中国企業の米上場は瀕死

中国テクノロジー企業とウォール街の蜜月が終焉に向かう

中国企業の米上場は瀕死
"CEU Business School NASDAQ Prezi Event June 2014"by WeAreCEU is licensed under CC BY-NC-ND 2.0

要点

中国企業の米上場は瀕死だ。両国の規制当局は着実に包囲網を狭めている。中国企業はオフショア企業を通じ大量の資本を米証券市場から調達してきたが、蜜月は終わろうとしている。


中国政府は、消費者の機密データを大量に保有する企業の米国での上場を禁止する新規則を提案する予定であると、WSJが関係者の談話を引用して報じた

報道によると、ここ数週間、中国の株式規制当局は、一部の企業や海外の投資家に対し、ユーザー関連データを大量に保有するインターネット企業が海外で上場することを禁止する新規則を伝えてきたという。規制当局は、この規則は国外で設立された企業を通じて海外での新規株式公開を目指す企業を対象としているという。

報道によると、中国証券監督管理委員会の関係者は、製薬業界など機密性の低いデータを保有する企業は、中国の規制当局から海外上場の承認を受ける可能性が高いと述べたという。

米中デカップリングは近年の世界的な潮流ではあるものの、この米上場の抜け穴を塞ぐ両国の動きを加速させたと考えられるのは、滴滴出行(Didi Gloal)の一件である。滴滴は政府から再三に渡り制止されていたにもかかわらず、中国共産党創立100年の祝賀式典前日に強行IPOを実行した。

規制当局は滴滴が収集した乗車データの扱いなどをサイバーセキュリティの観点で問題視し、IPOからまもない段階で滴滴に調査を行い、滴滴の米国預託証券(ADR)の価格が暴落した。この暴落を受けて、米国の滴滴の投資家は、当局の上場目論見書の内容が虚偽のものだったとして米各地で集団訴訟を提起している。

中国国家インターネット情報弁公室(CAC)は7月、サイバーセキュリティ審査の改訂版を起草し、少なくとも100万人のユーザーの個人データを保有する企業は、海外上場に先立ってこのような審査を申請しなければならないことを明確にした。これに対し、米国証券取引委員会(SEC)は、ニューヨークでの上場を目指す中国企業に対し、より高度の情報開示の要求を開始したと報じられた。

ここで言う国外で設立された企業は、変動持分事業体(VIE)構造を採用している。アリババ、滴滴、テンセントなどの中国の大手テクノロジー企業はVIEと呼ばれる構造を利用して外国資本を誘致し、海外で上場している。

オフショア特別目的事業体(SPV)、中国の事業体、外資独資企業(WFOE)は、一連の契約を締結することで、中国の事業体の経営成績をオフショアSPVの財務諸表に財務会計上連結することを可能にしている。

VIE構造は、実際の持分を保有することなく、中国本土の事業体に関連する権利および利益をオフショアSPVおよびその子会社に付与する試みであり、これにより、外国人投資家は、外国人の持分保有が制限または禁止されているにもかかわらず、中国の規制された分野に投資することができる。

省庁横断的な新しい委員会には、CSRC、中国のインターネット監視機関、その他の省庁からのメンバーが参加する予定だという。中国のサイバー空間管理局は、コメントを求められてもすぐには答えられなかった。

これは、配車大手の「滴滴出行(Didi)」など、最近海外に上場した中国企業に対するサイバーセキュリティ審査を発表したことを受けたものだ。

CSRCの関係者は、企業や海外投資家との最近の会合の中で、米国で株式を販売している中国企業に対する米国証券取引委員会の監視を強化する計画について、そのアプローチが強引であると不満を述べたという。中国政府関係者は、証券取引委員会の一部の行動が日米間の不信感を深めていると述べた。

また、中国側は、SECが監査書類の使用に関するいくつかの提案に回答しなかったことにも不満を漏らしたという。監査書類は、2つの規制当局間の議論の中心となっており、最近のDidiのデータ・セキュリティ調査のきっかけとなった。

先月、米国証券取引委員会(SEC)のゲーリー・ゲンスラー委員長は、IPOに先立つ規制当局への提出書類に署名する前に、中国企業から具体的な情報開示を求めるよう、SECスタッフに要請したと述べた。また、中国で大きな事業を展開している企業については、提出書類の審査を強化するよう求めた。

中国企業の米上場に高レベルの情報開示を要求
再開の呼び水か、封鎖の口実か

この新ルールが、すでにVIE構造で海外市場に上場している企業に影響を与えるかどうかは明らかではない。近年、北京とワシントンの間で緊張が高まっている中、検索エンジンを運営する百度(バイドゥ)など、ニューヨークに上場している中国企業の一部は、香港で二次上場を行っている。これは米上場が無効になる事態に備えていると言えるだろう。

7月下旬、中国共産党中央政治局は、習近平国家主席が議長を務める会議で、企業の海外上場を承認するシステムを改善し、「関連するリスクを防止し、解決する」と述べたと国営メディアが報じた。この報道では、さらなる詳細は明らかにされなかった。

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