノロジー企業が高い注目を示す手法だ。プライベート市場の発達が、公開市場に対して影響力を及ぼしている。未上場企業にはベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティのような資金調達ソースが豊富にあり、上場に拘る必要性は低下している。

米国・世界ではテック新興企業のIPOとベンチャー投資が花盛りだ。そしてその主要な出口は米国の株式市場であり続けている。

未曾有のベンチャー投資ブーム
世界中がバブルに踊っている―ただし日本はのけものだ。

夏の初めにソフトバンクビジョンファンドが筆頭株主のDidi Global(滴滴出行)の強行上場以降、北京の機嫌が悪くなり、中国企業の米上場は潰えてしまったが、それでも世界中のテクノロジー企業の最上級の選択肢は米株式市場だ。

中国企業の米上場は瀕死
中国テクノロジー企業とウォール街の蜜月が終焉に向かう

高バリュエーションを求めて公開市場へ

未公開企業が上場企業の高額なバリュエーションを獲得するために殺到しているという。

今のところIPOは報われるようにできている。Dealogicによると、過去4週間に公開された米国企業の株式は平均で25.5%上昇しており、約4ヵ月前に今回公開された企業の株式は42%上昇している。

例えば、10月初旬、米国のパーソナルファイナンス企業NerdWalletがIPOを申請した。NerdWalletが注目に値するのは、設立から12年の会社でありながら、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達が比較的少なかったことだ。

つまり、NerdWalletはVCの出口戦略のために上場する必要がなかった。「同社がウォール街に行くことを決めたのは、事業拡大への意欲もあったかもしれないが、それ以上に、高いバリュエーションの魅力が大きかった可能性が高い。

ロイターによると、NerdWalletは、過去12カ月間の収益の17倍にあたる、最大50億ドルの企業価値を求めている。これは、ほぼ同様の事業を展開するCredit Karmaが、昨年初めに収益の約7倍で売却されたことと比較するととても高い。

あまりにも多くの資金が飛び交っているため、非公開で満足していた企業でさえ、株式公開や売却に向けて動き出している。公開市場の投資家にとって、これは警告のサインかもしれない。

創業者が断れないほど豪華なオファーを受けたために株式公開を決意した成熟した企業に最高額を支払ったときのリターンはどうなるのだろうか。