アームのクアルコム提訴は不合理:対抗馬RISC-Vへの移行を早めるか

英半導体大手Armによる米半導体大手Qualcomm提訴は、Armアーキテクチャの市場シェアを拡大しようとするQualcommの試みを頓挫させる不合理な梯子外しだ。QualcommにはArmの対抗馬RISC-Vに投資するインセンティブが生まれた。


Armは先週、Armのプロセッサ設計とアーキテクチャの使用許諾に違反したとして、クアルコム(Qualcomm)とNuviaを相手取り、デラウェア州連邦地方裁判所に提訴したと発表した。

米テクノロジーメディアThe Vergeが取得し公開した訴状によると、Armの主張は、Qualcommによって買収される前に Nuviaが与えられたライセンスは、買収後のNuviaの下では有効ではないというものだ。

訴状で、Armは「QualcommとNuviaが関連するNuvia技術の使用を中止し、破壊すること」を望んでいる。つまり、Armの訴えが受け入れられた場合、Armのアーキテクチャと命令セットを基にNuviaの技術を使用してデスクトップおよびサーバーチップを作成するというQualcommの野望を大きく後退させることになる。

訴状によると、NuviaとQualcommの両社は、Armライセンスの中で最も高い階層である「アーキテクチャライセンス契約(ALA)」をArmと締結していた。多くの場合、これは「Cortex」ブランドを使用したArm製の「既製」CPU設計のライセンスとなる。しかし、Armの大口顧客の中には、Armの設計を利用するのではなく、ゼロから独自のArmチップを設計できるALAライセンスを持っている人がいる。Appleは、このライセンスを使って、ArmベースのカスタムSoCをすべて製造している。

訴状によると、 NuviaもQualcommもArmのカスタムチップを作るライセンスを持っていたが、Armは、サーバーグレードのプロセッサの開発作業に対して「実質的で重要、かつ個別のサポート」を買収前のNuviaに与えていたという。この後の買収によって、ライセンスの問題が発生した。

Armの不満は、NuviaのALAライセンスで行われた作業の範囲と移管についてだ。訴状では、「Nuviaのライセンス料とロイヤリティ率は、NuviaがArmアーキテクチャを利用する際に予想される範囲と性質を反映したものである。ライセンスは、想定される譲受人が独自のArmライセンスを持っているかどうかにかかわらず、Armの同意なしに譲渡することを禁止することで、Armの権利と期待を保護するものであった」と述べている。

NuviaはもともとサーバーCPUの会社だったが、Qualcommはそのミッションに加え、ラップトップ、スマートフォン、自動車、AR/VRヘッドセット向けのチップへと対象範囲を拡張した。

一方、QualcommはThe Vergeに対し、ゼネラルカウンセル(法務の最高責任者)のアン・チャップリンは、「Armには、契約上であれ何であれ、QualcommやNuviaのイノベーションを妨害しようとする権利はない」と述べている。「Armの苦情は、Qualcommがそのカスタム設計のCPUをカバーする広範で確立されたライセンス権を持っているという事実を無視しており、我々はそれらの権利が肯定されると確信しています」

提訴によって不利を拡大するArm

NuviaはAppleのSoC部門出身のリードエンジニアだったジェネラル・ウィリアムズが設立した。NuviaのCEOを経て現在はQualcommmのエンジニアリング担当シニア・バイス・プレジデントであるウィリアムズは、M1 SoCを含むAppleのチーフCPUアーキテクトを10年近く務めた人物である。Nuviaの買収は、QualcommがAppleのやり方をなぞって、Armの設計をより大きな、通常はx86を搭載したデバイスに拡張しようとすることを意味する。

大局的にはArmがQualcommを攻撃することは余りにも非合理的である。Qualcommは支配的な地位を誇るモバイル向けSoC市場で、Armのライセンスに深く依存している。そのQualcommがNuviaのArm設計を利用して、IntelとAMDのx86勢が優勢なノートパソコンとサーバーの市場に照準を合わせていた。Qualcommが自社アーキテクチャを使ってIntelの市場を奪おうとすることは、Armにとって好都合だったはずだ。

加えて、QualcommはArmを買収して中立化することを目指すコンソーシアムの旗振り役でもある。NVIDIAの買収が成立せず不安定な立場にあり続けているArmにとっては好ましいプレイヤーではなかっただろうか。また、Armの流動化を急いでいるように見えるソフトバンクグループ(SBG)にとっても、大小なりともArm株を取得しようとするQualcommは好ましい存在のように思える。

NvidiaによるArm買収の分かりやすい解説
Nvidia-Armの取引が認められた場合、スマホのエコシステムと学術機関が代替を探し始めるだろう。RISC-VはARMと同等の性能を持っていないため、業界は数年の間苦しむことになる。それでも、ARMが何年もかけて閉鎖的になっていく中で、RISC-Vをより良くする方法を見つける人が出てくることは間違いないはずだ。
半導体企業連合がArmをSBGから買収し中立化するシナリオ
半導体企業のコンソーシアム(共同企業体)がソフトバンクグループ(SBG)からArmを買収し中立化する可能性は否定できない。新規株式公開(IPO)の枯渇と景気後退観測は、SBGにIPO以外の選択肢を有望視させる可能性がある。

それどころか、今回の提訴は、QualcommのArm以外の選択肢への投資を促す効果があるかもしれない。Qualcommは競合する「RISC-V版Arm」とも言うべきSiFiveの6,540万ドルのシリーズD(2019年)に参加している。この出資は長期的にモバイルでRISC-Vを活用する可能性のための布石と取れるだろう。

カルフォルニア大学バークリー校のRISC-V開発メンバーが設立メンバーであるSiFiveは、インテルやサムスン等の大手半導体メーカーの出資を集めており、スイスに置かれた財団RISC-V Internationalと各ベンダーの関係の中で、中立的な立場の確立に成功していると言えるだろう。

実際、すでにRISC-Vベースで様々なチップが作られており、AI半導体のような技術スタックが深い分野でも、その応用が顕著である。

RISC-VベースのAIチップが台頭
ライセンスやカスタマイズが自由なRISC-Vは、多様な利用形態に対する低コストの半導体開発の機会を生み出した。コストの高いAIはその主要な応用先であり、雨後の筍のようにRISC-Vチップが誕生している。

Armは12月に規制当局に対して、「RISC-Vの勢いは加速している」と述べ、Armの命令セットの代わりに、既存のベンダーがこれを使うことが増えていることを明らかにした。現在、いくつかの新興企業がRISC-VベースのCPUコアを製造しているが、量産型のスマートフォンにはまだ採用されておらず、現在はすべてArmが採用されている。

Armがモバイルで蓄積してきた先行者優位は依然として大きなものだが、米中間の緊張によって、中国のベンダーは総じてRISC-Vの方向に向かっている。このRISC-Vによって下から突き上げられ、x86によって押し返されている厳しい事業環境の中で何らかのビジョンを打ち出さないといけない。SBGは、その掌の上にあるArmに付帯するコンテクストを本当に理解しているのだろうか?

RISC-Vは中国の国産チップ計画の救世主
RISC-Vが、中国が強力な国産チップを開発するための最善の策として浮上。RISC-Vサミットでは、多くの企業が「チップのLinux」とも呼ばれるRISC-VをベースにしたCPUを発表し、中国が勝者となった。

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